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原題:Overboard
112分

 豪華な船で自由気ままに生きるレオナルド。彼は働こうともせず快楽のみに時間を費やしていた。ところが清掃員のケイトと出会ったり、うっかり船から落ちてしまったりと偶然が重なって一緒に暮らすことになる。レオナルドは妻を騙るケイトの夫として。ケイトは復讐のためにレオナルドの妻を演じる日々が始まるのだが、共に生活を送る中で二人の心境も変わっていくのであった。

 むかつく男を懲らしめてやる。ついでにこいつが原因で発生した損害もなんとかしてもらおう! という理由で偽装家族生活が始まるという作品。まあ確かにレオナルドはひどい性格をしている。しかしその振る舞いは性格が悪いというよりも、大人になりきれていないというもの。彼は子供のまま成長する機会がなかったのだ。だからといって横暴が許されるわけもないのだが。

 ケイトもケイトで相手が記憶喪失なのをいいことにやりたい放題である。書類を偽造する時点で危険極まりなく、夫だからと奴隷のようにこき使う。子供もケイトに付き合って家族のふりをするのだから恐ろしい。当然ながらレオナルドも不平不満を漏らすが、納得できなくともケイトや子供に手を出そうとはしない。やはり根はそう悪くないのだ。

 さらにレオナルドは人として成長していく。家事なんてしたこともなかった男が料理に目覚め、子供の成長を手助けする。最初は利用してやろうとしか考えていなかったケイトらも次第にレオナルドという男に惹かれ、家族として受け入れていくのだ。基本的にはコメディのノリで進むものの、ストーリー自体はきちんとロマンスであり、ファミリー映画でもあった。

 とはいえケイトとレオナルドの間に婚姻関係なんてものはなく、彼は記憶喪失のままである。記憶喪失のまま幸せに暮らす……なんて展開を想像する者は居ないだろうから書いてしまうが、彼も記憶を取り戻す時がくる。それがいつなのか。彼らの家庭はどうなるのか。展開はある程度読めるとしても、笑えて泣ける非常によくできた好きな映画の一つだ。

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原題:Ocean's Eleven
116分

 服役を終えたオーシャンは、仮釈放中にも関わらず大胆かつ緻密な大犯罪を実行しようと考える。しかし一人ではどうしようもないため、次々と様々な犯罪者を集めて虎視眈々と準備を進める。各計画ごとに適した人材を配置し、後は実行の日を待つのみ……だったが予想外のアクシデントも発生してしまった。それでも彼らは半ば強引に予定通り計画を実行に移すのであった。

 かなり古い映画の『オーシャンと十一人の仲間』をリメイクした作品で、この作品自体ももう今となっては二十年前の旧作となる。それゆえにどちらを先に観るべきかと悩みもした。先に本作を見ればオリジナルが物足りなくなるかもしれないし、オリジナルから観ようにも今となっては退屈かもしれない。とまあ悩みに悩んで気付けば数年の月日が経っていた。

 このままだと一生観ないだろうと判断し、とりあえず本作を選んだ。主要なキャストに好きな俳優が集中していたのが決め手になったのである。それで実際に観た感想はというと良かった。それぞれが持ち味を発揮して活躍するのは『メジャーリーグ』のようで、
完璧な犯罪を見せつけられる知能ドラマとは違った方向で楽しめた。

 残念ながらあっと驚く要素は少なく、カメラの使い方なんかも仕掛けにすぐ気付いてしまった。知能犯罪ではあっても、それは大胆だから気付かれにくいというものばかりで、もし被害者連中に一人でも賢い人物がいれば、ここまでスムーズには終われないだろう。爽快感と達成感はあるが、オチは弱い作品だったように思う。

 様々な要素が何回も出てきたせいでインパクトが弱くなってしまった気もするが、十分面白いのは間違いない。ただこういうストーリーだと大事な要素は出し惜しみしてくれた方がいい。これまた古いが『スティング』を観た時はしてやられたと感心したものである。とはいえ今から続編が楽しみで、明日には観てしまいそうなほどだ。はてどうしたものか……。#オーシャンズシリーズ

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原題:Joker
122分

 アーサーはコメディアンになるという夢を持ち、ピエロの仕事をしていた。しかし若者に襲われてしまい、宣伝用の看板を壊されてしまう。看板を返すようにと上司から言われて説明をしても信用してもらえず、今度は別件でやらかしてしまったせいで仕事を失ってしまった。失うものがなくなったアーサーは再び別の連中から襲われた結果、我を忘れて拳銃を取り出し……。

 『バットマン』シリーズの人気ヴィランであるジョーカーの過去を描いたストーリー……というテイストではあるが、これまでの世界観や設定とは特に関係ない作品。こういう人がこんな扱いを受けたらいつかジョーカーになるんだ、と思いながら観る全くの別物なのである。つまり名前だけ借りた一つの独立作品と考えていいだろう。

 監督はトッド・フィリップスで、『ハングオーバー!シリーズ 』の監督でもある。ひたすらふざけた映画を撮る人かと思いきや、社会的な要素や政治的要素、残酷な描写(これはハングオーバー!でもあったが)もしてしまう多彩な監督だった。ただ本作を観た後だと、じゃああの続編の類いももうちょっと面白くできたんじゃないかと思ってしまう。

 辛い生活に加えて現実と見紛う妄想癖まであり、作中でもどこからが妄想なのか判別が難しく、極端な話をすれば何もかもが妄想なんじゃないかとも考えられる。最初の出来事からしてなかなか捕まらないのが不思議で、あの肉体にしては強すぎると思う場面もあったが、カリギュラ効果がすこぶる元気な映画で意外性こそが本領のような作品でもあった。

 彼は弱者でなければならず、弱者が強者に立ち向かうために最低限の強さと武器が必要になる。それがアーサーなのだろう。日本ではなかなかどうしようもない状況を外的要因で変える異世界転生モノがそこかしこに蔓延っているが、この映画が流行るということはベースをそのままにハリウッドで作り直せば大抵ヒットするんじゃなかろうか。

 小さい突っ込みどころはあるものの、王道で安定した面白い映画だった。

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原題:Day of the Dead
102分

 数少ない人類はゾンビだらけになってしまった世界で地下の施設に籠もって生きていた。生き残りの人類を捜したところで結果は奮わず、現れるのはゾンビばかり。疲れ切った状態でもまた別の仕事をさせられる上に失敗しては殺されかける。そんな極限状態ではまともな話し合いもできずに互いのストレスだけが増えていく。それでもローガン博士は意味があるのかもわからない研究を続け、サラは頭を抱えていた。

 唯一の女性で比較的まともなサラが振り回される描写が目立ち、ゾンビの脅威そのものは比較的抑えめなままストーリーは進む。とりあえず侵入さえ防いでいればなんとかなるゾンビよりも、互いに共同生活を営んでいる人間の方がよっぽど恐ろしいというのはなんとも皮肉な話だが、今の時代でもゾンビ物でそういう描写は多い。きっと人間こそがレジェンド級の化け物なのだろう。

 だが最初は敵ですらない印象を与えていたゾンビも、徐々にその優れた能力を発揮していく。博士の研究は狂っているようにも見えたが、その研究は実を結んでいたのだ。理性や自我を持たず、視界に入ったものを襲うだけと思われていたゾンビが徐々に学び、過去の記憶から行動する。それは信じられない結果であり、恐ろしく不気味なものでもあった。だからこそゾンビを、そんな研究を続ける博士までもを嫌悪する兵士が出てきてもおかしくないのだ。

 最初は思っていたよりもスプラッター要素が少なくて落胆していたが、ゾンビが暴れ出すとそんな気持ちもなくなった。生きたまま焼かれたり体を裂かれたりと血みどろのシーンには否が応でもテンションが上がる。もしこれが善人寄りの人物であれば嫌な気持ちにもなるのだが、酷い目に遭うのは酷い輩ばかりである。憎たらしい人物が苦しむ度についついゾンビの応援をしたくもなるというものだ。

 ただそんなやつらでも最低限の良心は残っているのか、もしくは兵士としての誇りかは分からないが、唯一の女性で顔立ちも整っているサラを襲わなかったという点については評価できる。それに個人的な好き嫌いで出てきた兵士を全員敵視していたが、とんでもなく酷い人物は一人しかいない。まあ彼がヘイトを集めすぎていた気はするが……ゾンビ三部作の中で一番好きなものはと聞かれたら、私は本作を挙げるだろう。

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原題:Night of the Living Dead
96分

 ある車は墓地へと向かっていた。自動車を走らせながら兄のジョニーは愚痴をこぼし、妹のバーバラはそんな兄に少しうんざりしていた。ジョニーは退屈だったのだろう。彼は花を添えるなり、少し離れたところにいた身なりの汚い男を見てバーバラに「襲ってくるぞ!」とからかい始めた。バーバラは兄の子供じみた失礼な言動を詫びようと男に近づいたのだが、その男は本当にバーバラを襲ってきたのだった。

 せいぜい不審者のような見た目の男に襲われる。ここまでは単なる性犯罪者か殺人鬼といったところだ。しかし彼はどうも正気ではなく、今でいうゾンビだった。他のゾンビはゾンビらしい……というとそれはそれでどうだか分からないが、見た目からして普通じゃないように感じられるものが多い。とはいえ夜中だと分かりにくく、会話ができるかどうかで判断するしかないだろう。

 ヒトの形をした化け物に襲われて逃げたバーバラは他人の家に避難するが、放心状態でまともに会話もできない。偶然出会ったベンは冷静に家を補強しつつもバーバラを気にかけるものの、いざ話し始めると今度はパニックに陥ってぶん殴られてしまう。冷静な男と真逆な女。そんな二人にまた別の人物が加わり、この事態に対処しようとあれやこれやと動き回るのが主軸となる。

 ホラーやパニック物ではありがちなトラブルも盛り込まれており、こいつさえいなければもっとスムーズにいくんじゃないかという展開もある。ほぼ一軒家でストーリーが進み、場所も殆ど変わらないのだが個々の衝突もあってか最後まで観ていられる。この辺りの構成や演出からはロメロが巨匠と呼ばれるだけのものは感じられるだろう。

 本作の次に公開されたゾンビ映画の『ゾンビ 』は既にレビューしているが、ゾンビらしさやゾンビっぽい見た目といったものを重視するのであれば、そちらを観た方がいいだろう。ただゾンビに襲われる恐怖感や無力感、それからオチまでを考慮すれば本作の方が面白い。今となっては色々と出来が悪く感じる部分もあるだろうが、王道のゾンビ映画らしさは堪能できるはずだ。

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原題:Get Smart
110分

 スパイ組織で働くマックスウェルは優秀な分析官だ。彼はサポートとして欠かせない存在で頼りにもされているが、現場で活躍するエージェントへの憧れを持っていた。その為の昇格試験も受けており、ようやく昇格試験で受かったのだが分析官として優秀すぎたせいで昇格が見送られてしまう。ところがとある事情から急遽エージェントとして現場に出ることとなり……。

 新米スパイが活躍する映画といえば『SPY/スパイ 』がある。あちらのスーザンは見た目からしてスパイっぽくないが、こちらのスパイ(マックス)は見た目だけなら007シリーズのジェームズ・ボンド役に居そうな雰囲気はある。元々太っていたせいで昇格試験の実技で躓いていた辺り、太ったまま機敏に動けるスーザンの方が実力は上かもしれない。

 主演のスティーヴ・カレルも魅力的ではあるが、相棒でヒロインを演じるアン・ハサウェイはもっと魅力的だ。スパイとしての活躍ぶりにはもちろん、その美貌にも目を奪われる。特に潜入任務での外見は髪型から服装に至るまで何もかもが自分好みで、珍しく何度かシーンを巻き戻してしまった。これからもそのシーンだけは何度か見返してしまいそうなくらいである。

 肝心の内容もコメディ要素の強いスパイ映画ということで、所々下ネタなんかも挟みながらちょっとした笑いとアクションを楽しめるのがいい。これといった捻りはないものの、スパイ映画に求めるギミックや裏切りといったものは十分に含まれており、アン・ハサウェイとスパイ映画が楽しみたい人には良いだろう。他の人はどうだか知らないが、私にとってはバランスの良い作品だった。

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原題:Bølgen
105分

 地質学者のクリスチャンは大手石油会社に引き抜かれ、今まで働いていた職場を辞めることとなっていた。しかし勤務最終日のデータがどうもおかしく、少し不安を覚えていた。そして迎えた引っ越しの当日。この日も妙な違和感があり、クリスチャンは岩盤や息子のゲーム画面を見て何かに気付く。慌ててフェリー行きの自動車をUターンさせると、クリスチャンは研究施設で働く仲間たちに岩盤の崩落を告げるのだった。

 ノルウェーは岩盤崩落が起きやすい地域で、本作は実際に起きた津波事故に基づいた映画でもあるらしく、災害の恐怖や迫力は確かに感じられる。天災に備えることができても、人はあまりにも無力だ。生き延びる者がいれば息絶える者もいる。最善策も無策も等しくふるいにかけられる。生死さえも運次第でしかないのである。

 主人公のクリスチャンは違和感を無視してすんなり引っ越してしまうこともできた。それでも彼は災害に備えて動き、大勢の命を救うべく働きかけた。もし彼がデータの異変を気にかけていなければ、もし自動車を降りて声を掛けなければ。強靱な肉体こそないものの、彼は誰もが認めるヒーローに違いない。

 こういった映画では筋肉質な主人公が力業で解決するような場面をよく見るが、クリスチャンは常人でしかない。ホテルウーマンの妻も同じく一般人なはずだが妙に冷静で体力もある。ご都合主義で進める為には彼女らが強くなければ話が成立しないのは分かる。ただ個々の資質に頼りすぎているきらいはあった。

 私にとっては名作だが、リアリティを追求する人やパニック時の人々が見せる冷静さに欠いた行動が理解できないような人にしてみたら微妙だろう。それに贔屓目なしに言えば出来映えとしても少し整ったB級映画といったところだ。ただこういう作品を観て自分はどんな時でも冷静に対処できると思っているような人こそ実際の災害では気をつけた方がいいだろう。

 実際の災害でも本来なら助からないであろう場所を選んで生き延びた者もいれば、冷静に対処してそのまま命を落としてしまう者もいる。現実でヒーローと遭遇する機会などそうそうなく、それぞれが限られた時間で少ない選択肢から生存する確率の高い方法を見つけなければならない。私は緊急時でも彼のように振る舞えるだろうか、と考えさせられる映画ではあった。

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125分

 家族で引っ越し先へと向かう車の中で、千尋は不満げな表情を浮かべていた。人生で初めて貰った花束。それはとても嬉しかったのだが、引っ越しでお別れになってしまうからという理由で貰ったことが不満だったのだ。引っ越したくもなかったのに引っ越す羽目にもなれば、不満を抱えてしまうのも仕方ない。それでいて両親はやけに好奇心旺盛で、ふと目に入った古い建築物に興味を示してしまう。まさかそれが冒険の始まりになるとも知らずに……。

 これまた少し前にあった、大勢の人が観ている割に観ていなかった映画。様々なメディアで何度も目にしている人も多いだろうが、それでもネタバレに配慮したレビューをする。ついでに評価も先に書いておこう。名作だ。好き嫌いはあるだろうが、これを駄作だの迷作だのという人はそう居ないと思う。日本人による日本を舞台にした日本らしいファンタジー。少女の成長と冒険も描かれており、よくできたアニメである。

 作中の登場人物で常識度ランキングのようなものを実施すれば、千尋の両親はきっと下の方に居るだろう。二人はなかなかにクレイジーで自由だ。よくこんな両親から千尋のような子が育ったものだと驚く。といっても千尋がまともかといえば少し疑問も残る。一言で言えば両親は食欲旺盛な豚だ。食材に大人を刺激する香りや味が含まれていたのかもしれないが、それでもまともな大人は無許可で料理に手を出さない。

 そんな両親の食欲だけは継いでしまったのか、千尋も得体の知れないものを食べようとする辺り片鱗がある。よく分からないものを手にして、それはきっとなんだかよく分からないけど良いものだと思える頭も凄まじい。だが千尋は子供である。大人ほど経験もなく、直感を重視してしまうことだってあるだろう。その点を踏まえても団子を喰らい、喰らわせるというパワープレイは両親に負けないクレイジーっぷりだ。

 そして本編はもちろん、サイドストーリーも魅力的だ。素人童貞が初めての風俗で嬢に優しくされて、貢ごうとする。しかしなかなか喜んでもらえずどうしたものかと悩む。ついには他の従業員に当たり散らして嬢にまで怒りをぶつける。しかし嬢は偽りの優しさをみせずに心から向き合う。その結果、素人童貞はオタクには優しいギャルから必要とされて、自分の生き甲斐を見つける。実にいい話だ。これは単なる比喩だが、大体は合っている。

 最後の最後で酷い比喩を書いてしまったが、終始楽しむことが出来た。なんとなく『いのちの名前』はいつどこで流れるんだろうと思っていたら最後まで流れなかったのが残念だが、元々歌詞はないもので作品を彩るテーマソングとのことで納得した。個人的には『いつも何度でも』よりも好きなだけに勿体ないと思いもしたが、随所でこちらが流れても違和感が強そうだ。今さらだが、観ていない人には是非観て欲しい作品である。

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原題:Babysitting
85分

 待ちに待った誕生日。パーティーを目前に控えたその日、フランクは社長から声を掛けられる。さて何かと思えば息子の子守を頼みたいと言う。パーティー当日に子供の面倒なんて……とフランクは断ろうとするが、ある約束と引き換えに子守を引き受けるのだった。しかし息子のレミは今時といえば今時な子供で、割と面倒な性格をしていた。更にただでさえ子守で苦労しているフランクの元にパーティーを強行しようとする友人らが迫り……。

 なんらかのトラブルが起こって、それが何だったのかを振り返る。『ハングオーバー!シリーズ 』を思い出す構成ではあるが、あそこまでぶっ飛んではいない。謎解きのようなものもなく、最後まで観てみれば全く違う映画だと分かる。シティーハンター経由でフィリップ・ラショーに興味を持って見たわけだが、妙なタイトルで敬遠せずに観て良かった。人を選ぶシーンは多いものの、エロにしたってエロすぎない。表現の仕方がマイルドなのである。

 登場人物の癖も控えめで、観ていて疲れる人や現実離れしすぎて興醒めしてしまうような人も居ない。もしかしたらこんなこともありえるかもしれない……? と思える範囲で馬鹿をやっているような映画(とはいっても日本人の持つ海外のイメージだけども)で、笑いを取りつつも家族の絆や愛というものを描いてくれるのは凄い。監督は2人居るとは言え、これが監督デビュー作だというのだから恐れ入る。尊敬どころか嫉妬すら覚えるほどだ。

 フランクも途中でやらかしてはいる。しかし元凶は悪乗りが過ぎた友人たちである。なんとかしようともがきつつも意中の人と愛を育みたいフランク。父にもっと構ってもらいたいレミ。物語の鍵となる人物の根がまともで色んな意味で良い性格をしているおかげで、多少妙なことになろうともどこか清々しく、視聴後の爽快感や充実感にも繋がっている。割とおばかでちょっと感動な本作は、ちょうど今のような蒸し暑い時期に観て欲しい。#[ヒャッハー!シリーズ ]

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原題:Nicky Larson et le Parfum de Cupidon
93分

 何でも請け負う優秀なスイーパーの冴羽獠(またはニッキー・ラーソン)は今日もライフルを構え、標的(トレーニング中の女性……の胸)を見つめていた。せっかく一流の腕があっても仕事をしなければ稼ぎもない。そんな状況を何とかする為にも相棒の香(あるいはローラ・マルコーニ)は美女の依頼だと偽って依頼を受ける。簡単に終わる依頼だと思っていたが、そこには同じく一流のファルコンが現れてしまう……。

 シティハンターの大ファンである監督が脚本も主演も担当し、またよく分からない実写化作品が出たと不安視されていた話題作である。しかし本作は作品への愛とリスペクトに満ちており、元の作品を知らずとも楽しめる娯楽映画として仕上がっていた。実写化作品は原作を重視しすぎて現実離れした作品になりすぎてしまったり、原作を軽視しすぎて得体の知れない何かになってしまったりするのだが……本作は実に良かった。

 原作やジャンプ作品、吹き替え版であれば出演声優の知識等があれば笑えるような人を選ぶ小ネタがさり気なく挟まれており、そういった知識がなくとも楽しめる小ネタもある。終始ふざけた雰囲気はあるがシリアスな場面では気にならず、そのシリアスさを利用したシュールな笑いも含まれている。それでいてアクションシーンの迫力も十分でアクション映画としての魅力も強い。これは手放しで面白い映画と断言できる。

 ただまあこれが嫌いだと言う者も居るだろう。元々が古い漫画作品ではあるわけで、今の差別だ権利だのと個々の主張が強い世の中では人を選ぶ表現が多い。女性を性的な対象として見ただけでクレームだろうし、穿った目で見る人からすれば香の扱いは足手まといの役立たずにも見えるだろう。そこには彼なりの愛があるわけだが、そういう人にそんなものは通用しない。それに下ネタというだけで無理な人も居るだろう。

 原作ファンには色眼鏡をへし折ってからとりあえず冒頭だけでも見て欲しい。ファンじゃなくともアクション映画や娯楽映画の良作を探しているのなら最後まで楽しんでもらいたい。実写化作品だからと侮ってはいけない。監督の愛は強い香水でも嗅いでしまったかのように強烈で、この映画を見ればその世界観に惚れ込んでしまうはずだ。

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原題:Profondo Rosso
126分

 テレパシーが使えるというヘルガ・ウルマンの講演には半信半疑の観衆が集っていたのだが、能力を疑う人らの前で彼女は所持品や名前を見事に言い当てる。もちろん事前に仕込んでいれば誰にでもできるテクニックではあるが、その場に居る者は彼女の力を信用する。しかし講演の途中で彼女の様子がおかしくなり突然妙なことを口走る。それだけで済めば良かったのだが、ヘルガは何者かに殺されてしまうのであった……。

 邦題にサスペリアと付いてはいるが、続編ではない。それどころかサスペリアよりも前に作られている。監督は同じダリオ・アルジェントだが、日本での公開はサスペリアの後だった。沈黙シリーズのように配役と展開で勝手にシリーズ化したものとは少し違うが、監督が同じで先に公開した映画が話題になったからと安直な理由で名付けられたのだから似たようなものではある。

 最初は邦題のせいであまり期待していなかったのだが、サスペリアとは関係なくよくできた映画だという情報も目に入ったことで観てみようと思えた。だがはっきり言って眠かった。サスペリアよりも退屈な印象を受けた。しかし徐々に引き込まれていき、今となっては有名な伏線にも驚かされた。人の視覚や記憶力というものは想像以上に雑な作りで誤魔化されやすいものなのだ。

 凄い映画である。とはいえ眠気を誘う内容なのも事実で、サスペリアでもあったゴブリンの曲が良くも悪くも特徴的。それにピアニストのマークがピアニストである意味はほぼ皆無な上に指の扱いが雑で驚く。凝っているが詰めが甘いとでもいうべきか、その面白さに触れるまでの待ち時間が長いのが難点だ。退屈でも耐えて、何の意味もなさそうな場面までしっかり目を通しながら違和感の正体を考えて楽しもう。

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原題:In the Line of Fire
128分

 警護官のフランクは大統領の護衛に失敗してしまう過去を持つ。それからというもの彼の人生は歯車が狂い、あまり良い人生は送れていなかった。年老いた今も現役で捜査官として働いている彼は、ある通報がきっかけで大統領を狙う暗殺者と接触する。姿も分からず、電話から聞こえる声だけしか知らない男を追い、過去の未練を断ち切るかのようにフランクは相棒のアルと捜査を進めるのであった。

 シークレットサービスのエージェント。ベテラン。そして相棒。見ただけでわくわくするような言葉が並ぶ映画な上に、主演はクリント・イーストウッド。いつか観ようと思いつつも放置していた作品に気付いた私は、よく分からないB級映画とは違って期待しながら視聴を始めた。それでもがっかりすることなく楽しめたのだから、さすが名作である。

 序盤から中盤までは相棒との掛け合いや暗殺者との親しげな会話が中心だが、フランクは途中から真面目になり、暗殺者は恐ろしさを見せていく。そこに至るまでの変化が良いバランスで描かれており、ひたすらシリアスな作品ほど気張らずに最後まで観ていられるだろう。ある銃の作りや弾丸の隠し方なんかはスパイ映画のようでぐっとくるのも良い。

 間違いなく好きな映画ではある。しかし具体的な舞台背景というべきか、時代がはっきりとはしていないのだがとあるシーンでは少しもやもやする場面もあった。それは暗視装置の有無だ。近代的な武器や兵器が誰よりも早く手に入りそうな組織だというのに、なぜそれがないのか。まだ試作すらもない頃であれば仕方ない。だが最初の暗殺事件から経過した時間を考えると……無い方が不思議だろう。

 娯楽映画にリアリティを求めるのはナンセンスで愚かだ。私もあまりそんなことはしたくない。けれども現実を絡めた映画になってしまっている以上は、どうしても細かい点が気になってしまう。かといって暗視装置に頼り、あっさり終わってしまうのも困る。難しい問題だ。最後にケチを付けてしまったが、良い映画には違いない。

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原題:A.I. Artificial Intelligence
146分

 未来の世界ではロボットが一般的となり、社会に溶け込んでいた。ある製造会社で働く家庭にも最新の少年型ロボットが送られることになり、その夫婦は戸惑いつつも彼――デイビットを受け入れる。しかし本当の息子が不治の病から快復し、お互いに母であるモニカの愛情を欲するようになる。より人間らしさを追求した結果の行動ではあったが、人間らしくなるにつれてトラブルにも巻き込まれやすくなり、棄てられてしまうのだった。

 人間となって人間のように愛されたいロボットがどうやったら人間になれるのかと考え、行動する。ロボットを題材として扱う作品としては普遍的なテーマではあるが、退屈でありきたりな展開はそう多くない。眠たくなるようなシーンは序盤程度で、人によっては試練のようにも思えるだろう。けれども序盤のシーンを乗り越えれば後は目まぐるしく移り変わる映像や展開を楽しめる。

 キューブリックらしい内容は個人的にも嬉しいのだが、監督はスピルバーグ。だからか所々の表現はマイルドになっている気もするし、映像の美しさも若干物足りなく感じる。映像も演出も悪くない。名作だと断言もできる。だが違う。私が求めているのはキューブリックが撮ったA.I.だった。しかし彼じゃなかったからこそ、多くの人から好かれる映画にもなれたのだろう。彼の才能を知らしめる作品としての価値は高い。

 登場人物自体はそれなりなものの、主要人物は少ない。セクシーでキュートなジュード・ロウが演じるジゴロ・ジョーが目立つせいか、登場人物(どちらも人間ではないが)は2人だけだったんじゃないかという気さえする。それでも飽きずに見ていられるのは監督の実力だろう。キューブリックじゃないのは残念だが、代わりに監督をしたのがスピルバーグで良かったと言える。愛について思うところがある人にぜひ一度観て欲しい。

814文字 編集

原題:챔피언
108分

 遠い異国でマークは用心棒として働いていた。ある日、彼がかつては腕相撲のチャンピオンを目指していたことを知る男――ジンギがクラブ内の腕相撲に参加するよう迫る。その腕相撲は賭け事の対象であり、取り仕切っている人物はマークの雇い主でもある。ここは空気を読んで負けるべきだがマークは勝利し、仕事を失ってしまうのだった。

 転職を余儀なくされたオッサン(マ・ドンソク)が祖国に帰って腕相撲をする。一言で言えばそれだけのストーリーだが、ベタベタな王道ストーリーが見事にはまっている。ぶっちゃけるとマ・ドンソクのアクションが見たいという動機だけで本作を選んだ。ところが思いのほか良かった。真新しさはなく意表を衝く展開もない。だが楽しめた。

 随所に挟まれるコメディ自体はそこまで面白くない。爆笑とまではいかず、ああここは笑いを取る場面なんだなと分かりやすく、息抜きができるようなものばかりだ。マ・ドンソクのアクション要素自体は控えめで少しがっかりしたものの、普段いかついオッサンが見せる笑みや楽しそうな表情を味わえるのはいい。彼だって怪物ではなく人なのだ。

 お涙頂戴とまではいかない家族愛にコメディとスポ根。それぞれがバランスよく組み合わさっており、くどさとしつこさのないちょうどいい映画に仕上がっている。主役だけではなく脇役もキャラが立っており、大物と小物の比較を楽しむのもまた一興か。本気に見えないだろうが、本作はスポ根と可愛いオッサンが見たい人にオススメしたい。

653文字 編集

原題:Liar Liar
87分

 フレッチャーは有能な弁護士だ。しかし優れた父親ではなかった。妻とは別れ、子供のマックスを溺愛しているものの仕事を優先して約束を破ってばかりいる。マックスも父親を愛しているのだが、誕生日までそれでは納得できない。そこで彼は「パパが嘘をつきませんように」と祈る。するとその願いは叶ってしまい、フレッチャーは嘘をつくことができない状態で嘘まみれの浮気女の弁護に向かう……。

 嘘を吐けない。たったそれだけの要素でキャラクターとストーリーが出来上がっている。監督と役者の演技があってこその映画で、同じ脚本があったところでこれだけ楽しめるかは微妙だろう。基本的にはコメディだがホームドラマでもあり、家族の素晴らしさを堪能できる。嘘自体は簡単だしうまく使えば役にも立つ。けれどもそれに頼ってばかりでは幸せになれない。フレッチャーはたった1日でそのことを理解する。

 嘘を吐かずに危機を乗り越える方法というものはなかなか見つからない。トラブルに巻き込まれてもっともらしい言い訳をする機会を期待するか、自身の成長で乗り越えるしかないのだ。そこで彼はトラブルを演出し、嘘を吐かずに切り抜けようとする。その光景を見ていれば頭の問題だと判断されて切り抜けられる気もするが、彼はどうにかこうにか乗り越えてみせる。ここに見た目とは裏腹な優秀さを感じ取ることが出来た。

 そんな人物でも嘘という武器を奪われるだけでとんでもない苦労をしてしまうのだ。もし優秀でもなんでもないいわゆる普通の人から嘘を取っ払ってしまったら……きっと人生は酷いものになるだろう。ERで知られるモーラ・ティアニーの愛らしさも魅力的だが、マックスを演じるジャスティン・クーパーもいい。ワガママさが不足しているものの、子供の魅力を全身から伝えてくれる。これは嘘吐きにこそ観て欲しい名作だ。

797文字 編集

原題:Spy
120分

 どこか抜けているが一流のスパイであるファイン。彼をオフィスからサポートするのがスーザンの仕事だった。幾つかの不満も抱えたまま仕事をそれなりにこなしていた彼女だったが、ある日ファインが射殺されてしまう。彼女は内勤という立場でありながらも自ら志願して現場へと出向き、ファインを射殺したレイナへと接近する……。

 スパイではない人物がスパイとして活躍するコメディといえば、小説家がスパイになってしまう『なりすましアサシン 』を思い出す。しかし実はこちらの方が公開は古い。それにあちらはコメディを重視しているが、こちらは意外にもスパイ映画としても練り込まれている。それにスーザンは仮にもスパイ。体型で誤解されがちだが身体能力も高く、ただ現場に出ていないだけの一流スパイとも言えるだろう。

 登場人物の大半がコメディのノリで、真面目な人物は敵の組織やモブくらいなものだが、残念なことにシリアスな振る舞いを見せる人物は死にやすい。彼らは本作においてはハードル走のハードルでしかないのだ。立ち塞がって邪魔をするが、あっさりと跳び越えられる。ハードルに引っかかってもすぐに立ち上がり、次へと進む。敵は観客を楽しませる要素の一つに過ぎず、スリルなんてものとは無縁である。

 本作を本格的なスパイ映画として紹介するわけにはいかないが、面白いスパイ映画としてなら紹介してもいいだろう。主役ではないがジュード・ロウとジェイソン・ステイサムは頼れるスパイの姿を見せてくれる。スーザンを演じるメリッサ・マッカーシーだってそうだ。その見た目からは想像できない動きで敵を倒してみせる。娯楽としてスパイ映画を探している人がいれば、是非こちらの映画をオススメしたい。

740文字 編集

原題:Titanic
194分

 氷山に衝突してしまい沈没してしまったタイタニック号。沈没船には非常に価値の高い宝石も眠っているとされ、そのお宝を狙って調査を行う者たちがいた。ようやく見つけた金庫を開けてみたものの、そこに宝石は見当たらず浸水して判別不可能になった紙の束しかなかった。それでも紙を洗浄してみると、宝石の手がかりとなりそうな絵画だと判明する。その絵をテレビで放映してみたところ、ある老人が電話を掛ける。タイタニック号の生き残りだという老婆は、当時の出来事を語り始めるのだった。

 今さら説明する必要もないような有名作品だが、ちゃんと観たことはなかった。それというのもある程度古く、もはや古典作品とも言える映画だからだ。とはいえ古いから観たくないというものではなく、誰しもが知っている名作なおかげでそこかしこにネタバレが蔓延っており、大体の流れを知っているせいで観る気になれなかったのだ。だがそれだけの名作なら観ておきたいという気持ちもあり、今回勢いで観ることにした。

 ネタバレは避けるといってもタイタニック号といえば沈没した船である。元となる出来事が存在し、その船が沈むのは運命だと定められている。そこまでは周知の事実と認識してしまってもいいだろう。あとはそれ以外の何がネタバレになるのか。それはやはり主人公たちの過程や結末だ。沈む船とパニックに陥る人々の姿が描かれる映画だ、といってもここまでなら何の問題もない。それでは何を語ろうかと考えたところで少し頭を抱えてしまう。結末が見えているせいで表現上の制限が多いのだ。

 なるほどこれはネタバレをしてしまいたくなるのも仕方ない。それでも回避して魅力を伝えようとすれば、身分の違う者同士の恋愛模様だろうか。本来であれば言葉を交わすはずもない相手と出会い、恥を掻かされそうになるがうまく立ち回る。周囲の声や態度はお構いなしに距離を縮めていき、船の事故に直面する。果たして助かるのか、どう立ち回るのか。恋と命の行方をはらはらどきどき楽しむのが一番だろう。

 ただ誰がどうやって生き残るのか、どうなるのかといった続きが気になる演出に拘るのであれば、金庫の中から日記が出てくるような展開でも良かったんじゃなかろうか。老婆が思い出を語る展開から物語が動き出す以上は、この人物が誰でどうやって何をしたのかまでは分からなくとも生死については理解してしまう。言ってしまえばこの作品のネタバレを主要キャストが伝えてしまっているようなものなのである。

 とはいえ過去からストーリーを初めて冒頭の電話を終盤に持ってきたらありきたりな映画になってしまい、インパクトのようなものは薄れる。映画として本作を仕上げようとした際に、彼女が誰であるかという謎よりも彼女自身が何をしてどう決断したかという意思が重視されたのだろう。どんな人物がどういう人生を送り、何を選択したか。もし正体を隠したままだと焦点が合わず、映画そのものはぼやけてしまう。

 長尺は人を選ぶが、名作と言われるだけのことはある素晴らしい映画だった。

1288文字 編集

原題:The Terminal
129分

 ある目的のためにビクターはクラコウジアからアメリカへとやってきた。しかし本人は何も悪いことをしていないにも関わらず、国の問題でパスポートとビザが無効になってしまう。犯罪行為はしていないのだから逮捕する理由はないが、かといって過剰な特別扱いをしてやる義理もない。彼は少しばかりの優しさと企みによって空港の中での自由を手にするのだが……ビクターと彼を取り巻く問題はそう簡単には解決しないのだった。

 目覚めたら大人になっていたり海老を捕ったりボールに話しかけたり するトム・ハンクスが空港に閉じ込められてしまうという物語。どうしてこの人はこうも変わった人生を歩みがちなのだろうか。普通ではあり得ない運命を辿りそうな顔をしているのか、彼の表情や演技が普通ではないのか。はたまた起用する者が変人ばかりなのか。どの映画も彼はいつも通りで、何故かそれがしっくりくる。不思議だなあ。

 空港の中で一体何が出来るのか……という不安はそこまでない。空港の中で服も買えるし飲食だって可能だ。ただ住所未定だと仕事を探すのに一苦労する。仕事がなければ金もなく、金がなければ腹を満たすことだってできない。モラルがなければここで盗みを働くか、いっそのこと空港を出てしまうだろう。しかしビクターはそんなことをせずに金を稼ぐ。金を稼げずとも人柄のおかげで救われる。それだけ彼は魅力的なのだ。

 空港から出られない。その言葉だけで脱獄を想像し、『ショーシャンクの空に 』や『プリズン・ブレイク』のような地味な脱出から頭を使った手まであれこれ想像をしてしまう人は居ないとは思うが、そんな展開を待っていても描かれるのはビクターと彼らを取り巻く人達の人生模様でしかない。人々からすれば交通機関として活用する場所の一つでしかなくとも、そこで働く者や暮らす者にしてみたら人生の一部だ。

 彼らは空港で笑って泣き、飛行機を乗り継いで別の目的地へと向かうようにそれぞれの人生を進んでいく。空港で何ヶ月も足止めを食らうことがあったとしても、いつかはきっと前へと踏み出す機会を得られるのだ。諦めない心と受け入れる意思。それさえあれば人生だってなんとかなるのだろう。無人島も空港もそこで住みたいとは思わないが、ビクターのように人生を満喫してみたいものである。

985文字 編集

原題:Predestination
97分

 事故と火傷。人によっては直視しがたい場面から物語は始まる。男は手術によって一命を取り留めるが顔は火傷が酷く、まるで別人のような顔を与えられる。彼は当然変化に驚くが、受け入れて任務に向かう。なんとこの男の正体はタイムスリップをして犯罪を未然に防ぐ秘密裏の組織の一員だったのである。彼は連続爆弾魔を捕まえるべく正体を偽り、ある相手と接触して会話を交わす。すると相手は昔話を始めるのだった……。

 タイムスリップという単語からも分かるように、本作にはSF要素がある。というか要素どころか物語の展開も核も何もかもがSFで構成されている。連続爆弾魔は誰か? 逃げた男は? 組織とは? SFといえば作品によっては小難しい言葉と設定で訳が分からなくなることもあるが、こちらの映画は比較的優しい方だろう。分かりやすく、それでいて面白い。タイムスリップを軸に置いた映画としてはトップクラスだろう。

 過去に『LOOPER/ルーパー 』の感想を書いたが、こちらは逆に分かり難く物足りなかった。登場人物の行動原理や目的といったものの差がはっきりしており、もやもやしたものを抱えたまま終わったルーパーに対し、本作はすっきりとした気持ちでスタッフロールを眺めることができた。内容としてはルーパー以上にややこしいこともしているのだが、伏線の張り方と見せ方がうまく、パズルのピースがぴたりとはまっていく感覚が得られる。

 この作品は面白い。手放しで褒めよう。SFというジャンルではなく、映画という娯楽の中でも上位に位置する。タイムスリップや犯罪ドラマ、哲学といったものに興味があれば間違いなく楽しめるだろう。ややこしい上に難しい内容ではあるが、しっかり話を追えば理解できる。だが、一つ文句を言わせてもらう。どうしてこんな名作が既にあるんだ? こういう作品はいつか自分の手で作り上げたかった。その才能には嫉妬を覚える。

832文字 編集

原題:장화, 홍련
115分

 スミとスヨンの姉妹が家に着いたところから物語は始まる。継母のウンジュは冗談交じりに美しく優しく接するのだが、何が気に入らないのか彼女らは殆ど無視ともいえる行動をとってしまう。当然ウンジュは気を悪くするが、それでも2人にあたろうとはせずに優しく振る舞う。どうして彼女は嫌われているのか。再婚が気に入らないのか。そんな謎を残したまま、家の中では原因不明の怪奇現象が起こり始めるのだった。

 それまでと違った環境に怪奇現象。ここまで聞くとトビー・フーパー監督の『ポルターガイスト』を想像しそうなものだが、あそこまでおかしな出来事はそう多くない。序盤では継母との確執や怪奇現象が目立ってはいるが、徐々に恐怖の質が変化していく。インパクトのある見た目や演出で驚かすホラーはなりを潜め、その家と姉妹の抱える闇がその世界を黒く塗り潰していくのだ。

 新しい家族が増えるともなれば反発する気持ちもあるだろう。しかし彼女はどうしてこうも毛嫌いするのか。彼女が何故箪笥を嫌うのか。そういった疑問が膨らむにつれて映画も物語の核へと踏み込んでいく。かなり内容は脚色されているらしいが、元々は古典的な怪談だという本作。怪談というからにはそれなりの恐ろしさや悍ましさを期待してはいたが、本作はその期待を見事に裏切ってくれた。

 いざ見終わってみれば仕組みは単純でかなり分かりやすい構造をしている。強いて言えば作中では部外者に当たる夫婦が見たものは何だったのか、終盤で目にする物語の起点とも言える箪笥の中身は本物だったのかという疑問は残る。しかしこれはホラーである。ミステリーやサスペンスではない。ある程度の整合性があれば謎を残していても許される。ラストカットは止めなくてよかった気もするが、あれはあれで不気味さや後悔といったものを演出しているのだろう。だが間違いなく丁寧に作り込まれた良い映画だった。

809文字 編集

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 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

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