時系列順[114件](5ページ目)

原題:In the Line of Fire
128分

 警護官のフランクは大統領の護衛に失敗してしまう過去を持つ。それからというもの彼の人生は歯車が狂い、あまり良い人生は送れていなかった。年老いた今も現役で捜査官として働いている彼は、ある通報がきっかけで大統領を狙う暗殺者と接触する。姿も分からず、電話から聞こえる声だけしか知らない男を追い、過去の未練を断ち切るかのようにフランクは相棒のアルと捜査を進めるのであった。

 シークレットサービスのエージェント。ベテラン。そして相棒。見ただけでわくわくするような言葉が並ぶ映画な上に、主演はクリント・イーストウッド。いつか観ようと思いつつも放置していた作品に気付いた私は、よく分からないB級映画とは違って期待しながら視聴を始めた。それでもがっかりすることなく楽しめたのだから、さすが名作である。

 序盤から中盤までは相棒との掛け合いや暗殺者との親しげな会話が中心だが、フランクは途中から真面目になり、暗殺者は恐ろしさを見せていく。そこに至るまでの変化が良いバランスで描かれており、ひたすらシリアスな作品ほど気張らずに最後まで観ていられるだろう。ある銃の作りや弾丸の隠し方なんかはスパイ映画のようでぐっとくるのも良い。

 間違いなく好きな映画ではある。しかし具体的な舞台背景というべきか、時代がはっきりとはしていないのだがとあるシーンでは少しもやもやする場面もあった。それは暗視装置の有無だ。近代的な武器や兵器が誰よりも早く手に入りそうな組織だというのに、なぜそれがないのか。まだ試作すらもない頃であれば仕方ない。だが最初の暗殺事件から経過した時間を考えると……無い方が不思議だろう。

 娯楽映画にリアリティを求めるのはナンセンスで愚かだ。私もあまりそんなことはしたくない。けれども現実を絡めた映画になってしまっている以上は、どうしても細かい点が気になってしまう。かといって暗視装置に頼り、あっさり終わってしまうのも困る。難しい問題だ。最後にケチを付けてしまったが、良い映画には違いない。

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原題:Suspiria
99分

 バレエの名門校に入学すべくスージーはアメリカからドイツまでやってきた。何故かその地に着いてから妙な感覚や気分の悪さに悩まされており、遂には体調不良で気を失ってしまう。奇怪な事件に奇妙な出来事は連日続き、スージーもさすがに何かおかしいんじゃないかと考える。しかし想像を遥かに超える真相に近付き……。

 ホラーが好きなのに観ていないのか、という声があり本作に目を通した。主題歌とタイトルは知っていても具体的にどんな映画なのかは知らなかったので、余計な知識がないまま色々と想像する機会が得られたのは非常に良かったと思う。けれども不条理が許されるホラーと、トリックや動機が重視されるミステリーやサスペンスの混ざり合った作風は個人的には微妙だった。どちらかに集中して欲しかったのである。

 人が死ぬシーンはどちらでもそれなりに満足できる。ホラーっぽくもあり、誰かが仕組んだトリックのようにも見えるのだ。ただあまりにもあっさり人が死ぬ。その死に呪いであったり儀式であったりと法則性や関連性が色濃く出ていれば、考える楽しみから真相に触れる喜びにも繋がっていた。だが本作にはそれほど深い理由はない。誰かにとって都合が悪いから死ぬ。ただそれだけなのだ。

 ホラーやスプラッター要素を重視して、もっと血を増やすか超常現象のようなものを増やしてくれたらよかった。謎は謎のままにしてくれた方がホラーとしてはぐっとくる。謎が明らかになった瞬間に落胆したのは私だけではないだろう。ジェシカ・ハーパー演じるスージーの魅力が乏しければ途中で諦めていたかもしれない。世間的にはホラーの名作でも、個人的には気合いの入ったB級ホラーだった。

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原題:Profondo Rosso
126分

 テレパシーが使えるというヘルガ・ウルマンの講演には半信半疑の観衆が集っていたのだが、能力を疑う人らの前で彼女は所持品や名前を見事に言い当てる。もちろん事前に仕込んでいれば誰にでもできるテクニックではあるが、その場に居る者は彼女の力を信用する。しかし講演の途中で彼女の様子がおかしくなり突然妙なことを口走る。それだけで済めば良かったのだが、ヘルガは何者かに殺されてしまうのであった……。

 邦題にサスペリアと付いてはいるが、続編ではない。それどころかサスペリアよりも前に作られている。監督は同じダリオ・アルジェントだが、日本での公開はサスペリアの後だった。沈黙シリーズのように配役と展開で勝手にシリーズ化したものとは少し違うが、監督が同じで先に公開した映画が話題になったからと安直な理由で名付けられたのだから似たようなものではある。

 最初は邦題のせいであまり期待していなかったのだが、サスペリアとは関係なくよくできた映画だという情報も目に入ったことで観てみようと思えた。だがはっきり言って眠かった。サスペリアよりも退屈な印象を受けた。しかし徐々に引き込まれていき、今となっては有名な伏線にも驚かされた。人の視覚や記憶力というものは想像以上に雑な作りで誤魔化されやすいものなのだ。

 凄い映画である。とはいえ眠気を誘う内容なのも事実で、サスペリアでもあったゴブリンの曲が良くも悪くも特徴的。それにピアニストのマークがピアニストである意味はほぼ皆無な上に指の扱いが雑で驚く。凝っているが詰めが甘いとでもいうべきか、その面白さに触れるまでの待ち時間が長いのが難点だ。退屈でも耐えて、何の意味もなさそうな場面までしっかり目を通しながら違和感の正体を考えて楽しもう。

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原題:Nicky Larson et le Parfum de Cupidon
93分

 何でも請け負う優秀なスイーパーの冴羽獠(またはニッキー・ラーソン)は今日もライフルを構え、標的(トレーニング中の女性……の胸)を見つめていた。せっかく一流の腕があっても仕事をしなければ稼ぎもない。そんな状況を何とかする為にも相棒の香(あるいはローラ・マルコーニ)は美女の依頼だと偽って依頼を受ける。簡単に終わる依頼だと思っていたが、そこには同じく一流のファルコンが現れてしまう……。

 シティハンターの大ファンである監督が脚本も主演も担当し、またよく分からない実写化作品が出たと不安視されていた話題作である。しかし本作は作品への愛とリスペクトに満ちており、元の作品を知らずとも楽しめる娯楽映画として仕上がっていた。実写化作品は原作を重視しすぎて現実離れした作品になりすぎてしまったり、原作を軽視しすぎて得体の知れない何かになってしまったりするのだが……本作は実に良かった。

 原作やジャンプ作品、吹き替え版であれば出演声優の知識等があれば笑えるような人を選ぶ小ネタがさり気なく挟まれており、そういった知識がなくとも楽しめる小ネタもある。終始ふざけた雰囲気はあるがシリアスな場面では気にならず、そのシリアスさを利用したシュールな笑いも含まれている。それでいてアクションシーンの迫力も十分でアクション映画としての魅力も強い。これは手放しで面白い映画と断言できる。

 ただまあこれが嫌いだと言う者も居るだろう。元々が古い漫画作品ではあるわけで、今の差別だ権利だのと個々の主張が強い世の中では人を選ぶ表現が多い。女性を性的な対象として見ただけでクレームだろうし、穿った目で見る人からすれば香の扱いは足手まといの役立たずにも見えるだろう。そこには彼なりの愛があるわけだが、そういう人にそんなものは通用しない。それに下ネタというだけで無理な人も居るだろう。

 原作ファンには色眼鏡をへし折ってからとりあえず冒頭だけでも見て欲しい。ファンじゃなくともアクション映画や娯楽映画の良作を探しているのなら最後まで楽しんでもらいたい。実写化作品だからと侮ってはいけない。監督の愛は強い香水でも嗅いでしまったかのように強烈で、この映画を見ればその世界観に惚れ込んでしまうはずだ。

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原題:Babysitting
85分

 待ちに待った誕生日。パーティーを目前に控えたその日、フランクは社長から声を掛けられる。さて何かと思えば息子の子守を頼みたいと言う。パーティー当日に子供の面倒なんて……とフランクは断ろうとするが、ある約束と引き換えに子守を引き受けるのだった。しかし息子のレミは今時といえば今時な子供で、割と面倒な性格をしていた。更にただでさえ子守で苦労しているフランクの元にパーティーを強行しようとする友人らが迫り……。

 なんらかのトラブルが起こって、それが何だったのかを振り返る。『ハングオーバー!シリーズ 』を思い出す構成ではあるが、あそこまでぶっ飛んではいない。謎解きのようなものもなく、最後まで観てみれば全く違う映画だと分かる。シティーハンター経由でフィリップ・ラショーに興味を持って見たわけだが、妙なタイトルで敬遠せずに観て良かった。人を選ぶシーンは多いものの、エロにしたってエロすぎない。表現の仕方がマイルドなのである。

 登場人物の癖も控えめで、観ていて疲れる人や現実離れしすぎて興醒めしてしまうような人も居ない。もしかしたらこんなこともありえるかもしれない……? と思える範囲で馬鹿をやっているような映画(とはいっても日本人の持つ海外のイメージだけども)で、笑いを取りつつも家族の絆や愛というものを描いてくれるのは凄い。監督は2人居るとは言え、これが監督デビュー作だというのだから恐れ入る。尊敬どころか嫉妬すら覚えるほどだ。

 フランクも途中でやらかしてはいる。しかし元凶は悪乗りが過ぎた友人たちである。なんとかしようともがきつつも意中の人と愛を育みたいフランク。父にもっと構ってもらいたいレミ。物語の鍵となる人物の根がまともで色んな意味で良い性格をしているおかげで、多少妙なことになろうともどこか清々しく、視聴後の爽快感や充実感にも繋がっている。割とおばかでちょっと感動な本作は、ちょうど今のような蒸し暑い時期に観て欲しい。#[ヒャッハー!シリーズ ]

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原題:Babysitting 2
93分

 フランクは恋人のソニアといつもの面々でリゾート地へと向かう。目的地にはソニアの父が経営するホテルがあり、彼はそこでソニアにプロボーズをしようと考えていた。ところが再びトラブルに巻き込まれてしまい、ソニアと別行動をしたままフランクらは行方不明になる。何故かホテルの近くにはカメラが落ちており、その映像を検証するのだが……。

 また同じような展開で進む続編。規模は大きくなったものの、残念ながら二番煎じに終わっている。この辺りも『ハングオーバー!シリーズ 』のようで複雑な心境だ。続編だから仕方ないとはいえ、原題の子守も本作では意味が無い。祖母の子守をしているといえばそうだが、そんな表現でいいものかどうか。サブタイトルの方がよかったのでは? とは思う。

 前回は豪邸と遊園地が主な舞台で、本作は南国の島。必然的にヒロインらは薄着にもなるし、水着姿を惜しみなく披露してくれる。サービス要素は増したと言えるが、おかげでB級の感も強まった。B級映画もそれはそれとして楽しむ身で、エロ要素を歓迎する立場としては臨むところではあった。だが映画のアクセントやスパイスとしての力はなかった。

 最後の最後でうまくいっていい話にまとめようとするのもいい。しかしこれでは前作と変わらない。個人的に好きな映画を作れる監督には違いないのだが、コメディに強くとも独創性は欠けるように見える。続編のような扱いを受けている作品も視聴する予定ではあるものの、同じような構成で変わらない展開の作品になっていないか不安である。#[ヒャッハー!シリーズ ]

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原題:Alibi.com
90分

 アリバイドットコム。その名の通りアリバイを作ることを目的に設立された会社である。社長のグレッグは多くの顧客を抱え、その中には有名人までもが含まれていた。しかしある依頼で引き受けた顧客の娘と偶然知り合い、恋に落ちてしまう。後ろめたさもあり契約の破棄を迫るがうまくいかず、自身の経歴も偽ったままアリバイ作りに加担することとなるのだった。

 邦題にヒャッハーと付いているだけで、立て続けにレビューしている作品との関連性はない。同じ監督で同じコメディグループが前面に出ている以上は続編のようなものと言われても仕方ないが、ストーリーの繋がりは一切無い。これまで以上に人を選ぶネタが強化されているのが特徴で、下ネタが合わない人も多いのではないだろうか。

 トラブルに巻き込まれてどうにかするという展開はお馴染みだが、元々アリバイを偽装するような会社だからかグレッグや周りの仲間は割と色々誤魔化す能力に長けている。それ以上に厄介な欠点が足を引っ張りもするせいで結果的に失敗してしまうのはまあ仕方ない。何もかもうまくいってしまえば嘘吐きがただ幸せになるだけなのだから。

 監督の下ネタがちょっと無理だったという人には見せられないが、逆に下ネタが良かったという人には問題なくおすすめできる。構成も勢い任せのヒャッハーな展開ではなく、そのまま時系列通りに進んでいく。下ネタに抵抗がなければフィリップ・ラショー監督に触れる最初の作品にしてもいいだろう。……本当に。下ネタに抵抗がなければ。

 個人的には名作よりの佳作である。ただ迷作扱いされてもおかしくないとは思っている。長尺のコメディを見せられているだけで、ゲームや映画のオマージュなんてものも分かる人には分かる要素でしかなく、ある場所から飛び降りようとするシーンやあるものを振り回すシーンなんかは、興味が無ければ間延びした無駄に長いだけのシーンとなる。

 この監督は映画やアニメ、ゲームといったものを心から愛しているのはよく分かった。そういうものに触れていればより楽しめるという見方も出来れば、理解しているからこそ各々の拘りによって受け入れがたくなるという見方も出来る。当然ながら知らなければその土俵にすら立てない。勧めたいが勧めにくい。実に癖の強い厄介な監督と映画だ。

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原題:범죄도시
121分

 韓国には元々韓国系ヤクザと警察が程々の距離感を持って存在していた。大きな事件を起こそうものなら遠慮無く逮捕もするが、些細な事件(街中で刃物を振り回したり暴行事件を起こしたり)程度ならそこまでには至らない。しかしそこに中国からのマフィアが加わり、均衡を保っていた都市が血に染まっていく。しかし警察も黙ってはいられない。恐ろしく強いマ・ソクトが頭も力もフルに活用しながら前線に立って意地を見せるのだった。

 韓国映画の強いオッサンといえばもうお馴染みのマ・ドンソクが主演。それだけでも個人的には興味をそそられるが、更にクライム映画ということで期待値はピークに。悪役の見た目がとあるYouTuberに似ているのが気になったものの、パラメータを悪に振ったらこんな感じだろうなという納得もあり、途中からはそこまで意識しなくなっていた。とはいえ見た目が似ているという印象は変わらず、ふとした拍子で現実に戻ってしまっていた。

 ヤクザとマフィアの抗争にちょこちょこ首を挟む警察といったシーンばかりで、警察側の派手なアクションシーンは思いのほか少ない。それでも重要な場面では圧倒的なパワーで悪役を懲らしめるのだから一定の満足感は得られる。しかし知能犯は一切出て来ないせいか、意外な展開というものを楽しむ余地は少ない。騒ぎが起きてからそこに出向き、アクションが始まる。ほぼ全てのシーンがそれで説明が付くのはワンパターンとも言える。

 ただ元々そんな映画になりそうな気がしていたのか、それとも最初からそうしたかったのかは分からないが、本作には所々で観客を笑わせようとするシーンが含まれている。個人的には黙々とラーメンを食べるシーンがシュールで良かったが、硬派な映画を期待していたらがっかりするかもしれない。犯罪メインというよりはアクションに犯罪が付いたような作品で、とりあえず強い主人公が見たいって人にはおすすめの映画だろう。

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125分

 家族で引っ越し先へと向かう車の中で、千尋は不満げな表情を浮かべていた。人生で初めて貰った花束。それはとても嬉しかったのだが、引っ越しでお別れになってしまうからという理由で貰ったことが不満だったのだ。引っ越したくもなかったのに引っ越す羽目にもなれば、不満を抱えてしまうのも仕方ない。それでいて両親はやけに好奇心旺盛で、ふと目に入った古い建築物に興味を示してしまう。まさかそれが冒険の始まりになるとも知らずに……。

 これまた少し前にあった、大勢の人が観ている割に観ていなかった映画。様々なメディアで何度も目にしている人も多いだろうが、それでもネタバレに配慮したレビューをする。ついでに評価も先に書いておこう。名作だ。好き嫌いはあるだろうが、これを駄作だの迷作だのという人はそう居ないと思う。日本人による日本を舞台にした日本らしいファンタジー。少女の成長と冒険も描かれており、よくできたアニメである。

 作中の登場人物で常識度ランキングのようなものを実施すれば、千尋の両親はきっと下の方に居るだろう。二人はなかなかにクレイジーで自由だ。よくこんな両親から千尋のような子が育ったものだと驚く。といっても千尋がまともかといえば少し疑問も残る。一言で言えば両親は食欲旺盛な豚だ。食材に大人を刺激する香りや味が含まれていたのかもしれないが、それでもまともな大人は無許可で料理に手を出さない。

 そんな両親の食欲だけは継いでしまったのか、千尋も得体の知れないものを食べようとする辺り片鱗がある。よく分からないものを手にして、それはきっとなんだかよく分からないけど良いものだと思える頭も凄まじい。だが千尋は子供である。大人ほど経験もなく、直感を重視してしまうことだってあるだろう。その点を踏まえても団子を喰らい、喰らわせるというパワープレイは両親に負けないクレイジーっぷりだ。

 そして本編はもちろん、サイドストーリーも魅力的だ。素人童貞が初めての風俗で嬢に優しくされて、貢ごうとする。しかしなかなか喜んでもらえずどうしたものかと悩む。ついには他の従業員に当たり散らして嬢にまで怒りをぶつける。しかし嬢は偽りの優しさをみせずに心から向き合う。その結果、素人童貞はオタクには優しいギャルから必要とされて、自分の生き甲斐を見つける。実にいい話だ。これは単なる比喩だが、大体は合っている。

 最後の最後で酷い比喩を書いてしまったが、終始楽しむことが出来た。なんとなく『いのちの名前』はいつどこで流れるんだろうと思っていたら最後まで流れなかったのが残念だが、元々歌詞はないもので作品を彩るテーマソングとのことで納得した。個人的には『いつも何度でも』よりも好きなだけに勿体ないと思いもしたが、随所でこちらが流れても違和感が強そうだ。今さらだが、観ていない人には是非観て欲しい作品である。

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原題:Falling Down
118分

 その日はとても暑い日だった。立ち尽くしているだけで汗が纏わり付いてきそうな蒸し暑さの中、ある男は苛立ちに耐えきれず自動車を降りた。自動車は停車していたが、そこは渋滞の道路。後続で待つ運転手からしたらたまらない。自動車を乗り捨てた男は我関せずといった様子でその場を去り、公衆電話を使う。しかし小銭が尽きてしまい、近くにあった商店で両替を頼む。だが断られてしまい、何かを買えと文句を言われる。それがきっかけとなり、男は怒りを抑えきれずに本能の赴くままに暴走していくのであった……。

 夏は年々蒸し暑くなり、様々な要因が重なって失業者も増えている現代社会を過剰に描いたような本作。主人公のフォスターは短気で暴力的な面のある中年男性だが、言ってしまえばそれだけでしかない。ただのオッサンがぶち切れて暴れ回った結果、とんでもない事件に発展させてしまったに過ぎない。色々と偶然が絡み合ったせいで暴走をエスカレートしてしまったわけで、元を辿れば店員がコーラを安く売ればよかっただけなのである。

 両替に応じるか、コーラを安く売る。たったそれだけのことでバットを振り回す男も拳銃を持ち歩く男も現れずに済んだ。オッサンが家に帰る。その途中で幾つかのトラブルに巻き込まれる。それだけのストーリーなのだが、これが不思議と飽きない。フォスターの怒りに共感してしまうからか、はたまた彼のわらしべ長者ぶりがわくわくするのか。映画とは監督と演出次第でどうとでもなるものなのだと実感させられる作品だ。

 主人公をどう思うかで映画の評価も大きく変わる内容なのは間違いなく、怒りっぽい中年男性の姿をひたすら見ているのは辛いという人もいるだろう。だが安心して欲しい。バーバラ・ハーシーにレイチェル・ティコティンといった美人が画面を賑わせてくれる。ディディ・ファイファーもチャーミングでいいが、彼女の出番はとても短い。暴走するオッサンと美しい女優を見たいと思っている方々を満足させるだけの魅力はある一本だろう。

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原題:Snatch
104分

 あるところでは鮮やかな手口で見事に犯罪をこなす強盗団が居た。またあるところでは素人集団の強盗団がやらかしていた。そしてまた別のところでは恐ろしく強いボクサーがボクシングをしていた。様々な連中が絡み合い、それぞれが自身の目的を果たすために協力し、裏切る。とてつもなくでかいダイヤモンドは血生臭い世界で生きる彼らの世界を映し出す。

 各キャラクターの名前を覚えきる前に気付けば終わっていたような映画だった。こういう映画が好きだという人の気持ちも分かる。だが私には合わなかった。面白い面白くないという話ではなく、2クールのアニメを総集編として再編集したような感覚が強かったのである。それも緩急が極端で、そこに時間を割いてそこは短く済ませてしまうのかと思ってしまうような場面もあり、スピーディーかつ独特なテンポに馴染めなかったのだ。

 キャストは豪華だしグロさは少ないがスプラッター要素もある。おまけに犯罪やコメディまで付いてくる。私の好きな要素がここまで入っていて、ストーリーの流れやラストも嫌いではないのに合わなかった。自分でも不思議である。群像劇も嫌いではないのに何故だろう。自分にとって魅力的なキャラクターが少なかったのかもしれない。だがその程度で大きく変わるとも思えず、やはり面白いんだろうけど合わなかったの一言に尽きる。

 好きなシーンはどこかと聞かれたらぐだぐだな強盗シーンで、好きなキャラクターを挙げるとしてもそこに居た彼らだろう。もしかすると私はパルプ・フィクションのような映画だと思っていたのかもしれない。だからすんなりと進むストーリー展開が物足りず、彼らが関わり合うことで起きる影響も微々たるものに見えてしまったのだろう。映画通なら好きかもしれないが、単なる映画好きの私としてはなんともいえない映画だった。

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原題:Отрыв
85分

 浮かれた若者らが集まり、もう営業時間外で稼働していないゴンドラリフトに乗ろうとする。しかし当然ながらそのままでは乗れず、賄賂を渡すことでゴンドラに乗せてもらえることになった。ただ運悪く操縦士はおっちょこちょいだった。賄賂につられてしまったせいでうっかり自身も吊られてしまうこととなり、ゴンドラも止まってしまう。高所で箱に閉じ込められてしまった若者らは救助を待つのだが……。

 割とありきたりなシチュエーションホラーまたはスリラー。ほぼ同様の展開を見せる映画としては2010年公開のフローズンがある。こちらはゴンドラですらなくチェアリフトで、もっと危険度が高い。単純な高低差でいえば本作の方が恐ろしいものの、分厚い鉄板に囲まれていると思えば安心感は段違いだろう。そんな違いはさておき、肝心の内容についてはどちらも微妙だ。良くも悪くもB級映画。娯楽重視の低予算映画でしかなかった。

 登場人物は全員どこかおかしいというか、悪い意味で最近の若者らしい性格をしている。危機感もなく自分勝手な振る舞いに無軌道な言動に行動。そりゃ助からんわと納得してしまうような姿ばかり見せられる。主人公でヒロインのカーチャは美人でウェアから伝わる膨らみにもぐっとくる……が、それだけ。魅力的な外見のよくいる女性。それなのにそこら辺の男性より強いんじゃないかと驚く場面が多い。男性ならまだ少しは納得もできるが……。

 寒がっている女性に上着を貸したり、雪山よりも上空にある高所で指は剥き出しのままでも寒さを微塵も感じていなかったり、腕にロープが巻き付いて数人分の体重が掛かっても少し痛そうな表情で済んだり……とまあ彼女は妙に強く冷静である。ところが割と重要な場面で冷静さを欠いて判断を誤ってしまう。そのせいでせっかくのチャンスを無駄にするわ騒動に発展するわで、都合良く脚本通りに動かされているという印象が強かった。

 この映画はわざわざ観なくともいいだろう。どうせ観るならまだフローズンの方を観た方がいい。映画としての面白さでいえばあちらの方が遥かに上だ。まだリアリティもあり、本作よりは人物のやりとりで苛立つこともないだろう。それでも気になるという方がいれば、カーチャの顔や胸を楽しむ映画だと考えておこう。BGMの使い方やあまり効果的といえないカットに苦痛を感じたら止めておいた方がいい。面白い映画はいくらでもあるのだから。

1029文字 編集

原題:Bølgen
105分

 地質学者のクリスチャンは大手石油会社に引き抜かれ、今まで働いていた職場を辞めることとなっていた。しかし勤務最終日のデータがどうもおかしく、少し不安を覚えていた。そして迎えた引っ越しの当日。この日も妙な違和感があり、クリスチャンは岩盤や息子のゲーム画面を見て何かに気付く。慌ててフェリー行きの自動車をUターンさせると、クリスチャンは研究施設で働く仲間たちに岩盤の崩落を告げるのだった。

 ノルウェーは岩盤崩落が起きやすい地域で、本作は実際に起きた津波事故に基づいた映画でもあるらしく、災害の恐怖や迫力は確かに感じられる。天災に備えることができても、人はあまりにも無力だ。生き延びる者がいれば息絶える者もいる。最善策も無策も等しくふるいにかけられる。生死さえも運次第でしかないのである。

 主人公のクリスチャンは違和感を無視してすんなり引っ越してしまうこともできた。それでも彼は災害に備えて動き、大勢の命を救うべく働きかけた。もし彼がデータの異変を気にかけていなければ、もし自動車を降りて声を掛けなければ。強靱な肉体こそないものの、彼は誰もが認めるヒーローに違いない。

 こういった映画では筋肉質な主人公が力業で解決するような場面をよく見るが、クリスチャンは常人でしかない。ホテルウーマンの妻も同じく一般人なはずだが妙に冷静で体力もある。ご都合主義で進める為には彼女らが強くなければ話が成立しないのは分かる。ただ個々の資質に頼りすぎているきらいはあった。

 私にとっては名作だが、リアリティを追求する人やパニック時の人々が見せる冷静さに欠いた行動が理解できないような人にしてみたら微妙だろう。それに贔屓目なしに言えば出来映えとしても少し整ったB級映画といったところだ。ただこういう作品を観て自分はどんな時でも冷静に対処できると思っているような人こそ実際の災害では気をつけた方がいいだろう。

 実際の災害でも本来なら助からないであろう場所を選んで生き延びた者もいれば、冷静に対処してそのまま命を落としてしまう者もいる。現実でヒーローと遭遇する機会などそうそうなく、それぞれが限られた時間で少ない選択肢から生存する確率の高い方法を見つけなければならない。私は緊急時でも彼のように振る舞えるだろうか、と考えさせられる映画ではあった。

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原題:Winchester
99分

 ウィンチェスター社は銃を製造しており、その銃で大勢の人が命を失っている。ウィンチェスター婦人は霊媒師に話を聞き、怨霊の為に改築を行っていた。改築に改築を重ねるウィンチェスターハウスは継ぎ接ぎだらけの異質な屋敷として大きくなり、怨霊が増えるにつれて奇妙な現象の数まで増していく。だがそんな話を信じるわけもなく、そこに精神科医が送られるのであった……。

 どんな映画を観ても良いところと悪いところを考えて感想を書こうと心掛けている。しかし本作は難しかった。強いて言えば一見すると映像が綺麗。それくらいだ。ストーリーもあるが微妙だ。実在する呪われた屋敷が舞台で、その屋敷といえば改築を繰り返した迷路のような構造が魅力だろう。だがこの映画ではそんな描写はほぼ無く、展開に活かされることもなかった。

 てっきり隠し部屋や隠し通路を使って逃げたり、そこを危険人物が利用して危機を招いたりといったサスペンス寄りの恐怖を想像していたのだ。けれども蓋を開けてみれば中身は期待外れの凡作だった。ホラー要素も精神的に恐ろしいものではなく、急に悪霊が映り込んで驚かすというものばかり。この映画がウィンチェスターハウスである必要はあったのだろうか。

 ホラーは観客を驚かせるものであり説明不足でも許されるという風潮もある。だとしても本作は微妙で、終盤の描写もホラーとしての盛り上がりではなくアクション映画のそれであり、ホラー映画好きとしてもウィンチェスターハウスのファンとしても納得できないだろう。外観の描写もワンパターンで物足りず、誰におすすめしたらいいのかも分からない。他に娯楽がなければ観たらいい。

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原題:Get Smart
110分

 スパイ組織で働くマックスウェルは優秀な分析官だ。彼はサポートとして欠かせない存在で頼りにもされているが、現場で活躍するエージェントへの憧れを持っていた。その為の昇格試験も受けており、ようやく昇格試験で受かったのだが分析官として優秀すぎたせいで昇格が見送られてしまう。ところがとある事情から急遽エージェントとして現場に出ることとなり……。

 新米スパイが活躍する映画といえば『SPY/スパイ 』がある。あちらのスーザンは見た目からしてスパイっぽくないが、こちらのスパイ(マックス)は見た目だけなら007シリーズのジェームズ・ボンド役に居そうな雰囲気はある。元々太っていたせいで昇格試験の実技で躓いていた辺り、太ったまま機敏に動けるスーザンの方が実力は上かもしれない。

 主演のスティーヴ・カレルも魅力的ではあるが、相棒でヒロインを演じるアン・ハサウェイはもっと魅力的だ。スパイとしての活躍ぶりにはもちろん、その美貌にも目を奪われる。特に潜入任務での外見は髪型から服装に至るまで何もかもが自分好みで、珍しく何度かシーンを巻き戻してしまった。これからもそのシーンだけは何度か見返してしまいそうなくらいである。

 肝心の内容もコメディ要素の強いスパイ映画ということで、所々下ネタなんかも挟みながらちょっとした笑いとアクションを楽しめるのがいい。これといった捻りはないものの、スパイ映画に求めるギミックや裏切りといったものは十分に含まれており、アン・ハサウェイとスパイ映画が楽しみたい人には良いだろう。他の人はどうだか知らないが、私にとってはバランスの良い作品だった。

712文字 編集

原題:Night of the Living Dead
96分

 ある車は墓地へと向かっていた。自動車を走らせながら兄のジョニーは愚痴をこぼし、妹のバーバラはそんな兄に少しうんざりしていた。ジョニーは退屈だったのだろう。彼は花を添えるなり、少し離れたところにいた身なりの汚い男を見てバーバラに「襲ってくるぞ!」とからかい始めた。バーバラは兄の子供じみた失礼な言動を詫びようと男に近づいたのだが、その男は本当にバーバラを襲ってきたのだった。

 せいぜい不審者のような見た目の男に襲われる。ここまでは単なる性犯罪者か殺人鬼といったところだ。しかし彼はどうも正気ではなく、今でいうゾンビだった。他のゾンビはゾンビらしい……というとそれはそれでどうだか分からないが、見た目からして普通じゃないように感じられるものが多い。とはいえ夜中だと分かりにくく、会話ができるかどうかで判断するしかないだろう。

 ヒトの形をした化け物に襲われて逃げたバーバラは他人の家に避難するが、放心状態でまともに会話もできない。偶然出会ったベンは冷静に家を補強しつつもバーバラを気にかけるものの、いざ話し始めると今度はパニックに陥ってぶん殴られてしまう。冷静な男と真逆な女。そんな二人にまた別の人物が加わり、この事態に対処しようとあれやこれやと動き回るのが主軸となる。

 ホラーやパニック物ではありがちなトラブルも盛り込まれており、こいつさえいなければもっとスムーズにいくんじゃないかという展開もある。ほぼ一軒家でストーリーが進み、場所も殆ど変わらないのだが個々の衝突もあってか最後まで観ていられる。この辺りの構成や演出からはロメロが巨匠と呼ばれるだけのものは感じられるだろう。

 本作の次に公開されたゾンビ映画の『ゾンビ 』は既にレビューしているが、ゾンビらしさやゾンビっぽい見た目といったものを重視するのであれば、そちらを観た方がいいだろう。ただゾンビに襲われる恐怖感や無力感、それからオチまでを考慮すれば本作の方が面白い。今となっては色々と出来が悪く感じる部分もあるだろうが、王道のゾンビ映画らしさは堪能できるはずだ。

917文字 編集

原題:Sully
96分

 バードストライクによってエンジンが停止してしまった飛行機。乗客を乗せた飛行機で不時着陸を試みたが、高度が低くとても空港までは保たない。機長のサリーは陸路を諦め、ハドソン川への不時着水を試みる。機長の判断はうまくいき、犠牲者を出すこともなく飛行機は不時着する。しかし本当に不時着水をする必要はあったのか。乗客を危険に曝し、結果的に助かっただけではないか。大勢の命を救ったにも関わらず、サリーの判断は疑問視されてしまうのであった……。

 実際に起きた『USエアウェイズ1549便不時着水事故』が元となった映画であり、エンジンが故障に至るまでの流れは非常に速い。本作は飛行機の墜落を描いたパニック映画ではなく、誰よりも冷静に対処した機長の正当性とその成果を描いたドキュメンタリーと言える。B級映画なら15分は引っ張りそうな不時着シーンもあっさりと終わり、ストーリーも彼らの会話ばかりで激しいシーンはほぼない。ひたすら大勢の命を救った英雄の栄誉と苦労の物語が待っている。

 大きな事故の裏側を知ることが出来たという点では価値も高く、人間ドラマとしての面白さもあった。ただ残念ながら想像していたよりも飛行機のシーンが短く、感情移入がなければハラハラ感やドキドキ感もないままで、気付けば責任を問われる場面に立たされてしまっていたような心境だった。そのせいか「どうなるんだろう」という展開の期待も「俺が機長なら絶対に意思を曲げないぞ」と意思を固めるよりも先に終わってしまった。良い映画だが何か物足りない。そんな印象だ。

678文字 編集

原題:El hoyo
94分

 男は目を覚ます。そこには無機質な部屋があり、中央には大きな穴が空いている。その穴は天井と床にあり、上下に存在する部屋にも同様の穴が続いていた。この穴は何だろう。どこまで続くのだろう。そんな疑問を浮かべていたが、奇妙な同居人ははっきりとした答えはくれない。同居人は上層から降りてきた食事を平らげながら男に尋ねる。食べないのか? と。

 謎しかないまま進むストーリーで、主人公のゴレンは警戒心が強く気難しそうな男だが同居人のトリマカシとも割とすんなり仲良くなる。ただそれは親しくなっただけで謎は全く解決していない。謎を明かす鍵も特にないまま進むおかげで、この先どんな展開を迎えるのか、何が目的の施設なのかと想像しながら期待以上に楽しめた。

 全く同じとまでは言わないが、個人的に昔考えた企画で似たようなものがあった。それはここまで階層が細かくはなく上中下のたった三層ではあったものの、一定期間ごとの投票形式で住む階層が入れ替わるというものだった。結局面白く描ききることができずに企画自体が無くなったのだが、こういう人間のいやらしさや本能といったものを描けばよかったのだと痛感させられた。

 しかし本作が完璧だったかと言えばそうではない。結局色々と投げっぱなしだった印象も強く、中にはそういう結末が好きだという者も居る。だが伏線やそれまでの出会いが繋がっていくのは非常に良かっただけに、どうしてもそれら全てをまとめ上げて幕を閉じて欲しかったのだ。限りなく名作に近い佳作。雰囲気は最高だった。

671文字 編集

原題:Day of the Dead
102分

 数少ない人類はゾンビだらけになってしまった世界で地下の施設に籠もって生きていた。生き残りの人類を捜したところで結果は奮わず、現れるのはゾンビばかり。疲れ切った状態でもまた別の仕事をさせられる上に失敗しては殺されかける。そんな極限状態ではまともな話し合いもできずに互いのストレスだけが増えていく。それでもローガン博士は意味があるのかもわからない研究を続け、サラは頭を抱えていた。

 唯一の女性で比較的まともなサラが振り回される描写が目立ち、ゾンビの脅威そのものは比較的抑えめなままストーリーは進む。とりあえず侵入さえ防いでいればなんとかなるゾンビよりも、互いに共同生活を営んでいる人間の方がよっぽど恐ろしいというのはなんとも皮肉な話だが、今の時代でもゾンビ物でそういう描写は多い。きっと人間こそがレジェンド級の化け物なのだろう。

 だが最初は敵ですらない印象を与えていたゾンビも、徐々にその優れた能力を発揮していく。博士の研究は狂っているようにも見えたが、その研究は実を結んでいたのだ。理性や自我を持たず、視界に入ったものを襲うだけと思われていたゾンビが徐々に学び、過去の記憶から行動する。それは信じられない結果であり、恐ろしく不気味なものでもあった。だからこそゾンビを、そんな研究を続ける博士までもを嫌悪する兵士が出てきてもおかしくないのだ。

 最初は思っていたよりもスプラッター要素が少なくて落胆していたが、ゾンビが暴れ出すとそんな気持ちもなくなった。生きたまま焼かれたり体を裂かれたりと血みどろのシーンには否が応でもテンションが上がる。もしこれが善人寄りの人物であれば嫌な気持ちにもなるのだが、酷い目に遭うのは酷い輩ばかりである。憎たらしい人物が苦しむ度についついゾンビの応援をしたくもなるというものだ。

 ただそんなやつらでも最低限の良心は残っているのか、もしくは兵士としての誇りかは分からないが、唯一の女性で顔立ちも整っているサラを襲わなかったという点については評価できる。それに個人的な好き嫌いで出てきた兵士を全員敵視していたが、とんでもなく酷い人物は一人しかいない。まあ彼がヘイトを集めすぎていた気はするが……ゾンビ三部作の中で一番好きなものはと聞かれたら、私は本作を挙げるだろう。

984文字 編集

原題:Land of the Dead
93分

 ロメロが随分と久しぶりに撮ったゾンビ映画。当然のように世界はゾンビで溢れているものの、生き残っている人間もそれなりに頑張っている。ある程度の戦力は確保しているのだが、残念なことに人間は油断してしまう生き物なのだ。うっかりピンチになっては死を招き入れるそんな世界で、チョロやライリーといった傭兵たちはそれぞれの目的を達成すべく、己の意思で突き進んでいく。
 構成としては割と単純で、ゾンビのいる世界でも未だに存在する人間社会のいざこざが物語に大きく絡んでくる。各々の力が弱ければ、ゾンビという共通の敵だけを相手にしたのかもしれない。ただそれでは物語の深みもなく、退屈なシーンばかりになるだろう。ゾンビが居ようと居まいと人間は人間で、自分勝手な生き物。ロメロは毎回そんなことを伝えてきている気がする。
 主役の一人であるジョン・レグイザモは『ER緊急救命室』のクレメンテ、サイモン・ベイカーはといえば『THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル』のジェーンと個人的に好きな海外ドラマで印象に残っているキャストだったのが印象的だ。といってもそれは本編とは何の関わりもなく、もし彼らのファンでゾンビ映画を普段観ない人なら楽しめるだろうという程度だ。
 ホラーやゾンビ映画としては十分満足出来るだろうし、ロメロっぽさも感じられる。だが新鮮味はそこまでなかった。よくある映画にロメロの味付けが加わった程度であり、彼のゾンビ映画を観たいというファン向けの作品に終わっていた。ロメロ作品にありがちな力で引き裂かれるシーンなんかは特にそうだと思う。
 映画としての面白さはある。様々な要素で楽しめるのも確かだ。だがもう一捻り何かが欲しかった。

757文字 編集

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 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

 レビューを書き始める前に観た映画の一部リストはこちら。好みの参考にどうぞ。趣味が合う人は名作を、趣味が合わない人は迷作をチェックすると好きな映画が見つかるかもしれません。

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