時系列順[114件](4ページ目)

原題:Split
117分

 運悪く誘拐されてしまった女子高生3人は仲良く閉じ込められてしまう。リーダー格のクレアは根拠の薄い自信でなんとかしようと考え、腰巾着のマルシアはその意見に乗っかる。しかしケーシーは乗らず、悲観的で現実的な案を出そうと頭を働かせる。けれども解決策は浮かばずに鍵穴から部屋の外を覗いていると、そこには誘拐犯とは違う服装と声色の誰かが現れた。当然彼女らは助けを求めるのだが、扉を開けて姿を見せたのは女装して別人を演じる誘拐犯の姿だったのだ。

 物語が誘拐から始まれば、もちろん多くは誘拐の解決を求める。誰がどうやって誘拐犯の足取りを掴み、彼女達を救うのか。そんな視点で物語を楽しむものだろう。ところが本作にはそういった要素はほぼ無い。誘拐はきっかけにすぎず、この物語の本質ではないのだ。だから警察や特殊部隊が活躍する様もなく、誘拐犯と女子高生――ケーシーのやり取りが肝となる。アクションではなく、人間心理を楽しむのが正解だろう。

 この誘拐犯は解離性同一性障害(多重人格といった方が馴染みがあり、理解もしやすいだろうか)であり、作中でも語られるが解離した人格にはそれぞれ異なる特性を持っている。それは単なる性格や口調のみならず、時にはその者の構造そのものも変えてしまう。極端な話をすればパン屑が付いた服を見るだけで嫌悪する潔癖症な人間にも、散弾銃で撃たれても効かないような人間にもなれるのだ。

 本作は割と前に公開された『アンブレイカブル』の流れを組んでいるとのことで、個人的にはかなり期待していた。しかし全体の流れは良かったものの、オチの弱さがどうも気になってしまった。こちらからまた続いている『ミスター・ガラス』も観てみたいのだが、果たして期待していてもいいのだろうか。M・ナイト・シャマラン監督は当たり外れの差が激しい気がしているのだ。だが、それでも次を期待してしまう。不思議だ。

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原題:Horrible Bosses
98分

 仕事は嫌いではないが上司に恵まれなかった3人の男たち。彼らは上司さえ違えばと頭を抱えていた。度重なるストレスに限界を迎えた後、3人は犯罪者風の男にけしかけられて上司の始末を決意する。しかし杜撰な計画のせいで失敗してしまい、挙げ句の果てには大きなトラブルの原因を招いては酷い現場を目撃する。それでもモンスターのような上司をなんとか始末するため、彼らは協力しあうのだった。

 ブラックコメディということでなかなかに下品だったりやりすぎな面もあったりするが、ノリとしては小学生の悪ふざけに近い。だがお色気シーンはジェニファー・アニストンの演技とスタイルのせいもあってか、もうポルノ扱いになりそうな気もする。しかしこんな上司が日常的にいやらしい仕草や姿を見せつけていてよく耐えられるものである。本人は嫌でも周りからすれば羨ましいという感想を抱いてもおかしくない。

 ケヴィン・スペイシー演じる上司はハラスメントが日常的で憎たらしく、コリン・ファレルの演じる麻薬常習犯の上司は思考回路が滅茶苦茶で一緒に居ると疲れるだろう。前者は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の手段を選ばない議員そのままで、個人的に抱いていたイメージそのままだった。しかし後者に関しては『フォーン・ブース』とはイメージが違いすぎて、やはり俳優は凄いなと感心させられた。

 ちょこちょこ挟まれるお色気要素と頻繁に出てくる下品な表現は人を選ぶものの、映画は娯楽だと考えて許容できる人からすれば面白い映画だろう。ただ残念なことに面白いだけで、あっと驚く仕掛けや伏線といったものはない。馬鹿なことをしている大人の姿を見せられるだけである。といっても先述したとおりで、娯楽とはそんなものだ。頭を使わずに笑っていられる。そんな映画も良いものだろう。#[モンスター上司シリーズ]

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原題:Horrible Bosses 2
108分

 モンスター上司から解放された3人はふとした思いつきからかちっぽけなアイデアを頼りに起業してしまう。しかしアイデアだけでは事業として成立せず、試作品を商品化してくれる企業や融資または出資辺りが必要となる。そのためにもまずは注目を集める必要があるのだが、彼らは運良くテレビで宣伝する機会を得た。するとこれまた運良く大企業から声が掛かる。ところがそうそう上手くいくわけもなく……。

 上司から解放された彼らは自分達なら良い上司になれると考えていた。ついでに金を稼げるとも。それで安定を捨てて起業したがやはり相手に恵まれない。いつも決まったメンツで集まっているせいか相談しようにも相手が居らず、頼ってはいけない相手に相談までしてしまう。だが、これもコメディの面白みだろう。

 セルフパロディの傾向が強く、起承転結のパターンは前作と変わらない。しかしお色気要素は減り、下品な台詞も少し減ったように思う。その代わりに開始早々で何かを勘違いさせるようなシーンが含まれているのだが……あれは軽いジョブ程度だろう。中心となる人物らは同じで展開も似たり寄ったり。それでも笑えるのだからよくできている。

 ジェイミー・フォックス演じるMFの出番も増えており、ただの面白い登場人物の1人から格上げしているのも実にいい。あの極端なキャラクターをそのまま捨て去ってしまうのは勿体ないし、強みのようなものを見てみたいとも思っていた。だからこそ終盤では喜び、その手で掴み取った結果にも割と納得してしまっている。彼だけが得しているようにも見えるが、3人も救われればそれでいいのだ。

 分類上は佳作にしてしまったものの、限りなく名作に近い佳作といったところだろう。どうして名作にしてしまわなかったのかと問われれば、この面白さは前作ありきだからと言える。前作を観て、続きまで観る。そこまでしてようやく完成するのだ。言わば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2と3である。1に当たる入り口としての作品が最初にあれば、もしかすると全てが名作扱いだったのかもしれない。#モンスター上司シリーズ

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原題:Predestination
97分

 事故と火傷。人によっては直視しがたい場面から物語は始まる。男は手術によって一命を取り留めるが顔は火傷が酷く、まるで別人のような顔を与えられる。彼は当然変化に驚くが、受け入れて任務に向かう。なんとこの男の正体はタイムスリップをして犯罪を未然に防ぐ秘密裏の組織の一員だったのである。彼は連続爆弾魔を捕まえるべく正体を偽り、ある相手と接触して会話を交わす。すると相手は昔話を始めるのだった……。

 タイムスリップという単語からも分かるように、本作にはSF要素がある。というか要素どころか物語の展開も核も何もかもがSFで構成されている。連続爆弾魔は誰か? 逃げた男は? 組織とは? SFといえば作品によっては小難しい言葉と設定で訳が分からなくなることもあるが、こちらの映画は比較的優しい方だろう。分かりやすく、それでいて面白い。タイムスリップを軸に置いた映画としてはトップクラスだろう。

 過去に『LOOPER/ルーパー 』の感想を書いたが、こちらは逆に分かり難く物足りなかった。登場人物の行動原理や目的といったものの差がはっきりしており、もやもやしたものを抱えたまま終わったルーパーに対し、本作はすっきりとした気持ちでスタッフロールを眺めることができた。内容としてはルーパー以上にややこしいこともしているのだが、伏線の張り方と見せ方がうまく、パズルのピースがぴたりとはまっていく感覚が得られる。

 この作品は面白い。手放しで褒めよう。SFというジャンルではなく、映画という娯楽の中でも上位に位置する。タイムスリップや犯罪ドラマ、哲学といったものに興味があれば間違いなく楽しめるだろう。ややこしい上に難しい内容ではあるが、しっかり話を追えば理解できる。だが、一つ文句を言わせてもらう。どうしてこんな名作が既にあるんだ? こういう作品はいつか自分の手で作り上げたかった。その才能には嫉妬を覚える。

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原題:The Terminal
129分

 ある目的のためにビクターはクラコウジアからアメリカへとやってきた。しかし本人は何も悪いことをしていないにも関わらず、国の問題でパスポートとビザが無効になってしまう。犯罪行為はしていないのだから逮捕する理由はないが、かといって過剰な特別扱いをしてやる義理もない。彼は少しばかりの優しさと企みによって空港の中での自由を手にするのだが……ビクターと彼を取り巻く問題はそう簡単には解決しないのだった。

 目覚めたら大人になっていたり海老を捕ったりボールに話しかけたり するトム・ハンクスが空港に閉じ込められてしまうという物語。どうしてこの人はこうも変わった人生を歩みがちなのだろうか。普通ではあり得ない運命を辿りそうな顔をしているのか、彼の表情や演技が普通ではないのか。はたまた起用する者が変人ばかりなのか。どの映画も彼はいつも通りで、何故かそれがしっくりくる。不思議だなあ。

 空港の中で一体何が出来るのか……という不安はそこまでない。空港の中で服も買えるし飲食だって可能だ。ただ住所未定だと仕事を探すのに一苦労する。仕事がなければ金もなく、金がなければ腹を満たすことだってできない。モラルがなければここで盗みを働くか、いっそのこと空港を出てしまうだろう。しかしビクターはそんなことをせずに金を稼ぐ。金を稼げずとも人柄のおかげで救われる。それだけ彼は魅力的なのだ。

 空港から出られない。その言葉だけで脱獄を想像し、『ショーシャンクの空に 』や『プリズン・ブレイク』のような地味な脱出から頭を使った手まであれこれ想像をしてしまう人は居ないとは思うが、そんな展開を待っていても描かれるのはビクターと彼らを取り巻く人達の人生模様でしかない。人々からすれば交通機関として活用する場所の一つでしかなくとも、そこで働く者や暮らす者にしてみたら人生の一部だ。

 彼らは空港で笑って泣き、飛行機を乗り継いで別の目的地へと向かうようにそれぞれの人生を進んでいく。空港で何ヶ月も足止めを食らうことがあったとしても、いつかはきっと前へと踏み出す機会を得られるのだ。諦めない心と受け入れる意思。それさえあれば人生だってなんとかなるのだろう。無人島も空港もそこで住みたいとは思わないが、ビクターのように人生を満喫してみたいものである。

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原題:Titanic
194分

 氷山に衝突してしまい沈没してしまったタイタニック号。沈没船には非常に価値の高い宝石も眠っているとされ、そのお宝を狙って調査を行う者たちがいた。ようやく見つけた金庫を開けてみたものの、そこに宝石は見当たらず浸水して判別不可能になった紙の束しかなかった。それでも紙を洗浄してみると、宝石の手がかりとなりそうな絵画だと判明する。その絵をテレビで放映してみたところ、ある老人が電話を掛ける。タイタニック号の生き残りだという老婆は、当時の出来事を語り始めるのだった。

 今さら説明する必要もないような有名作品だが、ちゃんと観たことはなかった。それというのもある程度古く、もはや古典作品とも言える映画だからだ。とはいえ古いから観たくないというものではなく、誰しもが知っている名作なおかげでそこかしこにネタバレが蔓延っており、大体の流れを知っているせいで観る気になれなかったのだ。だがそれだけの名作なら観ておきたいという気持ちもあり、今回勢いで観ることにした。

 ネタバレは避けるといってもタイタニック号といえば沈没した船である。元となる出来事が存在し、その船が沈むのは運命だと定められている。そこまでは周知の事実と認識してしまってもいいだろう。あとはそれ以外の何がネタバレになるのか。それはやはり主人公たちの過程や結末だ。沈む船とパニックに陥る人々の姿が描かれる映画だ、といってもここまでなら何の問題もない。それでは何を語ろうかと考えたところで少し頭を抱えてしまう。結末が見えているせいで表現上の制限が多いのだ。

 なるほどこれはネタバレをしてしまいたくなるのも仕方ない。それでも回避して魅力を伝えようとすれば、身分の違う者同士の恋愛模様だろうか。本来であれば言葉を交わすはずもない相手と出会い、恥を掻かされそうになるがうまく立ち回る。周囲の声や態度はお構いなしに距離を縮めていき、船の事故に直面する。果たして助かるのか、どう立ち回るのか。恋と命の行方をはらはらどきどき楽しむのが一番だろう。

 ただ誰がどうやって生き残るのか、どうなるのかといった続きが気になる演出に拘るのであれば、金庫の中から日記が出てくるような展開でも良かったんじゃなかろうか。老婆が思い出を語る展開から物語が動き出す以上は、この人物が誰でどうやって何をしたのかまでは分からなくとも生死については理解してしまう。言ってしまえばこの作品のネタバレを主要キャストが伝えてしまっているようなものなのである。

 とはいえ過去からストーリーを初めて冒頭の電話を終盤に持ってきたらありきたりな映画になってしまい、インパクトのようなものは薄れる。映画として本作を仕上げようとした際に、彼女が誰であるかという謎よりも彼女自身が何をしてどう決断したかという意思が重視されたのだろう。どんな人物がどういう人生を送り、何を選択したか。もし正体を隠したままだと焦点が合わず、映画そのものはぼやけてしまう。

 長尺は人を選ぶが、名作と言われるだけのことはある素晴らしい映画だった。

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原題:Spy
120分

 どこか抜けているが一流のスパイであるファイン。彼をオフィスからサポートするのがスーザンの仕事だった。幾つかの不満も抱えたまま仕事をそれなりにこなしていた彼女だったが、ある日ファインが射殺されてしまう。彼女は内勤という立場でありながらも自ら志願して現場へと出向き、ファインを射殺したレイナへと接近する……。

 スパイではない人物がスパイとして活躍するコメディといえば、小説家がスパイになってしまう『なりすましアサシン 』を思い出す。しかし実はこちらの方が公開は古い。それにあちらはコメディを重視しているが、こちらは意外にもスパイ映画としても練り込まれている。それにスーザンは仮にもスパイ。体型で誤解されがちだが身体能力も高く、ただ現場に出ていないだけの一流スパイとも言えるだろう。

 登場人物の大半がコメディのノリで、真面目な人物は敵の組織やモブくらいなものだが、残念なことにシリアスな振る舞いを見せる人物は死にやすい。彼らは本作においてはハードル走のハードルでしかないのだ。立ち塞がって邪魔をするが、あっさりと跳び越えられる。ハードルに引っかかってもすぐに立ち上がり、次へと進む。敵は観客を楽しませる要素の一つに過ぎず、スリルなんてものとは無縁である。

 本作を本格的なスパイ映画として紹介するわけにはいかないが、面白いスパイ映画としてなら紹介してもいいだろう。主役ではないがジュード・ロウとジェイソン・ステイサムは頼れるスパイの姿を見せてくれる。スーザンを演じるメリッサ・マッカーシーだってそうだ。その見た目からは想像できない動きで敵を倒してみせる。娯楽としてスパイ映画を探している人がいれば、是非こちらの映画をオススメしたい。

740文字 編集

原題:Escape Room
81分

 謎の密室で必死に箱を開けようとする男が居た。彼は叫びながらもどうにか箱を開けると、中に入っていた鍵を鍵穴へと挿した。しかし何かを間違えていたのか、太い針が飛びでてきてしまい、彼は手に傷を負ってしまう。針には毒でも塗っていたのだろう。彼は次第に様子がおかしくなり、息絶えてしまった。場面は変わり、誕生日に浮かれる男女が映し出される。彼らは脱出ゲームに参加することになるのだが……。

 この書き出しで大体の人は「ああSAWとかキューブ みたいなやつかな?」と考えるだろう。その発想自体に間違いはなく、正解と言える。しかしなかなかメインの謎解きは始まらず、割と退屈な時間(というか尺稼ぎにしか思えないシーン)が続く。それからようやく謎解きが必要なシーンへと切り替わっていくのだが、観客へのヒントは少ない。どんな謎解きだろうと考えていたら謎を解かれてしまうような印象を受けた。

 これは例え話だが壁に二足歩行の人間と四足歩行の馬が描かれていたとする。そして扉には四桁の数字を入力するパネルが付いていた。そんなシーンが映し出されたら観客はまず数字の意味を考える。四桁になるものは何か。ヒントはあったか。そこで壁の絵に気付き、人間と馬の違いについて考える。「そうだ、人間は手と足。馬は全て足だ。2と4。これを絵の順でそのまま入力すると0204だ!」といったところか。

 この閃きまでの時間とヒントが欠けているというか、見せ方が地味すぎるとでもいえばいいのか……彼らが謎を解いていってもいまいちしっくりこないのだ。それぞれの得意分野があり、個々に活躍の場面がある程度設けられているのも悪くない。しかしそのせいで全員が普通の人とは違う特殊な人に見えてしまい、割と脱出ゲームが始まった直後からどこか醒めた目で彼らの姿を俯瞰していた。

 謎解き自体は悪くない。展開もまあいい。少しばかりのグロとエロも魅力がないわけじゃない。内容は尖っているが、どれもこれもよくて70点といったところで売りが欠けていた。顧客の要望を満たした最低限販売可能な商品とでもいうべきか、何かを切り捨ててでももっと独自性を出すべきだったとでもいおうか……なんともまあ残念な作品である。例えるなら本作はお湯を入れすぎたカップ麺だ。ジャンキーだが味は薄い。

※追記
 同名の映画が3本あり、この映画は恐らく一番微妙な映画だろう。もっとも古く(2017年)、B級要素が強い本作。翌年の2018年に公開されたのは死刑囚が主役の作品。そして最も評価が高く、続編も作られているのが2020年のエスケープ・ルーム。どれも脱出ゲームだが、どうせ観るのなら評判が少しでもいい方を観た方がいいだろう。

1152文字 編集

96分

 チープなゾンビ映画を撮る集団が撮影をしていると、なんと本物のゾンビと遭遇してしまう。カメラマンはカメラを置くこともなく、監督の意向に沿ってカメラを回し続けるのだが、次々と被害者は増えていくのだった……。

 かなり今さらな気はするものの、一昔前の話題作を遂に観てしまった。低予算インディーズ映画でありながらも大きな話題となり、予算の100倍を超える興行収入を得たというのだから恐れ入る。仕掛けは単純でジャンルとしてはゾンビというよりはファミリー映画。感動とまではいかないが家族愛を感じられる……要素がある。

 ただ正直に言えば映画としての面白さは微妙だった。裏でのやり取りが分かりやすすぎたのと、本編を含めて全体的にチープすぎたのが合わなかった。彼らが次の指示を待っていると分かるシーンが多ければ多いほど劇中劇の作り物感は増す。しかしプロフェッショナルらしさは減ってしまい、いくらなんでも対応力不足では? と思ってしまう。お芝居を見せるお芝居を見せられているというややこしさが戸惑いを生む。

 彼らはこういうものを作ろうとしています。そうして出来上がったのがこちらの作品です――という流れ自体には何の不満もない。ただ先述した通りチープすぎた。意図的に分かりやすく、そこかしこにヒントをばら撒いている。こういった作品の入門用とでもいうか、子供向け作品のような極端にシンプルな作りと過剰な演出が重なり、B級映画ファンとA級映画ファンの両方を遠ざけているように感じてしまうのだ。

 なんかおかしいな、で留めていれば驚きや納得もあっただろう。馬鹿らしさに突っ切ったせいかもしれないが、観客を驚かせたいのか家族を描きたいのかテーマを絞って欲しかった。それでも本作はヒットしたし、面白かったという声も多い。納得していない者も多いが、それはこの作品の何を見ているのかにも寄るのだろう。

 面白い映画を観たいという者からすれば、本作は微妙だろう。ソンビもパニックも作り物。人によっては耐えられないほどの退屈な時間を抜け出したかと思えば映画の裏側。ここでそうなっていたのか、と初めて気付いて驚く楽しみもあるかもしれない。やはりそういう裏事情があったのか、と確信して楽しむのもアリだろう。けれどもそれは最初のチープな映画自体に興味を持てないといけない。ここが最初で最後の難関だ。

 ちなみに私は『the FEAR』という古いゲームを思い出しながら映画を観ていた。そのゲームでは番組撮影のカメラマンとして主人公を操作し、ハプニングに巻き込まれる。そちらもなかなかチープ感が強いものの、恐ろしいことに驚くような仕掛けはない。カメラは止まらず、現実離れした出来事と遭遇して悲惨な目に遭う。それはそれは凄い仕上がりなのだが……これはこれとして楽しめた。さて、この違いはなんだろうか。

 私が思うにこの映画は娯楽を追求しすぎたのだ。一方で先述したゲームはゲームとしての楽しみをある程度理解していた。可愛いタレントとちょっとした謎にホラー。映画監督役の彼ではないが、顧客が望むそこそこのラインを維持していたのだ。「これはこういう娯楽映画だ!」とごり押しされて受け入れられる人なら面白い。「ゾンビは?」「話題になってた要素はこれ?」と別方向に期待してしまっていた人には物足りない。

 だらだらとよく分からないことをうだうだ書いてしまったが、決して面白くないわけではない。上質なホラー映画を観たい気分の時に上質なミステリー映画を観てしまったようなものだ。悪くはないが、これじゃない。ただこういった映画が大衆に受けるというのは素晴らしいことだと思う。作り上げる楽しみと感情の共有。それが面白いという感想に繋がるのだとすれば、大勢と創作の楽しみもわかり合えるのだ。

 普段映画を観ないで、文化祭で盛り上がるのが好きだという人にはおすすめだろう。

1626文字 編集

原題:The Hangover
108分

 結婚式を控えた男とその友人たち。彼らは独身最後の夜を楽しむためにラスベガスでバチェラー・パーティーを行う。パーティーは大いに盛り上がり、素晴らしいひとときを過ごした……のかどうかも分からぬままに夜が明けると、そこに花婿の姿はなかった。何があったのか考えようにも部屋の中は荒れ放題。トイレには虎が居るわ赤ちゃんが泣いているわで何が何だか分からない。謎と赤子を抱えたまま、彼らは花婿を探すのだった。

 二日酔いで登場人物たちの記憶ははっきりしないまま、一体何があったのかをひたすら調べ回る。終始それだけの映画である。記憶を探る映画といえば何らかのサスペンスやミステリーを想像してしまいがちだが、この映画にそんなものはない。ふざけた大人が暴れ回るだけだ。下ネタに抵抗がなければ気楽に楽しめるコメディ映画で、それ以上でもそれ以下でもない。ピンチを迎えてもあっさり解決するからはらはらもしない。

 息を呑みながらこれからどうなるんだろう、という楽しみ方を求めている人には全く薦められないどころか止めておけとも言いたくなる。身も蓋もない言い方をすればこの映画に中身なんてものはほぼ無い。どうしようもない大人と下ネタなんてものはそれこそ酒の席でのネタにしかならないものだ。しかし彼らは本気だ。本当にどうしようもなく、だらしないながらも真剣に記憶と花婿を手に入れるべく奮闘する。

 娯楽映画を観たい。B級映画を観たい。これはそんな軽い気持ちで見てはいけない映画だ。私は何も考えずに観てしまったが、この作品を心から楽しんでみたい場合は下準備が必要だろう。まず酒を用意する。ついでに軽食もあればそれも。後は酔っ払う手前まで酒を呑んでから映画を観る。それだけで彼らと同化した気分になれるだろう。素面で観てもいいが、映画に強い拘りを持つ人は止めておいた方がいい。悪酔いするだけだ。#[ハングオーバー!シリーズ]

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原題:De toutes nos forces
90分

 ジュリアンは障害を持って生まれてきた。彼の父親であるポールが失業してしまい、久しぶりに帰宅したものの親子の会話といったものはない。ポールはジュリアンとの接し方が分からなかったのだ。気不味い雰囲気のままずるずると日が過ぎ、母親のクレールもストレスを抱えてしまう。ある日ジュリアンはポールの古い写真を目にして、彼が昔はトライアスロンに出場するほどのスポーツマンだったことを知る。ジュリアンはポールに近付いていくと、トライアスロンに出たいと宣言し……。

 障碍者の子と元トライアスロン選手が親子でトライアスロンに挑戦するという映画だが、ジュリアンは走ることも泳ぐこともできない。陸では車椅子に乗り、海ではボートに乗る。つまり父親のポールが車椅子を押し、ボートを引っ張ることになる。もしジュリアン自体が障害を乗り越えて地面を蹴り、波を掻き分ける姿を期待している人には視聴を勧められない。映画の主役はジュリアンとポールだが、トライアスロンの主役はポールだけだと考えても問題ないだろう。

 とはいえ屈強なスポーツマンでも脱落してしまうような競技のため、ジュリアンにとっては相当きつい。日差しは体力も水分も奪ってしまい、熱中症の危険も付きまとう。おんぶにだっこでただ競技に参加しているだけの存在にも見えてしまうだろうが、体自体をまともに鍛えにくいジュリアンが脱落しないだけでも十分に凄いのだ。たとえ我が儘な駄々っ子に見えても、騒げる体力があるだけ普通ではないと言える。

 と、ジュリアンのフォローをしてみたものの、やはりこの映画で凄いのは父親のポールだ。ポールは最初から最後まで重りを背負って参加しているようなもので、いくら元々トライアスロンに出場していたといってももうオッサンである。それにトレーニング期間も短く、1人で完走できるかどうかも怪しい。そんな人がひたすら泳ぎ、漕ぎ、走る。一体どうやったらこんなオッサンになれるんだろう。

 ポール役のジャック・ガンブランにはマッツ・ミケルセンのようなセクシーさもあり、頑張るオッサンの姿が妙に美しく感動的に見える。ちなみにこの映画、トライアスロンのシーン自体はそう長くない。終盤はひたすら競技シーンを見る羽目になるが、序盤から中盤にかけては親子の仲が深まっていく様子が描かれる。スポーツによる感動作というよりは、家族愛による感動作の方が正しいのかもしれない。

 良い映画だとは思うが、あらすじや予告から想像できる通りの物語といったところ。何の捻りもなく、これといった驚きもないままあっさりと終わる。親子愛や感動といったものを求めていればある程度満たされるだろうし、そうでなくとも駄作とまでは言い切れないだろう。映画というよりもやや演出過剰なドキュメンタリーのようなものと思えばいい。日常の延長線上にある幸せを噛み締めたい人に見て欲しい。

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原題:The Hangover Part II
102分

 仲良く酔っ払って酷い目に遭ったフィル達はまた懲りもせず二日酔いでよく分からない状況に陥っていた。どうしてそこに居るのか、何故彼はいないのか。1作目と変わらない展開のまま、また彼らの記憶を振り返るストーリーが始まる。

 率直に言ってしまえば前作が全く合わなければ今作も合わないだろう。一部は前作以上のインパクトもあるが、前作ほどの新鮮味はない。酔っ払う直前までのストーリーを観た後で二日酔い後の朝。それから数少ないヒントを頼りにあちこち飛び回る。大筋がここまで変わらなくても許されるのはコメディだからだろうか。だが批評家は厳しく、評価も低い。興行収入が少なければここで終わっていてもおかしくなかったのである。

 ところが不思議なことに私は前作よりも今作の方が合っていた。スプラッター要素の増えたこの映画が趣味に近かったのだ。確かに小休止のようなギャグは物足りなかった。それにアランの性格が極端に悪くなり、それを帳消しにする大活躍をする機会もないせいで単なる嫌なやつになってしまっている。その辺りを考えると、前作への思い入れが少ない人の方が楽しめるのかもしれない。

 オリジナルを超えられる要素が作れなくて過激さを足した可能性はあるが、その過激さが人を選ぶ要素になってしまっているのは残念だ。酒を呑みながらだらだら観ようと思っていた人が気分を悪くして視聴を諦める展開もあり得る。ただ名作かといえばそうではなく、迷作でもない。馬鹿騒ぎをするだけの悪くない映画。果たして最終作はどちらに転ぶのか。不安を抱えたまま、今日か明日には観てみようと思う。#ハングオーバー!シリーズ

744文字 編集

原題:The Hangover Part III
100分

 大きなトラブルを巻き起こして父親を疲弊させ、脳か心臓かはたまた血管に負担を掛けさせてしまったアレン。哀れにも父親は命を落としてしまい、家族はアレンを何とかしようと画策する。ところが治療するために病院へと連れて行くことになり、自動車を走らせていると酔ってもいないのに得体の知れない集団に襲われてしまう。彼らは何なのか。アレンはまともになれるのか。今までとは異なる展開で物語が動き出すのであった。

 タイトルはこれまで通りのハングオーバーということで、そのまま訳せば二日酔いである。しかし今回は二日酔いではない。素面のまま身に覚えのないトラブルに巻き込まれる形でストーリーは進む。だがトラブルの原因には深く関係しており、今彼らが置かれている状況は二日酔いが招いたものである。二日酔いからのスタートという定石からは外れたが、二日酔いで何かが起きて解決するという流れは本作でも健在である。

 まさかお前がずっとレギュラーなのかという驚きや、お前はもう出ないのかよという突っ込みが出そうになるが、これまでの活躍ぶりを見ればこの人選になってしまうのも仕方ない。彼がいなければ最初の大事件も発生せず、彼と関わっていなければ以降のシリーズも産まれない。真の主役は彼だ。それが良いか悪いかは別として。興行収入も評価も下げてしまったのは彼が出しゃばりすぎたせい……かどうかは分からない。

 相変わらずのテンションでお馴染みの流れ。しかし勢いは落ちていくばかり。娯楽作品だから雰囲気を楽しめたらそれでいいって人にはいいが、とりあえず映画として完結させましたという印象が強く、ハングオーバーは3部作になってしまっただけのシリーズとも言える。1作目でそのまま終わっていた方が良かっただろう。蛇足に蛇足を重ねては地を這うのにも不便で、足も揃わない。迷走してしまうのも致し方ないのだ。

 それでも佳作にしてしまうのは、こういう馬鹿馬鹿しい娯楽映画そのものが好きだからである。マンネリを何とかしようとしている努力は見えたわけで、随所で笑いを取ろうとしているシーンもあった。最後の最後でまたお馴染みの流れを繰り返すのも作品そのものへの愛を感じられる。娯楽を作り、完成させようとした者が居た。その事実だけで嬉しくもなる。馬鹿馬鹿しい映画を観たい。そんな人だけが観ればいいのだ。#ハングオーバー!シリーズ

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原題:Search Party
93分

 結婚式を控えて騒ぐ3人の男達。不安からか花婿から本音が漏れてしまい、あろうことかその時の愚痴を結婚式で暴露されてしまう。花嫁は逃げ出すわ結婚式は台無しだわで散々な結果に終わる。それから時は流れたある日、花婿は何故か全裸で見知らぬ土地にいた。親友2人は彼を助けに自動車を走らせるのだが……。

 タイトルや冒頭のテイストは『ハングオーバー!シリーズ 』を思わせるが、別にシリーズの続編でもなければスピンオフでもない。ハングオーバー2作目の脚本家(の1人)が監督を務めたオリジナル映画で、原題もそこまで寄せていない。ただまあ……そうでもしないと誰も観ないんじゃないかという気はする。本作は掴みが弱いのだ。

 いまいち盛り上がる展開もないまま進み、ちょっとしたスパイスが出てくる程度で退屈な印象を受ける。サメ映画からサメを抜いたB級映画のようなもので、大パニックが起こる前の小パニックをひたすら見せつけられる作品である。イケメンもいなければ解き明かす謎もない。本家も娯楽に振り切ってしまうとこうなるのだろう。

 序盤の辺りを乗り切ることができれば最後まで視聴することも可能だが、序盤で合わないと感じた人はその場で視聴を止めてもいい。Scarborough Fairの使い方に少し笑い、Rosa Salazarをずっと映してて欲しいなあと思ったりしたくらいで売りはよく分からない。本家が胃もたれしてしまう人はちょうどいいかもしれない。

661文字 編集

原題:Liar Liar
87分

 フレッチャーは有能な弁護士だ。しかし優れた父親ではなかった。妻とは別れ、子供のマックスを溺愛しているものの仕事を優先して約束を破ってばかりいる。マックスも父親を愛しているのだが、誕生日までそれでは納得できない。そこで彼は「パパが嘘をつきませんように」と祈る。するとその願いは叶ってしまい、フレッチャーは嘘をつくことができない状態で嘘まみれの浮気女の弁護に向かう……。

 嘘を吐けない。たったそれだけの要素でキャラクターとストーリーが出来上がっている。監督と役者の演技があってこその映画で、同じ脚本があったところでこれだけ楽しめるかは微妙だろう。基本的にはコメディだがホームドラマでもあり、家族の素晴らしさを堪能できる。嘘自体は簡単だしうまく使えば役にも立つ。けれどもそれに頼ってばかりでは幸せになれない。フレッチャーはたった1日でそのことを理解する。

 嘘を吐かずに危機を乗り越える方法というものはなかなか見つからない。トラブルに巻き込まれてもっともらしい言い訳をする機会を期待するか、自身の成長で乗り越えるしかないのだ。そこで彼はトラブルを演出し、嘘を吐かずに切り抜けようとする。その光景を見ていれば頭の問題だと判断されて切り抜けられる気もするが、彼はどうにかこうにか乗り越えてみせる。ここに見た目とは裏腹な優秀さを感じ取ることが出来た。

 そんな人物でも嘘という武器を奪われるだけでとんでもない苦労をしてしまうのだ。もし優秀でもなんでもないいわゆる普通の人から嘘を取っ払ってしまったら……きっと人生は酷いものになるだろう。ERで知られるモーラ・ティアニーの愛らしさも魅力的だが、マックスを演じるジャスティン・クーパーもいい。ワガママさが不足しているものの、子供の魅力を全身から伝えてくれる。これは嘘吐きにこそ観て欲しい名作だ。

797文字 編集

原題:챔피언
108分

 遠い異国でマークは用心棒として働いていた。ある日、彼がかつては腕相撲のチャンピオンを目指していたことを知る男――ジンギがクラブ内の腕相撲に参加するよう迫る。その腕相撲は賭け事の対象であり、取り仕切っている人物はマークの雇い主でもある。ここは空気を読んで負けるべきだがマークは勝利し、仕事を失ってしまうのだった。

 転職を余儀なくされたオッサン(マ・ドンソク)が祖国に帰って腕相撲をする。一言で言えばそれだけのストーリーだが、ベタベタな王道ストーリーが見事にはまっている。ぶっちゃけるとマ・ドンソクのアクションが見たいという動機だけで本作を選んだ。ところが思いのほか良かった。真新しさはなく意表を衝く展開もない。だが楽しめた。

 随所に挟まれるコメディ自体はそこまで面白くない。爆笑とまではいかず、ああここは笑いを取る場面なんだなと分かりやすく、息抜きができるようなものばかりだ。マ・ドンソクのアクション要素自体は控えめで少しがっかりしたものの、普段いかついオッサンが見せる笑みや楽しそうな表情を味わえるのはいい。彼だって怪物ではなく人なのだ。

 お涙頂戴とまではいかない家族愛にコメディとスポ根。それぞれがバランスよく組み合わさっており、くどさとしつこさのないちょうどいい映画に仕上がっている。主役だけではなく脇役もキャラが立っており、大物と小物の比較を楽しむのもまた一興か。本気に見えないだろうが、本作はスポ根と可愛いオッサンが見たい人にオススメしたい。

653文字 編集

原題:Yes Man
104分

 自ら退屈な日々を選択するかのようにノーと言い続けたカールが怪しいセミナーに参加し、今度はなんでもかんでもイエスと言うようになる。たったそれだけで人生は大きく変わり、様々なチャンスに恵まれる。しかしいつまで経ってもそれで通用するとは限らず、カールはイエスが引き金になってピンチも迎えてしまい……。

 ノーと言えない日本人という表現がある。これは心優しいのか自分の意思というものがないのか、知らず知らずにイエスマンになっている日本人の国民性を現したものだ。ノーと言える外国人が日本人さながらにイエスと言えばどうなるか。その模様を描いたのがこの映画だろう。彼の場合は極端だが、まあこんなものかもしれない。

 率直な感想としては、こんな展開あり得ない。しかし本当にそうだろうか。自分の常識というものに囚われてはいないか。あり得ないとは言ったが、どれも不可能というほどではなかった。運良く偶然が重なれば昇進もするだろうし、運悪く偶然が重なれば警察に睨まれることだってあるだろう。これは一つの可能性を描いた映画なのだ。

 人生が失敗続きで何もかも上手くいかない。何の意味も見出せない日々を過ごしていれば死にたくもなるだろう。そんな人生を変える切っ掛けがカールにとってのイエスだった。言葉一つ、行動一つ変えてみれば世界が変わる。怪しいセミナーじみてはきたが、そういう人生の変え方について教えてくれるのが本作である。

 人生が上手くいっている人からすれば、本作は退屈な映画にもなりえる。なにせ退屈な人生からようやく抜け出して、これから面白くなっていくというところで映画は終わってしまうのだから。何か思うところがあって考え方を変えたいという人にはいいだろう。良い作品だが、打ち切りのような印象もあるのが少し残念なところだ。

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原題:El laberinto del fauno
119分

 軍人に囲まれてどこかへ向かう少女と身重の母。そんな状態で荒れた道を進んだせいだろう。母は気分を悪くして車を止めさせる。少女――オフェリアは車中で夢見がちな本を母から馬鹿にされたこともあり、車を降りた後も不満げに辺りを見回していた。そこで足元にあるものに気付き、それをある場所へと戻した。すると妙に大きく存在感のある虫が現れ、オフェリアは驚く。しかしその場では特に何も起こらず、再び車へと戻り目的地へと向かうのであった……。

 正直に話すと私はファンタジーをあまり観ない。別に嫌いではないのだが、他に観たい映画があればそちらを優先してしまうのだ。それというのもどちらかといえば本作の母親に近く、あらゆるものを空想よりも現実を重視して判断してしまうせいである。ゲームだと気にせず買うが、映画は2時間程度の時間に全力を注いだ究極の作り物だと考えており、ファンタジー映画は作り物の中の作り物という感情を抱いてしまうのである。

 ただの偏見には違いないが、そんな私でもふとファンタジーに興味を抱く瞬間はある。美しい映像や魅力的なキャラクター。そして凄惨な表現。本作にはその要素が全て含まれていた。3DCGがお粗末(時代を考えれば仕方ないのかもしれないが)なのは気になるが、全体的に好みではあった。ただ、それでも名作とは言えなかった。オフェリアの扱いがどうもご都合主義というか、演出にしても説明不足な印象を受けたからだ。

 彼女の気力や豪胆な性格は場面によって変わっているように見える上に、ピンチを招いてもよく分からないチャンスを与えられる。作中屈指の悪人についてもそうだ。彼は警戒心があるのかないのか。短いシーンで変化に気付き、何も怪しまずに手を伸ばす。よくそれまで生きながらえてきたものだと感心する。尊敬はできないが。

 内戦だのダーク・ファンタジーだのと作風やテーマ、表現のせいで単なるファンタジー好きにはオススメできないが、普段から血にまみれた作品を観ている層にはオススメできる。その傷で断面も生々しいのになんで血が止まってんだ、針くらいで急にガーゼを染めるほどに出血するのは何故だ! と突っ込みたくなるシーンもあるが、十分面白い映画だった。細かいことは考えず、映像に酔いしれよう。

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原題:A.I. Artificial Intelligence
146分

 未来の世界ではロボットが一般的となり、社会に溶け込んでいた。ある製造会社で働く家庭にも最新の少年型ロボットが送られることになり、その夫婦は戸惑いつつも彼――デイビットを受け入れる。しかし本当の息子が不治の病から快復し、お互いに母であるモニカの愛情を欲するようになる。より人間らしさを追求した結果の行動ではあったが、人間らしくなるにつれてトラブルにも巻き込まれやすくなり、棄てられてしまうのだった。

 人間となって人間のように愛されたいロボットがどうやったら人間になれるのかと考え、行動する。ロボットを題材として扱う作品としては普遍的なテーマではあるが、退屈でありきたりな展開はそう多くない。眠たくなるようなシーンは序盤程度で、人によっては試練のようにも思えるだろう。けれども序盤のシーンを乗り越えれば後は目まぐるしく移り変わる映像や展開を楽しめる。

 キューブリックらしい内容は個人的にも嬉しいのだが、監督はスピルバーグ。だからか所々の表現はマイルドになっている気もするし、映像の美しさも若干物足りなく感じる。映像も演出も悪くない。名作だと断言もできる。だが違う。私が求めているのはキューブリックが撮ったA.I.だった。しかし彼じゃなかったからこそ、多くの人から好かれる映画にもなれたのだろう。彼の才能を知らしめる作品としての価値は高い。

 登場人物自体はそれなりなものの、主要人物は少ない。セクシーでキュートなジュード・ロウが演じるジゴロ・ジョーが目立つせいか、登場人物(どちらも人間ではないが)は2人だけだったんじゃないかという気さえする。それでも飽きずに見ていられるのは監督の実力だろう。キューブリックじゃないのは残念だが、代わりに監督をしたのがスピルバーグで良かったと言える。愛について思うところがある人にぜひ一度観て欲しい。

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原題:The Amityville Horror
90分

 どこかから聞こえる声に導かれて、その男は自宅で家族を惨殺してしまう。それから月日が流れ、事件現場となった豪邸をある一家が購入する。住み始めた直後から不思議な現象は起きていたが、ジョージとキャシーは現実に目を背けながら新たな生活を送っていた。しかし狂気はじわじわとジョージの心を蝕んでいくのであった……。

 1979年に公開された作品のリメイクであり、実際に起きた殺人事件を基にしている。といっても実際はここまでオカルティックな出来事はなかったらしく、そういうことにしたかった殺人鬼や監督の思惑でなんでもありなホラーに仕上がっている。ホラー映画だからと受け入れれば気にもならないが、これで現実がどうのと言われたら興ざめだ。

 ホラー映画に必要なものが意表を突いた演出やスプラッター要素に未知の恐怖だとしたら、この映画は一定値の評価を得るだろう。だがそれまでだ。終盤の展開は妙に急ぎ足で、急に映画のエンタメ要素を見せつけられるのもよく意味がわからない。静かに足下から静かに歩み寄るホラーなのか、ひたすらドッキリで驚かせるホラーなのか。監督は一体どういう映画にしたかったのか。私には理解できなかった。

 ホラーにエロは付き物だが、本作におけるエロ要員と思われるベビーシッターのリサもすぐに居なくなってしまう。その家は何かおかしいと説明する役割と、実際におかしいんだと伝える役割としては価値もあったが、彼女である必要はなかった。監督がおねショタのようなものを撮りたかっただけじゃないかと勘ぐってしまうほどだ。もっと扇情的なシーンを入れるか、いっそ出さないでほしかった。

 静かなままぞっとする映画で終わらせるか、中盤からあの激しいシーンの連続にしていれば佳作にもなったかもしれない。ところがそうはいかなかった。途中から監督を交代したかのような変化に戸惑うばかりで、ジョージの葛藤は説明不足だわピンチらしいピンチは少ないわで物足りなかった。こういう映画を作れば客は満足でしょ? という驕りで作られたかのような感覚もあり、消化不良の一言に尽きる。

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説明

 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

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