カテゴリ「アジア」に属する投稿[13件]

100分

 生殖機能を失った人類と、かつて労働力として産み出されるも人類とは離反して生活を送るようになったマリガン。未知のウイルスが蔓延した世界で人類はマリガンに希望を託すことになる。とはいえもはや完全に異なる生命体と社会が形成されており、上手く話が進むとも限らない。そこで調査員としてバートンが向かうことになったのだが、彼には特別な力も無く、前職もただのダンス講師で……。

 たまにCGアニメやクレイアニメといった少し毛並みの違う創作物に触れてみたくなることがある。ふとAmazonからのメルマガを見るとそこには本作の宣伝があり、ちょうど何か気分転換に観たいと思っていた私は再生ボタンをクリックしていた。その質感や表現は私の欲求を十分に満たすものであった。しかし物足りなかったのも事実である。

 本作の舞台は遠い未来で、人類はすっかり変わってしまっている。その姿は人類というよりもアンドロイドに近く、人類だったものが人類のような外見を保つために身なりを整え、人並みな生活を送っているとでも言った方がいいだろう。対して人工生命体であったマリガンの方がやや原始的ではあるものの、人らしいといえる。

 人類代表のバートンがマリガンとどう対立するのか、どうやって同じ道を歩んでいくのか――という展開はなく、うっかり記憶喪失になったバートンがマリガンに助けられるという内容になっていた。そこには人間らしさとはなにかというテーマが描かれているような気もする。ただ個人的に望んでいた展開ではなかったのが残念だった。

 主人公の設定も現時点ではあまり生かされておらず、物語の序章を終えたばかりという印象が強い。三部作の第一章と書かれていたのだが、本作に7年かけているらしい。果たして後何年待てば完結するのだろうか。使い回しに出来る資産が増えたとしても、撮影の手間を考えるとせいぜい1年か2年短縮できるだけなんじゃなかろうか。

 完結してからだと様々な伏線や設定の活用も見られるのかもしれない。だが現時点では雰囲気はいいが未完成な作品である。造形やスプラッターは好みだったが、そこまでの驚きはなかった。続編次第ではおすすめだと言える魅力もある。『カクレンボ』のような映画であり、『Cat Shit One』のようなエンタメ要素がもっと欲しかった。

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124分

 現代と近いのか、それとも遙か遠い未来なのかも判別の付かない世界。世界中が発展と荒廃の渦に飲み込まれているサイバーパンク色の強い舞台で、少年らが暴れ回っていた。彼らはせいぜい名の知れた集団で終わるはずだったのだが、何者かの描いた筋書きによって大きな渦に巻き込まれ、その中心の渦そのものへと変化していく……。

 アニメ映画はあまり観る機会が無い。それでも少しは観ており、その中には『パプリカ』が含まれる。キャラクターや構成は当然違うものの、どうしても所々でそちらの方と比較してしまうのが難点であった。どちらも共通して言えるのは、明確な答えらしい答えはないというものだ。各々の解釈によってどうとでも捉えられる作品であり、これはこうだと断定するのは非常に難しい。

 更に言えば原画の田中達之がデザインを担当したゲームの『リンダキューブ』が好き(だが自分の手でクリアはしきれなかった)なせいか、リンダキューブの世界であった出来事のように思ってしまうという問題も発生した。アニメ自体には何の罪もない。ただ私が映画を観るまでに得た知識や記憶といったものが純粋に作品を楽しむ機会を奪っていたのである。

 内容はサイバーパンクや世紀末らしいものであり、鮮明な他人の夢を横から覗き見ているような印象が強い。よく分からない何かが起きて、それに右往左往しながら手に負えない大きなものと衝突する。ありがちといえばありがちで、王道といえば王道だろう。そこに精神世界であったり化け物であったりといった要素がうまく絡み合った映画だ。

 最後まで退屈せずに観ていられたのだから、面白かったのだとは思う。ただどこがどう面白かったのかと聞かれても困る。語彙が一切感じられない残念な表現で申し訳ないのだが、「なんか面白かった」としか言えないのである。ただ個人的にまた観たいかというと微妙だ。自分で設定を練るのが好きな人や、考察が好きな人には素晴らしい映画にもなり得るのかもしれない。

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125分

 家族で引っ越し先へと向かう車の中で、千尋は不満げな表情を浮かべていた。人生で初めて貰った花束。それはとても嬉しかったのだが、引っ越しでお別れになってしまうからという理由で貰ったことが不満だったのだ。引っ越したくもなかったのに引っ越す羽目にもなれば、不満を抱えてしまうのも仕方ない。それでいて両親はやけに好奇心旺盛で、ふと目に入った古い建築物に興味を示してしまう。まさかそれが冒険の始まりになるとも知らずに……。

 これまた少し前にあった、大勢の人が観ている割に観ていなかった映画。様々なメディアで何度も目にしている人も多いだろうが、それでもネタバレに配慮したレビューをする。ついでに評価も先に書いておこう。名作だ。好き嫌いはあるだろうが、これを駄作だの迷作だのという人はそう居ないと思う。日本人による日本を舞台にした日本らしいファンタジー。少女の成長と冒険も描かれており、よくできたアニメである。

 作中の登場人物で常識度ランキングのようなものを実施すれば、千尋の両親はきっと下の方に居るだろう。二人はなかなかにクレイジーで自由だ。よくこんな両親から千尋のような子が育ったものだと驚く。といっても千尋がまともかといえば少し疑問も残る。一言で言えば両親は食欲旺盛な豚だ。食材に大人を刺激する香りや味が含まれていたのかもしれないが、それでもまともな大人は無許可で料理に手を出さない。

 そんな両親の食欲だけは継いでしまったのか、千尋も得体の知れないものを食べようとする辺り片鱗がある。よく分からないものを手にして、それはきっとなんだかよく分からないけど良いものだと思える頭も凄まじい。だが千尋は子供である。大人ほど経験もなく、直感を重視してしまうことだってあるだろう。その点を踏まえても団子を喰らい、喰らわせるというパワープレイは両親に負けないクレイジーっぷりだ。

 そして本編はもちろん、サイドストーリーも魅力的だ。素人童貞が初めての風俗で嬢に優しくされて、貢ごうとする。しかしなかなか喜んでもらえずどうしたものかと悩む。ついには他の従業員に当たり散らして嬢にまで怒りをぶつける。しかし嬢は偽りの優しさをみせずに心から向き合う。その結果、素人童貞はオタクには優しいギャルから必要とされて、自分の生き甲斐を見つける。実にいい話だ。これは単なる比喩だが、大体は合っている。

 最後の最後で酷い比喩を書いてしまったが、終始楽しむことが出来た。なんとなく『いのちの名前』はいつどこで流れるんだろうと思っていたら最後まで流れなかったのが残念だが、元々歌詞はないもので作品を彩るテーマソングとのことで納得した。個人的には『いつも何度でも』よりも好きなだけに勿体ないと思いもしたが、随所でこちらが流れても違和感が強そうだ。今さらだが、観ていない人には是非観て欲しい作品である。

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原題:범죄도시
121分

 韓国には元々韓国系ヤクザと警察が程々の距離感を持って存在していた。大きな事件を起こそうものなら遠慮無く逮捕もするが、些細な事件(街中で刃物を振り回したり暴行事件を起こしたり)程度ならそこまでには至らない。しかしそこに中国からのマフィアが加わり、均衡を保っていた都市が血に染まっていく。しかし警察も黙ってはいられない。恐ろしく強いマ・ソクトが頭も力もフルに活用しながら前線に立って意地を見せるのだった。

 韓国映画の強いオッサンといえばもうお馴染みのマ・ドンソクが主演。それだけでも個人的には興味をそそられるが、更にクライム映画ということで期待値はピークに。悪役の見た目がとあるYouTuberに似ているのが気になったものの、パラメータを悪に振ったらこんな感じだろうなという納得もあり、途中からはそこまで意識しなくなっていた。とはいえ見た目が似ているという印象は変わらず、ふとした拍子で現実に戻ってしまっていた。

 ヤクザとマフィアの抗争にちょこちょこ首を挟む警察といったシーンばかりで、警察側の派手なアクションシーンは思いのほか少ない。それでも重要な場面では圧倒的なパワーで悪役を懲らしめるのだから一定の満足感は得られる。しかし知能犯は一切出て来ないせいか、意外な展開というものを楽しむ余地は少ない。騒ぎが起きてからそこに出向き、アクションが始まる。ほぼ全てのシーンがそれで説明が付くのはワンパターンとも言える。

 ただ元々そんな映画になりそうな気がしていたのか、それとも最初からそうしたかったのかは分からないが、本作には所々で観客を笑わせようとするシーンが含まれている。個人的には黙々とラーメンを食べるシーンがシュールで良かったが、硬派な映画を期待していたらがっかりするかもしれない。犯罪メインというよりはアクションに犯罪が付いたような作品で、とりあえず強い主人公が見たいって人にはおすすめの映画だろう。

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原題:챔피언
108分

 遠い異国でマークは用心棒として働いていた。ある日、彼がかつては腕相撲のチャンピオンを目指していたことを知る男――ジンギがクラブ内の腕相撲に参加するよう迫る。その腕相撲は賭け事の対象であり、取り仕切っている人物はマークの雇い主でもある。ここは空気を読んで負けるべきだがマークは勝利し、仕事を失ってしまうのだった。

 転職を余儀なくされたオッサン(マ・ドンソク)が祖国に帰って腕相撲をする。一言で言えばそれだけのストーリーだが、ベタベタな王道ストーリーが見事にはまっている。ぶっちゃけるとマ・ドンソクのアクションが見たいという動機だけで本作を選んだ。ところが思いのほか良かった。真新しさはなく意表を衝く展開もない。だが楽しめた。

 随所に挟まれるコメディ自体はそこまで面白くない。爆笑とまではいかず、ああここは笑いを取る場面なんだなと分かりやすく、息抜きができるようなものばかりだ。マ・ドンソクのアクション要素自体は控えめで少しがっかりしたものの、普段いかついオッサンが見せる笑みや楽しそうな表情を味わえるのはいい。彼だって怪物ではなく人なのだ。

 お涙頂戴とまではいかない家族愛にコメディとスポ根。それぞれがバランスよく組み合わさっており、くどさとしつこさのないちょうどいい映画に仕上がっている。主役だけではなく脇役もキャラが立っており、大物と小物の比較を楽しむのもまた一興か。本気に見えないだろうが、本作はスポ根と可愛いオッサンが見たい人にオススメしたい。

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96分

 チープなゾンビ映画を撮る集団が撮影をしていると、なんと本物のゾンビと遭遇してしまう。カメラマンはカメラを置くこともなく、監督の意向に沿ってカメラを回し続けるのだが、次々と被害者は増えていくのだった……。

 かなり今さらな気はするものの、一昔前の話題作を遂に観てしまった。低予算インディーズ映画でありながらも大きな話題となり、予算の100倍を超える興行収入を得たというのだから恐れ入る。仕掛けは単純でジャンルとしてはゾンビというよりはファミリー映画。感動とまではいかないが家族愛を感じられる……要素がある。

 ただ正直に言えば映画としての面白さは微妙だった。裏でのやり取りが分かりやすすぎたのと、本編を含めて全体的にチープすぎたのが合わなかった。彼らが次の指示を待っていると分かるシーンが多ければ多いほど劇中劇の作り物感は増す。しかしプロフェッショナルらしさは減ってしまい、いくらなんでも対応力不足では? と思ってしまう。お芝居を見せるお芝居を見せられているというややこしさが戸惑いを生む。

 彼らはこういうものを作ろうとしています。そうして出来上がったのがこちらの作品です――という流れ自体には何の不満もない。ただ先述した通りチープすぎた。意図的に分かりやすく、そこかしこにヒントをばら撒いている。こういった作品の入門用とでもいうか、子供向け作品のような極端にシンプルな作りと過剰な演出が重なり、B級映画ファンとA級映画ファンの両方を遠ざけているように感じてしまうのだ。

 なんかおかしいな、で留めていれば驚きや納得もあっただろう。馬鹿らしさに突っ切ったせいかもしれないが、観客を驚かせたいのか家族を描きたいのかテーマを絞って欲しかった。それでも本作はヒットしたし、面白かったという声も多い。納得していない者も多いが、それはこの作品の何を見ているのかにも寄るのだろう。

 面白い映画を観たいという者からすれば、本作は微妙だろう。ソンビもパニックも作り物。人によっては耐えられないほどの退屈な時間を抜け出したかと思えば映画の裏側。ここでそうなっていたのか、と初めて気付いて驚く楽しみもあるかもしれない。やはりそういう裏事情があったのか、と確信して楽しむのもアリだろう。けれどもそれは最初のチープな映画自体に興味を持てないといけない。ここが最初で最後の難関だ。

 ちなみに私は『the FEAR』という古いゲームを思い出しながら映画を観ていた。そのゲームでは番組撮影のカメラマンとして主人公を操作し、ハプニングに巻き込まれる。そちらもなかなかチープ感が強いものの、恐ろしいことに驚くような仕掛けはない。カメラは止まらず、現実離れした出来事と遭遇して悲惨な目に遭う。それはそれは凄い仕上がりなのだが……これはこれとして楽しめた。さて、この違いはなんだろうか。

 私が思うにこの映画は娯楽を追求しすぎたのだ。一方で先述したゲームはゲームとしての楽しみをある程度理解していた。可愛いタレントとちょっとした謎にホラー。映画監督役の彼ではないが、顧客が望むそこそこのラインを維持していたのだ。「これはこういう娯楽映画だ!」とごり押しされて受け入れられる人なら面白い。「ゾンビは?」「話題になってた要素はこれ?」と別方向に期待してしまっていた人には物足りない。

 だらだらとよく分からないことをうだうだ書いてしまったが、決して面白くないわけではない。上質なホラー映画を観たい気分の時に上質なミステリー映画を観てしまったようなものだ。悪くはないが、これじゃない。ただこういった映画が大衆に受けるというのは素晴らしいことだと思う。作り上げる楽しみと感情の共有。それが面白いという感想に繋がるのだとすれば、大勢と創作の楽しみもわかり合えるのだ。

 普段映画を観ないで、文化祭で盛り上がるのが好きだという人にはおすすめだろう。

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原題:장화, 홍련
115分

 スミとスヨンの姉妹が家に着いたところから物語は始まる。継母のウンジュは冗談交じりに美しく優しく接するのだが、何が気に入らないのか彼女らは殆ど無視ともいえる行動をとってしまう。当然ウンジュは気を悪くするが、それでも2人にあたろうとはせずに優しく振る舞う。どうして彼女は嫌われているのか。再婚が気に入らないのか。そんな謎を残したまま、家の中では原因不明の怪奇現象が起こり始めるのだった。

 それまでと違った環境に怪奇現象。ここまで聞くとトビー・フーパー監督の『ポルターガイスト』を想像しそうなものだが、あそこまでおかしな出来事はそう多くない。序盤では継母との確執や怪奇現象が目立ってはいるが、徐々に恐怖の質が変化していく。インパクトのある見た目や演出で驚かすホラーはなりを潜め、その家と姉妹の抱える闇がその世界を黒く塗り潰していくのだ。

 新しい家族が増えるともなれば反発する気持ちもあるだろう。しかし彼女はどうしてこうも毛嫌いするのか。彼女が何故箪笥を嫌うのか。そういった疑問が膨らむにつれて映画も物語の核へと踏み込んでいく。かなり内容は脚色されているらしいが、元々は古典的な怪談だという本作。怪談というからにはそれなりの恐ろしさや悍ましさを期待してはいたが、本作はその期待を見事に裏切ってくれた。

 いざ見終わってみれば仕組みは単純でかなり分かりやすい構造をしている。強いて言えば作中では部外者に当たる夫婦が見たものは何だったのか、終盤で目にする物語の起点とも言える箪笥の中身は本物だったのかという疑問は残る。しかしこれはホラーである。ミステリーやサスペンスではない。ある程度の整合性があれば謎を残していても許される。ラストカットは止めなくてよかった気もするが、あれはあれで不気味さや後悔といったものを演出しているのだろう。だが間違いなく丁寧に作り込まれた良い映画だった。

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原題:기생충
132分

 その一家は半地下のアパートに住み、堕落しきった生活を送っていた。金もないのに内職の収入しかなく、煙草や酒を買うろくでもない日々だ。けれどもある日、ギウの友人で名門大学に通うミニョクが現れて家庭教師の仕事を紹介してくれる。採用されたギウは会話の中で家族のギジョンを紹介し、そのギジョンは父のギテク、ギテクは妻のチュンスク……といったように身分を偽って数珠繋ぎで家族全員が終結していくのであった。

 嘘で塗り固められた一家が金持ち一家にしがみつき、豊かな生活を送る。その様は正にパラサイトであり、よくもまあここまでやれるものだと思う。韓国映画には利益の為なら何でもやるような凄まじい人物が割と多い。その中でも凄まじさを煮詰めた人々が集結しており、彼らの姿を見ているからこそ終盤の展開や結末にも納得できる。1人だけかわいそうな気もしたが、悲惨な目に遭わせてしまうのも特有の展開といえよう。

 やっていることは非道で非常。どんな目に遭おうが因果応報ではあるのだが、所々で人間性が見え隠れているせいか比較的善人でも悪人に見える時はあり、反対に悪人が善人……または被害者のように見える機会もある。こうなっても仕方ないと思う反面で、ここまでいくのはどうだろうと味方になってやりたくもなるのだ。だがまあ近付きたくはないし、これはあくまでも傍観者としての見解に過ぎないだろう。

 実際に見て一番に思ったのは、人間のいやらしさがよく出ているといったところだろうか。前評判やそれまでのイメージ(とりわけ日本版の映画ポスター)から想像していた内容とは少し違った。てっきり最初から最後まで地下生活を送る一家の物語だと思っていたのだ。冒頭でいきなり出鼻をくじかれてしまったわけだが、起承転結をしっかり描こうとすれば避けられないのも事実。あれは回想で描いても地味で退屈だ。

 いつも通り洋画を観るつもりで映画を漁っていて、ついうっかりNetflixに追加されていたからなんとなく観てしまったが、思いのほか悪くなかった。ぶっちゃけた話をすると、数々の受賞歴も信用していなかったのだ。唐揚げやモン何とかセレクション、吹奏楽部の金賞並に一定水準を満たしたものを評価するものと同等に考えていた。その考えを良い意味で裏切ってくれて、時間を割くだけの価値はあったと思わせてくれた。

 ……とまあ、ここまでは割と良い部分について語ってみた。しかし個人的に名作ではない。思っていたよりは良かったが、そこで評価は止まっている。色々とご都合主義な面もあり、説明不足に感じる部分もあった。そしてなによりも展開が分かりやすすぎた。蛇口を捻れば水道水が流れ、コップに入らなくなれば溢れる。自然の摂理をそのまま表現したシンプルなストーリーが合わなければ迷作にもなりうる一本だろう。

1193文字 編集

原題:내가 살인범이다
119分

 チェ・ヒョングは連続殺人犯の事件を捜査していたが、危うく殺人犯に殺されかける。しかし命までは奪われずに、その恐ろしさと強かさを宣伝する広告塔として生かされることとなる。それから17年の月日が流れ、ある日真犯人を名乗る男がメディアに姿を現して事件内容を赤裸々に描いた本を出版するという。当然ヒョングは画面に映る男を睨み付けるが既に事件は時効を迎えており、彼を逮捕することは不可能だった……。

 チョン・ジェヨンが演じる野性的でワイルドな刑事のヒョングと、パク・シフのクールで謎めいた姿が対照的な殺人犯のイ・ドゥソク。2人のやりとりが主軸であり、どちらかの性格や外見が合わなければ恐らく映画自体もいまいち楽しめないだろう。個人的には本作のジェヨンが昔働いていた会社の社長にそっくりで、「社長すげえ!」「社長強い!」と変な感覚を抱きながら観ていた。そういえばあの社長も酒浸りだったなあ。

 ちなみにこの映画、韓国で実際にあった未解決事件からインスピレーションを得ている。その事件を題材にした他の映画としては『殺人の追憶』というものがあり、こちらも気になってはいるが観ていない。他にも本作をリメイクした邦画に『22年目の告白 -私が殺人犯です-』もある。評判は悪くないが、リメイクということでどちらかを見たらどちらかを純粋に楽しめなくなる。残念ながら邦画は観ないまま終わるだろう。

 それでは感想に戻ろう。はっきり言うと最初は単なる刑事の復讐劇と思っていた。しかしそれぞれの思惑やストーリーが絡み合って深みのある展開が待っており、想像以上に丁寧な脚本を楽しめた。随所に入るアクションもそれなりに見応えがあり、コメディ要素は良くも悪くも印象的だった。『コンジアム 』でつのった不信感を払拭するだけの力はある。それに『新感染 ファイナル・エクスプレス』よりは人に勧めやすい。

 余談だが社長に似ているという私の感想は共感を得られないだろうが、真犯人を名乗る人物の姿がお笑い芸人の誰かさんに似ているという感想は共感を得るかもしれない。途中まではぎりぎり別人に見えていたのだが、生物としての気持ち悪さが強く出始めると髪型と表情が気になり始め、私もラッセンが好きだと余計なことを口走りそうになった。癖の強い女学生もタンポポを思い出してしまい、妙な気持ちになる。

 アジア映画だから日本人の誰かに似ているという感想を抱いてしまうのが欠点ではあるが、映画そのものは純粋にエンタメとして、サスペンスとしてもしっかり楽しめる。思いのほかアクションが多く、引きでピンボケ気味に写せばいいものをしっかり写すせいで違和感の目立つ3DCGも気になるが、そこはもう目を瞑るしかない。どんな駆け引きを経てどう結末を迎えるのか。その一点に集中しよう。

1185文字 編集

原題:The Foreigner
110分

 テロに巻き込まれて娘を失ってしまった中華料理店の経営者クァン。彼は首謀者への復讐を考え、名前を知りたがる。しかしそう簡単に名前を教えてもらえるはずもなく、クァンの行動は過激になっていく。観客も途中から明らかに普通じゃないと気付き始め、なんだこの老人は……と思い始めたところで正体を知る。ネタバレではあるが、彼がただの経営者だとは思えないだろうから書いてしまおう。クァンは元工作員だったのだ。

 ここまで書いてしまえば映画好きなら想像できる通り、クァンは年齢を感じさせない身体能力と知識で恐ろしいほどの行動力を発揮する。テロの首謀者が誰なのか。クァンはこのままどこまで暴走してしまうのか。彼がやられてしまう展開は一切想像できないまま、物語は複雑そうに見せて意外にもシンプルな構造のまま進行していく。

 色々と捻ってはいるものの、アクション映画の枠からは出ないまま本作は終わる。何らかのはっきりした結末を求めている者には物足りないまま幕を閉じてしまうので、消化不良だのなんだのと文句を言いたくもなるかもしれない。007シリーズで知られるピアース・ブロスナンと、アジアのアクション映画では説明不要のジャッキー・チェン。彼らの演技を楽しむのが本作の醍醐味ではないだろうか。残念ながらアクション要素はジャッキー・チェンにしかないが……。

 ちなみに本作で登場する組織や名称等には実在するものがあり、恐らくはそういった歴史的背景を知っていれば更に深く楽しめるだろう。とはいえそこまでの知識がない私でもアクション映画として楽しめたのだから、わざわざ調べて知識を身につける必要もない。どちらかの俳優が好きで、アクションが観たい。そんな理由でもいいから、気負わず楽しんで欲しい一本だ。

773文字 編集

原題:The Last Emperor
163分

 清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀がどんな生き方をしたのか。また、どう去って行ったのか。壮大な歴史を壮大なスケールで描いた歴史映画。とはいえ歴史をそのまま表現したノンフィクションではなく、映画としての魅力が増す為の創作が随所に練り込まれている。どこがどう脚色されているのかは歴史に明るくなければ分かりにくいだろう。しかし登場人物が終始英語を話しているというのはどうも違和感が強く、なんとも複雑な心境になってしまう。これといって派手などんでん返しや演出も少なく、ただただ壮大で偉大な世界観に圧倒される。どこがどう面白いと伝えるのは難しいが、もし誰かに勧めるとしたら「とにかく凄い」の一言に尽きる。

330文字 編集

114分

 ちょっとした切り傷や擦り傷程度であれば、大抵の人は軽く水洗いをして放置することも多い。しかし運が悪いと細菌に感染してしまう場合もある。身近にあって死亡率も高い破傷風。この感染症の恐怖を教えてくれるのがこの作品だ。映画を通して観れば、確かに恐ろしさも人間の弱さも描かれている。ところがホラー要素を重視しすぎたのか、色々と理不尽な(あるいはご都合主義とでもいうか)描写も見受けられる。ストレスによるパニックを表現するための発狂は問題ないが、破傷風の患者をあの病室に入れるのは意味が分からない。誰も破傷風について詳しくないという想定で撮られていれば、そういう時代だったのかもしれないとは理解できる。けれども作中で音と光に対する影響が語られている以上、納得できる者は居やしないだろう。驚くような展開はなく、先述した通りで粗もある。それでも視聴者を引き込む力はあり、機会があれば観て欲しい一本だ。

405文字 編集

原題:곤지암
94分

 曰く付きの精神病院跡地で生配信をして視聴者数を稼ごう! という現代ならではのストーリー。もちろん彼らは怪奇現象に襲われる。怖いか怖くないかと言われたら確かに怖い。しかし残念ながらどれもこれも予定調和のままで、よく言えば王道的な展開。悪く言えばありきたりな展開が続く。せっかくのPOV形式も生配信というスタイルも味付け程度にしかなっておらず、色々と勿体ない。展開としてのホラー要素は物足りないが、SEや視覚的なホラー要素は強い。

232文字 編集

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説明

 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

 レビューを書き始める前に観た映画の一部リストはこちら。好みの参考にどうぞ。趣味が合う人は名作を、趣味が合わない人は迷作をチェックすると好きな映画が見つかるかもしれません。

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