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原題:Looper
119分

 あらすじ(この場合は内容の全体像ではなく、冒頭に触れるものとして扱う)というものは重要である。それがどんな作品なのかを判断する大切なポイントで、あらすじの時点で気にならない作品を手に取る者は居ないだろう。この作品を見ようと思ったキッカケは間違いなくあらすじだが、どうもあらすじの表現が過剰演出だったように感じる。それだけ私は落胆したのだ。

 未来にはタイムマシンがある。犯罪組織はタイムマシンを悪用して、標的を過去に送り込んでルーパーという暗殺者たちに殺させる。ルーパーには任期のようなものがあり、最後は自分で未来の自分を殺さなくてはならない。主人公であるジョーにも未来の自分を殺す日が訪れてしまい、殺し損ねてしまう……という一連の流れが物語の動き出すターニングポイントである。

 短くまとめてしまえば、ついに自分を殺す日が来たけど動揺して逃しちゃった。うむ、なんて情けない説明だろうか。確かにあらすじで表現を盛りたがる気持ちもわかる。しかしそのあらすじで私は、「これは近未来を舞台にしたサスペンス・アクションか?」と思ってしまった。ところが蓋を開けてみればサスペンス要素はかけらもなかった。

 映画自体は分かりやすく適度に面白いとは思う。ただ色々と気になる点もある。タイムマシンを悪用するにしても、わざわざ本人を送り込んで過去の暗殺者に始末させ、わざわざ大金を払うのはどうなのか。幼い本人を直接その時代で殺すよりはいいとはいえ……なにか他に良い方法はないのか。他にもっと便利な道具は出来ていないのか? 暗殺が雑じゃないか?

 ハードSFを好むガチガチのSFファンがターゲットではないのだろうが、軽いSFにしたってもう少し説得力や科学っぽさを見せて欲しかった気はする。深く考えず、ちょっと変わったアクション映画として見ればある程度は楽しめるだろう。決してタイムマシンやSFといった言葉、あらすじに期待しすぎてはいけない。B級映画と思って楽しもう。

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原題:Inception
148分

 夢には突拍子もなく奇妙な展開を見せる荒唐無稽なものから、いやに落ち着いていてそれが現実ではないかと錯覚するようなものまであり、夢か現実かをはっきりと自覚するのは難しいだろう。夢の中で夢と気付き、自由に動き回る明晰夢というものもあるが、この映画ではその明晰夢をより複雑に、自在に扱えるようにしたような潜在意識の世界を舞台とする。もっと簡単に言えば、頭の中でディカプリオが好き勝手に動き回る話だ。

 ディカプリオ演じるコブは産業スパイである。といっても現実で会社に忍び込んで情報を盗むのではなく、好みの異性を送り込んで傀儡にしてしまうというものでもない。特殊な技術を用いて脳内へと入り込み、頭の中で情報を得たり植え付けたりしてしまうのだ。潜在意識の中でそうした操作が加えられたとしても、大半の人物は気付くはずもない。無意識のままに情報を漏らしてしまい、意図的な行動を無意識のままにとってしまうのだ。

 しかし今回の相手はそう単純ではなかった。色々と手を打ったにも関わらず、コブ自身の問題もあり失敗してしまう。そこでどう対処していくのかという流れになるわけだが……これがまた地味にややこしい。夢は多層構造になっているという設定だけでも参るが、そこに時系列の問題まで絡み、何が何やら分からないままに終わってしまったという者も居るだろう。だが、それでも映画自体は面白く感じたという者はもう一度最初から映画を見直して欲しい。

 順を追って疑問点を解決していけばそこまで難しくもないだろう。冒頭とラストの共通点は何か。どこからどこまでが何層での出来事か。その世界は何だったのか。夢か、それとも現実か。明確な答えはないが想像する余地ならいくらでもある。考察が好きだという方はぜひ一度、いや、二度三度と目を通してもらいたい。ちなみに某百科事典にはクソみたいな粗筋が載っている。ストーリーが気になってもそちらは見ない方がいいだろう。

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原題:Blade Runner 2049
163分

 映画やSFが好きな者であれば、きっと『ブレードランナー』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というタイトルを知っているだろう。本作は『ブレードランナー』の正当な続編であり、前作に出演した俳優も登場する。ファンからすれば続きを楽しめるだけでも嬉しいものだろう。映画自体が丁寧に作られており、ちゃんとした内容の正当な続編ともなれば当然評価も高くなりやすい。しかし30年以上の月日は長かった。

 私も前作は観ており、原作も読んでいる。好きか嫌いかと問われれば好きだと言おう。あまりSFを積極的に嗜む方ではないが、それでも名作と聞かされたら興味を抱く。前作を楽しんで、今作も楽しんだ。だが、正直に言おう。既に前作の知識はほぼ失われている。ぼんやりと浮かび上がる蜃気楼のような記憶をたよりにストーリーの繋がりを考え、これはどういうものだったかとたまに困惑しながら観てしまった。

 映画自体は面白く、わざわざ前作を見直さなくとも本作だけで楽しめる。前作を見て、より理解を深めてからだと更に楽しめるだろう。問題は私のように、中途半端な記憶がある者だ。妙な先入観と記憶が邪魔をしてしまい、せっかくのエンターテインメントを台無しにしてしまう。前作を映画館で観たわけではないが、それにしたって観たのは随分と前だ。いっそ記憶がなければ、それか見直していれば純粋に楽しめていたに違いない。

 本作は期待も大きかった分、色々と力を入れている。関連した短編作品が3本も作られており、現在もYouTubeで視聴可能である。時系列順でまずは『ブレードランナー ブラックアウト2022』を観てから、『2036: ネクサス・ドーン』『2048: ノーウェア・トゥ・ラン』と続けて観るとより楽しめるだろう。本編を観る前に映画1本、短編作品を3本も観るのはなかなかにハードルは高いが、映画を全力で楽しみたい者は観ておいた方がいい。

 もはや映画そのものではなく前作や関連作の話題ばかりになってしまったが、興味を抱いた者からすれば期待通りの内容を楽しめる。ロボットやアンドロイド、近未来といったものが好きであれば見る価値がある。別に興味がなくともアクション映画を求めている者にもマッチしている。ついでに言えばアナ・デ・アルマスは可愛く、シルヴィア・フークスは美しい。好みの女優目当てに観てみるのもいいかもしれない。

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原題:Peppermint
102分

 ライリー・ノースには大切な家族が居た。金持ちの主婦からは馬鹿にされ、娘の誕生日パーティーを台無しにもされた。けれどもめげず、家族で楽しもうと外出する。それは確かに楽しい時間で、後になって振り返ればきっと良い思い出になる。誰もがそう思っていたが、幸せなひと時は麻薬密売組織の襲撃によって打ち砕かれてしまうのだった……。

 この作品の主人公は主婦だ。とびきり優秀な外交官 ですらない。そんな主婦が生き残り、復讐を決意することで物語が始まる。しかし彼女はいきなり復讐を実行するのではなく、確実に復讐を完遂することを考えて自らを鍛え上げた。5年もの月日は彼女を優秀なソルジャーへと鍛え上げ、恐ろしいまでの強さを発揮していく。

 少しは危険な目にも遭うが、彼女が桁外れに強いおかげで緊張感は特にない。安心して見ていられるアクション映画と言えるだろう。それもそのはず、監督はピエール・モレルなのだ。リーアム・ニーソンが敵を圧倒する『96時間 』の監督と考えれば、主人公が強くとも違和感はない。むしろ弱い方が強い違和感と動揺を誘うだろう。

 ジャンルとしてはスリラー映画、またはスリラーかつアクションらしいがスリラー要素はほぼ無い。最初から最後まで分かりやすく大味なアクション映画だ。一体誰が内通者でライリーは大丈夫なのか? とはらはらさせてくれたらよかったのだが、内通者として疑える候補がそもそも少なく、ライリーは極端に強すぎた。

 映画に小難しい説明はいらない。面白ければそれでいい、という方には十分楽しめる作品だとは思う。復讐劇のアクション映画としては名作だと言う方も中には居るだろう。ただ個人的にはいくら鍛えたとはいえ、ただの主婦がここまで強くなれるのかと気になる。ついでに強くなるまでの描写が薄く、説得力は正直弱い。

 平凡な主婦から強靭な女戦士へと変化するライリーを演じたのはジェニファー・ガーナー。特に何の意識もせずにこちらの映画を観たのだが、奇しくも昨日レビューした『ザ・コンサルタント 』で主役を演じたベン・アフレックの元奥さんである。いっそのこと二人が互いに親権を争うアクション映画を観てみたいと思うのは悪趣味だろうか。

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原題:기생충
132分

 その一家は半地下のアパートに住み、堕落しきった生活を送っていた。金もないのに内職の収入しかなく、煙草や酒を買うろくでもない日々だ。けれどもある日、ギウの友人で名門大学に通うミニョクが現れて家庭教師の仕事を紹介してくれる。採用されたギウは会話の中で家族のギジョンを紹介し、そのギジョンは父のギテク、ギテクは妻のチュンスク……といったように身分を偽って数珠繋ぎで家族全員が終結していくのであった。

 嘘で塗り固められた一家が金持ち一家にしがみつき、豊かな生活を送る。その様は正にパラサイトであり、よくもまあここまでやれるものだと思う。韓国映画には利益の為なら何でもやるような凄まじい人物が割と多い。その中でも凄まじさを煮詰めた人々が集結しており、彼らの姿を見ているからこそ終盤の展開や結末にも納得できる。1人だけかわいそうな気もしたが、悲惨な目に遭わせてしまうのも特有の展開といえよう。

 やっていることは非道で非常。どんな目に遭おうが因果応報ではあるのだが、所々で人間性が見え隠れているせいか比較的善人でも悪人に見える時はあり、反対に悪人が善人……または被害者のように見える機会もある。こうなっても仕方ないと思う反面で、ここまでいくのはどうだろうと味方になってやりたくもなるのだ。だがまあ近付きたくはないし、これはあくまでも傍観者としての見解に過ぎないだろう。

 実際に見て一番に思ったのは、人間のいやらしさがよく出ているといったところだろうか。前評判やそれまでのイメージ(とりわけ日本版の映画ポスター)から想像していた内容とは少し違った。てっきり最初から最後まで地下生活を送る一家の物語だと思っていたのだ。冒頭でいきなり出鼻をくじかれてしまったわけだが、起承転結をしっかり描こうとすれば避けられないのも事実。あれは回想で描いても地味で退屈だ。

 いつも通り洋画を観るつもりで映画を漁っていて、ついうっかりNetflixに追加されていたからなんとなく観てしまったが、思いのほか悪くなかった。ぶっちゃけた話をすると、数々の受賞歴も信用していなかったのだ。唐揚げやモン何とかセレクション、吹奏楽部の金賞並に一定水準を満たしたものを評価するものと同等に考えていた。その考えを良い意味で裏切ってくれて、時間を割くだけの価値はあったと思わせてくれた。

 ……とまあ、ここまでは割と良い部分について語ってみた。しかし個人的に名作ではない。思っていたよりは良かったが、そこで評価は止まっている。色々とご都合主義な面もあり、説明不足に感じる部分もあった。そしてなによりも展開が分かりやすすぎた。蛇口を捻れば水道水が流れ、コップに入らなくなれば溢れる。自然の摂理をそのまま表現したシンプルなストーリーが合わなければ迷作にもなりうる一本だろう。

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原題:The Lost Weekend
101分

 売れない小説家のドン・バーナムは重度のアルコール中毒だった。どうしても酒が呑みたいという理由で酒を窓の外に隠すほどだが、それも兄に見つかってしまう。兄と恋人は彼を心配しているのだが、彼は酒を呑めないストレスで苛立ってばかりいる。この物語は中毒症状の男がひたすら酒を求め、泥沼に沈み、道を踏み外す描写が続く。起承転結で言えば承のまま続き、静かな転換を迎えて結末へと繋がるのだ。

 最近はなるべくネタバレにならない範囲で少しばかり文字数の多い感想を心掛けていたものだが、この映画はあっさりした説明でもネタバレになってしまう。キーアイテムを触れればそれが全てに影響し、印象的な台詞がどこかへと続く。ビールでも呑まないとタイプ音も重く、さてどこをどう伝えたものかと悩んでしまう。

 アルコール中毒の症状が悪化していく過程と彼の静かな変化。時折入る回想と変わらない姿。人が駄目になっていく様子を描いた作品としては良いのかもしれないが、ひたすら悪路を突っ走っていく主人公を見ているのは辛くもある。作中の曲もおどろおどろしく、これはもはやホラーではなかろうか。

 この映画を楽しめる人は、様々な展開を思い描ける人だろう。ここでもし彼が酒を断っていたらという前提で未来を想像したり、ここまで悪化する前に彼女がなんとかできていたらと考えてみたり……しかしどれもこれも結局は酒である。要はこの作品にとって酒は切り離せず、主人公自体を代えるしかないのだ。なんとも哀れである。

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原題:Deadpool
108分

 末期癌で死を待つ身となってしまったウェイドは藁にもすがる思いで怪しい男に連絡をする。おかげで癌は寛解どころか完治し、おまけに信じられないほどの能力を手に入れる。それはあらゆる怪我をすぐに治してしまう能力だったが、代わりに醜い外見となってしまうのだった。ウェイドは赤い衣装で身を包み、自身の外見を変貌させた者への復讐を誓って武器を手に取った。

 普段はマーベルどころかアメコミ全般を観ないのだが、それでもやはり話題作や注目作ともなれば耳にも目にも入る。アクション映画そのものは好きで勧善懲悪だって悪くない。だが、マーベルはヒーローが多すぎる。ちゃんと観ようと思えば時系列順か公開順に目を通さなければ、細部での謎を残したまま見終わってしまうのである。

 それでも何かしらは見ておきたい。そう思った時にちょうど良かったのが、コメディ色の強い赤くて変態で自分勝手なデッドプールだった。実際に映画を視聴してみてその選択に間違いは無かったと確信した。彼は私が思うよりもコメディリリーフ色が強く、下ネタが多く、私利私欲で好き勝手に動き回ってくれた。それはもう素晴らしいくらいに。

 アクションも演出もカメラワークも何もかもが好み通りで、好きな映画だと言える。今年観た映画で何かオススメを聞かれたら、パリの恋人と答えるだろう。……パリ? デッドプールは? と思ったかもしれない。そこにももちろん意味はある。何も考えずに楽しむ映画としては満点だろう。血や欠損といった表現が苦手でなければだが。

 彼は王道から外れたヒーロー(本人はヒーローではないと言っているが)で、正に邪道と呼ばれる存在だろう。作中でも彼の暴れっぷりは十分に伝わっている。しかしストーリー自体は想像の範囲にすっぽり収まってしまう程度には王道だった。もっと最後の最後で自身が物語のキャラクターだと理解した強みを発揮して欲しかったのだ。

 どう足掻いても勝てない相手に絶望してみたり、脚本を書き換えてその存在自体を無かったことにしてみたり。私が彼に求めているのはヒーローらしくないヒーローを上回る存在、もはや映画監督そのものとして暗躍する姿だったのだ。そんな物足りなさは残るが、面白い映画ではあった。引き続き続編にも目を通してみようと思う。#[マーベルシリーズ] #[デッドプールシリーズ]

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原題:Deadpool 2
120分

 最愛の恋人と再会したウェイドは幸せな毎日を送っていた。しかし恋人のヴァネッサが殺されてしまい、自暴自棄になってしまう。しかし超人になってしまったせいで自殺を図るも死にきれず、コロッサスからはしつこく勧誘を受ける。X-MENに見習いとして参加した最初の任務ではミュータント孤児のラッセルと出会う。ラッセルのためにデッドプールとして好き勝手な振る舞いをしてしまうのだが……。

 幸せを掴んだかと思いきや不幸な世界へと転がり落ちてしまったデッドプールはどこか覇気が無く、前作と比べたら勢いがなかった。その代わりに運の良さと意外にも高い身体能力が目立つドミノが活躍していたように思う。前作の暴走ぶりが10だとすれば、本作はせいぜい6といったところだろう。終盤では暴走ぶりも見られるものの、そこまでの控えめな面が長く印象に強い。物足りないというやつだ。

 アクションはあって随所の演出もそれらしい。本人が言っていたようにファミリー向けの映画といったらいいのか、せっかく良い豆を使って苦く香り高い珈琲を淹れた後で安いミルクをどばどばと投入したようなものになっていた。それはそれで美味しいのかもしれないが、珈琲とカフェオレは別物の飲み物だ。きっとこのデッドプールを求めている者も居るのだろう。だがイレギュラーな存在を求めていた私は落胆した。

 ここまで文句ばかり並べ立ててしまったが、本作も個人的には好んでいる。アクションが見たい。スプラッターも見たい。ついでにジョークや下ネタもあれば娯楽としては良い。そんな私の欲求を詰め込んであった。ところが残念なことにその引き出しは鍵が掛かっていた。いや、奥で何かが突っかかっていただけという可能性も考えられる。とにかく良い題材は眠っていたが、引き出しきれずに仕舞われてしまった。惜しい作品である。#マーベルシリーズ #デッドプールシリーズ

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原題:Re-Animator
85分

 ハーバート・ウェストは非常に優秀な科学者である。どこでどうやってそんな知識や技術を身に付けたのかは不明だが、彼は死者を蘇生させる血清を作り上げてしまったのだ。もちろん彼を信じるのは難しく、ダンも信じてはいなかった。しかし実際に死体を蘇らせてしまう姿を見てしまい、ダンも興味を抱いてしまう。猫だけで済めばまだ良かったのだが、幸か不幸か彼らの身近にはいくつもの死体があり、実験には最適な環境が揃っていた。

 死んだ生物をもう一度生き返らせる。そんなファンタジーを題材にした本作はB級でありコメディでもある。けれどもジェフリー・コムズ演じるハーバート・ウェストには狂気と普通ではない雰囲気が出ており、馬鹿馬鹿しさと共に妙なリアリティが生まれている。きっと現実でマッドドクターのニュースが出る度に、私は彼の顔を思い浮かべてしまうのだろう。真面目そうでまともじゃないオーラを纏う不気味な笑顔を……。

 B級スプラッターとしては文句の付けようがない映画で、割と可愛い女優の裸体が出てくる辺りもそれらしい。しかしウェストは色々と勿体ない男だ。実験第一で物事が見えなくなるのは仕方ないが、彼にはイフを考える力が欠けていた。頭なら頭だけ、体なら体だけと実験対象は分けておくべきで、それぞれと真正面から向き合うべきだ。好奇心に負けて死体から目を背けてしまったばかりに苦労してしまった。

 本作はクトゥルフ神話で知られるラヴクラフトのホラー小説が題材となっているが、そちらには目を通していない。元々彼はどこか抜けている人物なのか、それとも映画の展開を考えるにあたって隙を作ってしまったのか。そこだけでも知りたいのだが、そのためだけに中途半端な巻からラヴクラフト全集を買うのも微妙だ。果たして彼は希代の天才か、または奇跡を起こした馬鹿か。しばらく悩みは尽きそうにない。#[死霊のしたたりシリーズ]

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原題:Bride of Re-Animator
96分

 ハーバート・ウェストとダンは戦地に赴き、治療をしつつ相変わらず実験を続けていた。そろそろ自分達の命も危ないというタイミングで帰国すると、彼らはまた同じようにいつもの場所でいつもの実験を再開する。今までは死体を蘇生するというテーマで活動していたウェストだが、死体を組み合わせて蘇生するというとんでもない実験まで行うようになり……。

 展開は前回同様で実験の成功と判断の過ちによる失敗を繰り返すもの。新鮮味は一切無いものの、彼らのおかしな行動はコミカルで笑える。基本的にはどの登場人物も目的を見失っているようで、どうしてそこでその行動を取ってしまうのかと思ってしまう。それにウエストはもう少し自分の性格を理解すべきだ。指の固まりにせよ詰めが甘い。

 序盤はおどろおどろしい気もするが終盤に向かうとコメディ色が強くなり、Happy Tree Friendsのような不条理でグロいギャグを見ている気分になる。実験がうまくいくのかどうかという観点では見ることができず、実験の失敗がどう繋がるのかという展開を期待してしまうのである。つい彼ばかり注目してしまうが、ダンもダンだ。

 前作のラストが出来心なのは分かる。今回も愛故の暴走だとは思う。しかし余りにも意思が弱い。全くストッパーになれていない。コミュニケーション能力に欠けるウェストの代わりに存在するだけの立場になっている。なんと地味なキャラクターだろうか。ERのジョン・カーターみたいな外見と性格だが、彼には根っこがない。薄っぺらいのだ。

 本作はサービスカットも控えめで、個人的には前作よりスプラッター要素が抑えられていたように感じた(配信でカットされているのかもしれないが)。デッドプール2同様に売りが弱くなっている印象を受けたのだ。ところがそんな内容でも2003年には続編が公開されている。今度こそはと期待して観てみたいが、現時点では配信タイトルに存在しない。いつか観る機会があれば気楽な気持ちで観てみたいものだ。#死霊のしたたりシリーズ

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原題:Cast Away
144分

 人一倍仕事熱心なチャック・ノーランドは誰よりも動き回り、誰よりも生産性の向上に努めている。荷物が届くまでの時間がどれくらいかを伝えるためにカウントしたままタイマーを送ってみたり、作業時間を従業員に意識させるべく何度も残り時間を口にする。また彼を必要とする者からの連絡があり、チャックは貨物機に乗って現地へと向かう。しかし貨物機は墜落してしまい、彼は無人島に漂着するのであった。

 無人島で生きていくのは非常に辛い。もちろんそんな経験はないが、無人島なんてものは今の便利さに満ちた世界とは対極にある世界だ。火も水もなく、満足な食料もない。幸いにもチャックが辿り着いた島にはココナッツがあり、海には魚も居た。しかしそれだけだ。よほどの偏食でなければ満たされることはなく、常に同じものしか食べられないとなれば嫌にもなるだろう。それに全てが生では温もりもありゃしない。

 最後まで火が使えないのかといえばそれは嘘になるが、チャックが満足に火を扱えるようになるまでには少し掛かる。その間は生のココナッツジュースと果肉。それと生の魚にカニ程度なものだ。精神的に強くなければとてもじゃないが耐えられそうにない。サバイバル生活をするベア・グリルスやエド・スタフォードの姿を見ているのは楽しいが、一生同じような生活をしろと言われても困るのだ。恐らく一週間保てばいい方だろう。

 サバイバル映画のイメージだと大半の人は結末で救助を想像するものだと思われるが、本作は救助された後のストーリーまで描かれている。よくよく考えれば当然ではあるが、救助されたからといってその人の人生は終わりやしない。死んだと思われていた状況からの生還。そして社会復帰。墜落前までは当たり前にあった人生の続き。その空白期間に積み上げられた自身の知らない時間を痛感させられてしまうのである。

 元々飛行機よりも新幹線に好んで乗る(景色を見ながら食事を楽しみたいだけだが)身としては、こんな事態に巻き込まれることはないだろう。しかし、それでももし飛行機に乗って墜落し、生き延びてしまうようなことがあれば……その時私は生きる努力が出来るだろうか。ボールが転がっていても蹴り飛ばしてしまわないか。命がある有り難みと、時間への考え方。そして意識の変え方。この映画からは色々と学べるだろう。

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原題:Split
117分

 運悪く誘拐されてしまった女子高生3人は仲良く閉じ込められてしまう。リーダー格のクレアは根拠の薄い自信でなんとかしようと考え、腰巾着のマルシアはその意見に乗っかる。しかしケーシーは乗らず、悲観的で現実的な案を出そうと頭を働かせる。けれども解決策は浮かばずに鍵穴から部屋の外を覗いていると、そこには誘拐犯とは違う服装と声色の誰かが現れた。当然彼女らは助けを求めるのだが、扉を開けて姿を見せたのは女装して別人を演じる誘拐犯の姿だったのだ。

 物語が誘拐から始まれば、もちろん多くは誘拐の解決を求める。誰がどうやって誘拐犯の足取りを掴み、彼女達を救うのか。そんな視点で物語を楽しむものだろう。ところが本作にはそういった要素はほぼ無い。誘拐はきっかけにすぎず、この物語の本質ではないのだ。だから警察や特殊部隊が活躍する様もなく、誘拐犯と女子高生――ケーシーのやり取りが肝となる。アクションではなく、人間心理を楽しむのが正解だろう。

 この誘拐犯は解離性同一性障害(多重人格といった方が馴染みがあり、理解もしやすいだろうか)であり、作中でも語られるが解離した人格にはそれぞれ異なる特性を持っている。それは単なる性格や口調のみならず、時にはその者の構造そのものも変えてしまう。極端な話をすればパン屑が付いた服を見るだけで嫌悪する潔癖症な人間にも、散弾銃で撃たれても効かないような人間にもなれるのだ。

 本作は割と前に公開された『アンブレイカブル』の流れを組んでいるとのことで、個人的にはかなり期待していた。しかし全体の流れは良かったものの、オチの弱さがどうも気になってしまった。こちらからまた続いている『ミスター・ガラス』も観てみたいのだが、果たして期待していてもいいのだろうか。M・ナイト・シャマラン監督は当たり外れの差が激しい気がしているのだ。だが、それでも次を期待してしまう。不思議だ。

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原題:Horrible Bosses
98分

 仕事は嫌いではないが上司に恵まれなかった3人の男たち。彼らは上司さえ違えばと頭を抱えていた。度重なるストレスに限界を迎えた後、3人は犯罪者風の男にけしかけられて上司の始末を決意する。しかし杜撰な計画のせいで失敗してしまい、挙げ句の果てには大きなトラブルの原因を招いては酷い現場を目撃する。それでもモンスターのような上司をなんとか始末するため、彼らは協力しあうのだった。

 ブラックコメディということでなかなかに下品だったりやりすぎな面もあったりするが、ノリとしては小学生の悪ふざけに近い。だがお色気シーンはジェニファー・アニストンの演技とスタイルのせいもあってか、もうポルノ扱いになりそうな気もする。しかしこんな上司が日常的にいやらしい仕草や姿を見せつけていてよく耐えられるものである。本人は嫌でも周りからすれば羨ましいという感想を抱いてもおかしくない。

 ケヴィン・スペイシー演じる上司はハラスメントが日常的で憎たらしく、コリン・ファレルの演じる麻薬常習犯の上司は思考回路が滅茶苦茶で一緒に居ると疲れるだろう。前者は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の手段を選ばない議員そのままで、個人的に抱いていたイメージそのままだった。しかし後者に関しては『フォーン・ブース』とはイメージが違いすぎて、やはり俳優は凄いなと感心させられた。

 ちょこちょこ挟まれるお色気要素と頻繁に出てくる下品な表現は人を選ぶものの、映画は娯楽だと考えて許容できる人からすれば面白い映画だろう。ただ残念なことに面白いだけで、あっと驚く仕掛けや伏線といったものはない。馬鹿なことをしている大人の姿を見せられるだけである。といっても先述したとおりで、娯楽とはそんなものだ。頭を使わずに笑っていられる。そんな映画も良いものだろう。#[モンスター上司シリーズ]

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原題:Horrible Bosses 2
108分

 モンスター上司から解放された3人はふとした思いつきからかちっぽけなアイデアを頼りに起業してしまう。しかしアイデアだけでは事業として成立せず、試作品を商品化してくれる企業や融資または出資辺りが必要となる。そのためにもまずは注目を集める必要があるのだが、彼らは運良くテレビで宣伝する機会を得た。するとこれまた運良く大企業から声が掛かる。ところがそうそう上手くいくわけもなく……。

 上司から解放された彼らは自分達なら良い上司になれると考えていた。ついでに金を稼げるとも。それで安定を捨てて起業したがやはり相手に恵まれない。いつも決まったメンツで集まっているせいか相談しようにも相手が居らず、頼ってはいけない相手に相談までしてしまう。だが、これもコメディの面白みだろう。

 セルフパロディの傾向が強く、起承転結のパターンは前作と変わらない。しかしお色気要素は減り、下品な台詞も少し減ったように思う。その代わりに開始早々で何かを勘違いさせるようなシーンが含まれているのだが……あれは軽いジョブ程度だろう。中心となる人物らは同じで展開も似たり寄ったり。それでも笑えるのだからよくできている。

 ジェイミー・フォックス演じるMFの出番も増えており、ただの面白い登場人物の1人から格上げしているのも実にいい。あの極端なキャラクターをそのまま捨て去ってしまうのは勿体ないし、強みのようなものを見てみたいとも思っていた。だからこそ終盤では喜び、その手で掴み取った結果にも割と納得してしまっている。彼だけが得しているようにも見えるが、3人も救われればそれでいいのだ。

 分類上は佳作にしてしまったものの、限りなく名作に近い佳作といったところだろう。どうして名作にしてしまわなかったのかと問われれば、この面白さは前作ありきだからと言える。前作を観て、続きまで観る。そこまでしてようやく完成するのだ。言わば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2と3である。1に当たる入り口としての作品が最初にあれば、もしかすると全てが名作扱いだったのかもしれない。#モンスター上司シリーズ

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96分

 チープなゾンビ映画を撮る集団が撮影をしていると、なんと本物のゾンビと遭遇してしまう。カメラマンはカメラを置くこともなく、監督の意向に沿ってカメラを回し続けるのだが、次々と被害者は増えていくのだった……。

 かなり今さらな気はするものの、一昔前の話題作を遂に観てしまった。低予算インディーズ映画でありながらも大きな話題となり、予算の100倍を超える興行収入を得たというのだから恐れ入る。仕掛けは単純でジャンルとしてはゾンビというよりはファミリー映画。感動とまではいかないが家族愛を感じられる……要素がある。

 ただ正直に言えば映画としての面白さは微妙だった。裏でのやり取りが分かりやすすぎたのと、本編を含めて全体的にチープすぎたのが合わなかった。彼らが次の指示を待っていると分かるシーンが多ければ多いほど劇中劇の作り物感は増す。しかしプロフェッショナルらしさは減ってしまい、いくらなんでも対応力不足では? と思ってしまう。お芝居を見せるお芝居を見せられているというややこしさが戸惑いを生む。

 彼らはこういうものを作ろうとしています。そうして出来上がったのがこちらの作品です――という流れ自体には何の不満もない。ただ先述した通りチープすぎた。意図的に分かりやすく、そこかしこにヒントをばら撒いている。こういった作品の入門用とでもいうか、子供向け作品のような極端にシンプルな作りと過剰な演出が重なり、B級映画ファンとA級映画ファンの両方を遠ざけているように感じてしまうのだ。

 なんかおかしいな、で留めていれば驚きや納得もあっただろう。馬鹿らしさに突っ切ったせいかもしれないが、観客を驚かせたいのか家族を描きたいのかテーマを絞って欲しかった。それでも本作はヒットしたし、面白かったという声も多い。納得していない者も多いが、それはこの作品の何を見ているのかにも寄るのだろう。

 面白い映画を観たいという者からすれば、本作は微妙だろう。ソンビもパニックも作り物。人によっては耐えられないほどの退屈な時間を抜け出したかと思えば映画の裏側。ここでそうなっていたのか、と初めて気付いて驚く楽しみもあるかもしれない。やはりそういう裏事情があったのか、と確信して楽しむのもアリだろう。けれどもそれは最初のチープな映画自体に興味を持てないといけない。ここが最初で最後の難関だ。

 ちなみに私は『the FEAR』という古いゲームを思い出しながら映画を観ていた。そのゲームでは番組撮影のカメラマンとして主人公を操作し、ハプニングに巻き込まれる。そちらもなかなかチープ感が強いものの、恐ろしいことに驚くような仕掛けはない。カメラは止まらず、現実離れした出来事と遭遇して悲惨な目に遭う。それはそれは凄い仕上がりなのだが……これはこれとして楽しめた。さて、この違いはなんだろうか。

 私が思うにこの映画は娯楽を追求しすぎたのだ。一方で先述したゲームはゲームとしての楽しみをある程度理解していた。可愛いタレントとちょっとした謎にホラー。映画監督役の彼ではないが、顧客が望むそこそこのラインを維持していたのだ。「これはこういう娯楽映画だ!」とごり押しされて受け入れられる人なら面白い。「ゾンビは?」「話題になってた要素はこれ?」と別方向に期待してしまっていた人には物足りない。

 だらだらとよく分からないことをうだうだ書いてしまったが、決して面白くないわけではない。上質なホラー映画を観たい気分の時に上質なミステリー映画を観てしまったようなものだ。悪くはないが、これじゃない。ただこういった映画が大衆に受けるというのは素晴らしいことだと思う。作り上げる楽しみと感情の共有。それが面白いという感想に繋がるのだとすれば、大勢と創作の楽しみもわかり合えるのだ。

 普段映画を観ないで、文化祭で盛り上がるのが好きだという人にはおすすめだろう。

1626文字 編集

原題:The Hangover
108分

 結婚式を控えた男とその友人たち。彼らは独身最後の夜を楽しむためにラスベガスでバチェラー・パーティーを行う。パーティーは大いに盛り上がり、素晴らしいひとときを過ごした……のかどうかも分からぬままに夜が明けると、そこに花婿の姿はなかった。何があったのか考えようにも部屋の中は荒れ放題。トイレには虎が居るわ赤ちゃんが泣いているわで何が何だか分からない。謎と赤子を抱えたまま、彼らは花婿を探すのだった。

 二日酔いで登場人物たちの記憶ははっきりしないまま、一体何があったのかをひたすら調べ回る。終始それだけの映画である。記憶を探る映画といえば何らかのサスペンスやミステリーを想像してしまいがちだが、この映画にそんなものはない。ふざけた大人が暴れ回るだけだ。下ネタに抵抗がなければ気楽に楽しめるコメディ映画で、それ以上でもそれ以下でもない。ピンチを迎えてもあっさり解決するからはらはらもしない。

 息を呑みながらこれからどうなるんだろう、という楽しみ方を求めている人には全く薦められないどころか止めておけとも言いたくなる。身も蓋もない言い方をすればこの映画に中身なんてものはほぼ無い。どうしようもない大人と下ネタなんてものはそれこそ酒の席でのネタにしかならないものだ。しかし彼らは本気だ。本当にどうしようもなく、だらしないながらも真剣に記憶と花婿を手に入れるべく奮闘する。

 娯楽映画を観たい。B級映画を観たい。これはそんな軽い気持ちで見てはいけない映画だ。私は何も考えずに観てしまったが、この作品を心から楽しんでみたい場合は下準備が必要だろう。まず酒を用意する。ついでに軽食もあればそれも。後は酔っ払う手前まで酒を呑んでから映画を観る。それだけで彼らと同化した気分になれるだろう。素面で観てもいいが、映画に強い拘りを持つ人は止めておいた方がいい。悪酔いするだけだ。#[ハングオーバー!シリーズ]

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原題:De toutes nos forces
90分

 ジュリアンは障害を持って生まれてきた。彼の父親であるポールが失業してしまい、久しぶりに帰宅したものの親子の会話といったものはない。ポールはジュリアンとの接し方が分からなかったのだ。気不味い雰囲気のままずるずると日が過ぎ、母親のクレールもストレスを抱えてしまう。ある日ジュリアンはポールの古い写真を目にして、彼が昔はトライアスロンに出場するほどのスポーツマンだったことを知る。ジュリアンはポールに近付いていくと、トライアスロンに出たいと宣言し……。

 障碍者の子と元トライアスロン選手が親子でトライアスロンに挑戦するという映画だが、ジュリアンは走ることも泳ぐこともできない。陸では車椅子に乗り、海ではボートに乗る。つまり父親のポールが車椅子を押し、ボートを引っ張ることになる。もしジュリアン自体が障害を乗り越えて地面を蹴り、波を掻き分ける姿を期待している人には視聴を勧められない。映画の主役はジュリアンとポールだが、トライアスロンの主役はポールだけだと考えても問題ないだろう。

 とはいえ屈強なスポーツマンでも脱落してしまうような競技のため、ジュリアンにとっては相当きつい。日差しは体力も水分も奪ってしまい、熱中症の危険も付きまとう。おんぶにだっこでただ競技に参加しているだけの存在にも見えてしまうだろうが、体自体をまともに鍛えにくいジュリアンが脱落しないだけでも十分に凄いのだ。たとえ我が儘な駄々っ子に見えても、騒げる体力があるだけ普通ではないと言える。

 と、ジュリアンのフォローをしてみたものの、やはりこの映画で凄いのは父親のポールだ。ポールは最初から最後まで重りを背負って参加しているようなもので、いくら元々トライアスロンに出場していたといってももうオッサンである。それにトレーニング期間も短く、1人で完走できるかどうかも怪しい。そんな人がひたすら泳ぎ、漕ぎ、走る。一体どうやったらこんなオッサンになれるんだろう。

 ポール役のジャック・ガンブランにはマッツ・ミケルセンのようなセクシーさもあり、頑張るオッサンの姿が妙に美しく感動的に見える。ちなみにこの映画、トライアスロンのシーン自体はそう長くない。終盤はひたすら競技シーンを見る羽目になるが、序盤から中盤にかけては親子の仲が深まっていく様子が描かれる。スポーツによる感動作というよりは、家族愛による感動作の方が正しいのかもしれない。

 良い映画だとは思うが、あらすじや予告から想像できる通りの物語といったところ。何の捻りもなく、これといった驚きもないままあっさりと終わる。親子愛や感動といったものを求めていればある程度満たされるだろうし、そうでなくとも駄作とまでは言い切れないだろう。映画というよりもやや演出過剰なドキュメンタリーのようなものと思えばいい。日常の延長線上にある幸せを噛み締めたい人に見て欲しい。

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原題:The Hangover Part II
102分

 仲良く酔っ払って酷い目に遭ったフィル達はまた懲りもせず二日酔いでよく分からない状況に陥っていた。どうしてそこに居るのか、何故彼はいないのか。1作目と変わらない展開のまま、また彼らの記憶を振り返るストーリーが始まる。

 率直に言ってしまえば前作が全く合わなければ今作も合わないだろう。一部は前作以上のインパクトもあるが、前作ほどの新鮮味はない。酔っ払う直前までのストーリーを観た後で二日酔い後の朝。それから数少ないヒントを頼りにあちこち飛び回る。大筋がここまで変わらなくても許されるのはコメディだからだろうか。だが批評家は厳しく、評価も低い。興行収入が少なければここで終わっていてもおかしくなかったのである。

 ところが不思議なことに私は前作よりも今作の方が合っていた。スプラッター要素の増えたこの映画が趣味に近かったのだ。確かに小休止のようなギャグは物足りなかった。それにアランの性格が極端に悪くなり、それを帳消しにする大活躍をする機会もないせいで単なる嫌なやつになってしまっている。その辺りを考えると、前作への思い入れが少ない人の方が楽しめるのかもしれない。

 オリジナルを超えられる要素が作れなくて過激さを足した可能性はあるが、その過激さが人を選ぶ要素になってしまっているのは残念だ。酒を呑みながらだらだら観ようと思っていた人が気分を悪くして視聴を諦める展開もあり得る。ただ名作かといえばそうではなく、迷作でもない。馬鹿騒ぎをするだけの悪くない映画。果たして最終作はどちらに転ぶのか。不安を抱えたまま、今日か明日には観てみようと思う。#ハングオーバー!シリーズ

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原題:The Hangover Part III
100分

 大きなトラブルを巻き起こして父親を疲弊させ、脳か心臓かはたまた血管に負担を掛けさせてしまったアレン。哀れにも父親は命を落としてしまい、家族はアレンを何とかしようと画策する。ところが治療するために病院へと連れて行くことになり、自動車を走らせていると酔ってもいないのに得体の知れない集団に襲われてしまう。彼らは何なのか。アレンはまともになれるのか。今までとは異なる展開で物語が動き出すのであった。

 タイトルはこれまで通りのハングオーバーということで、そのまま訳せば二日酔いである。しかし今回は二日酔いではない。素面のまま身に覚えのないトラブルに巻き込まれる形でストーリーは進む。だがトラブルの原因には深く関係しており、今彼らが置かれている状況は二日酔いが招いたものである。二日酔いからのスタートという定石からは外れたが、二日酔いで何かが起きて解決するという流れは本作でも健在である。

 まさかお前がずっとレギュラーなのかという驚きや、お前はもう出ないのかよという突っ込みが出そうになるが、これまでの活躍ぶりを見ればこの人選になってしまうのも仕方ない。彼がいなければ最初の大事件も発生せず、彼と関わっていなければ以降のシリーズも産まれない。真の主役は彼だ。それが良いか悪いかは別として。興行収入も評価も下げてしまったのは彼が出しゃばりすぎたせい……かどうかは分からない。

 相変わらずのテンションでお馴染みの流れ。しかし勢いは落ちていくばかり。娯楽作品だから雰囲気を楽しめたらそれでいいって人にはいいが、とりあえず映画として完結させましたという印象が強く、ハングオーバーは3部作になってしまっただけのシリーズとも言える。1作目でそのまま終わっていた方が良かっただろう。蛇足に蛇足を重ねては地を這うのにも不便で、足も揃わない。迷走してしまうのも致し方ないのだ。

 それでも佳作にしてしまうのは、こういう馬鹿馬鹿しい娯楽映画そのものが好きだからである。マンネリを何とかしようとしている努力は見えたわけで、随所で笑いを取ろうとしているシーンもあった。最後の最後でまたお馴染みの流れを繰り返すのも作品そのものへの愛を感じられる。娯楽を作り、完成させようとした者が居た。その事実だけで嬉しくもなる。馬鹿馬鹿しい映画を観たい。そんな人だけが観ればいいのだ。#ハングオーバー!シリーズ

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原題:Yes Man
104分

 自ら退屈な日々を選択するかのようにノーと言い続けたカールが怪しいセミナーに参加し、今度はなんでもかんでもイエスと言うようになる。たったそれだけで人生は大きく変わり、様々なチャンスに恵まれる。しかしいつまで経ってもそれで通用するとは限らず、カールはイエスが引き金になってピンチも迎えてしまい……。

 ノーと言えない日本人という表現がある。これは心優しいのか自分の意思というものがないのか、知らず知らずにイエスマンになっている日本人の国民性を現したものだ。ノーと言える外国人が日本人さながらにイエスと言えばどうなるか。その模様を描いたのがこの映画だろう。彼の場合は極端だが、まあこんなものかもしれない。

 率直な感想としては、こんな展開あり得ない。しかし本当にそうだろうか。自分の常識というものに囚われてはいないか。あり得ないとは言ったが、どれも不可能というほどではなかった。運良く偶然が重なれば昇進もするだろうし、運悪く偶然が重なれば警察に睨まれることだってあるだろう。これは一つの可能性を描いた映画なのだ。

 人生が失敗続きで何もかも上手くいかない。何の意味も見出せない日々を過ごしていれば死にたくもなるだろう。そんな人生を変える切っ掛けがカールにとってのイエスだった。言葉一つ、行動一つ変えてみれば世界が変わる。怪しいセミナーじみてはきたが、そういう人生の変え方について教えてくれるのが本作である。

 人生が上手くいっている人からすれば、本作は退屈な映画にもなりえる。なにせ退屈な人生からようやく抜け出して、これから面白くなっていくというところで映画は終わってしまうのだから。何か思うところがあって考え方を変えたいという人にはいいだろう。良い作品だが、打ち切りのような印象もあるのが少し残念なところだ。

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説明

 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

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