カテゴリ「アメリカ‏‎」に属する投稿(時系列順)[82件](3ページ目)

原題:The Lost Weekend
101分

 売れない小説家のドン・バーナムは重度のアルコール中毒だった。どうしても酒が呑みたいという理由で酒を窓の外に隠すほどだが、それも兄に見つかってしまう。兄と恋人は彼を心配しているのだが、彼は酒を呑めないストレスで苛立ってばかりいる。この物語は中毒症状の男がひたすら酒を求め、泥沼に沈み、道を踏み外す描写が続く。起承転結で言えば承のまま続き、静かな転換を迎えて結末へと繋がるのだ。

 最近はなるべくネタバレにならない範囲で少しばかり文字数の多い感想を心掛けていたものだが、この映画はあっさりした説明でもネタバレになってしまう。キーアイテムを触れればそれが全てに影響し、印象的な台詞がどこかへと続く。ビールでも呑まないとタイプ音も重く、さてどこをどう伝えたものかと悩んでしまう。

 アルコール中毒の症状が悪化していく過程と彼の静かな変化。時折入る回想と変わらない姿。人が駄目になっていく様子を描いた作品としては良いのかもしれないが、ひたすら悪路を突っ走っていく主人公を見ているのは辛くもある。作中の曲もおどろおどろしく、これはもはやホラーではなかろうか。

 この映画を楽しめる人は、様々な展開を思い描ける人だろう。ここでもし彼が酒を断っていたらという前提で未来を想像したり、ここまで悪化する前に彼女がなんとかできていたらと考えてみたり……しかしどれもこれも結局は酒である。要はこの作品にとって酒は切り離せず、主人公自体を代えるしかないのだ。なんとも哀れである。

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原題:Deadpool
108分

 末期癌で死を待つ身となってしまったウェイドは藁にもすがる思いで怪しい男に連絡をする。おかげで癌は寛解どころか完治し、おまけに信じられないほどの能力を手に入れる。それはあらゆる怪我をすぐに治してしまう能力だったが、代わりに醜い外見となってしまうのだった。ウェイドは赤い衣装で身を包み、自身の外見を変貌させた者への復讐を誓って武器を手に取った。

 普段はマーベルどころかアメコミ全般を観ないのだが、それでもやはり話題作や注目作ともなれば耳にも目にも入る。アクション映画そのものは好きで勧善懲悪だって悪くない。だが、マーベルはヒーローが多すぎる。ちゃんと観ようと思えば時系列順か公開順に目を通さなければ、細部での謎を残したまま見終わってしまうのである。

 それでも何かしらは見ておきたい。そう思った時にちょうど良かったのが、コメディ色の強い赤くて変態で自分勝手なデッドプールだった。実際に映画を視聴してみてその選択に間違いは無かったと確信した。彼は私が思うよりもコメディリリーフ色が強く、下ネタが多く、私利私欲で好き勝手に動き回ってくれた。それはもう素晴らしいくらいに。

 アクションも演出もカメラワークも何もかもが好み通りで、好きな映画だと言える。今年観た映画で何かオススメを聞かれたら、パリの恋人と答えるだろう。……パリ? デッドプールは? と思ったかもしれない。そこにももちろん意味はある。何も考えずに楽しむ映画としては満点だろう。血や欠損といった表現が苦手でなければだが。

 彼は王道から外れたヒーロー(本人はヒーローではないと言っているが)で、正に邪道と呼ばれる存在だろう。作中でも彼の暴れっぷりは十分に伝わっている。しかしストーリー自体は想像の範囲にすっぽり収まってしまう程度には王道だった。もっと最後の最後で自身が物語のキャラクターだと理解した強みを発揮して欲しかったのだ。

 どう足掻いても勝てない相手に絶望してみたり、脚本を書き換えてその存在自体を無かったことにしてみたり。私が彼に求めているのはヒーローらしくないヒーローを上回る存在、もはや映画監督そのものとして暗躍する姿だったのだ。そんな物足りなさは残るが、面白い映画ではあった。引き続き続編にも目を通してみようと思う。#[マーベルシリーズ] #[デッドプールシリーズ]

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原題:Deadpool 2
120分

 最愛の恋人と再会したウェイドは幸せな毎日を送っていた。しかし恋人のヴァネッサが殺されてしまい、自暴自棄になってしまう。しかし超人になってしまったせいで自殺を図るも死にきれず、コロッサスからはしつこく勧誘を受ける。X-MENに見習いとして参加した最初の任務ではミュータント孤児のラッセルと出会う。ラッセルのためにデッドプールとして好き勝手な振る舞いをしてしまうのだが……。

 幸せを掴んだかと思いきや不幸な世界へと転がり落ちてしまったデッドプールはどこか覇気が無く、前作と比べたら勢いがなかった。その代わりに運の良さと意外にも高い身体能力が目立つドミノが活躍していたように思う。前作の暴走ぶりが10だとすれば、本作はせいぜい6といったところだろう。終盤では暴走ぶりも見られるものの、そこまでの控えめな面が長く印象に強い。物足りないというやつだ。

 アクションはあって随所の演出もそれらしい。本人が言っていたようにファミリー向けの映画といったらいいのか、せっかく良い豆を使って苦く香り高い珈琲を淹れた後で安いミルクをどばどばと投入したようなものになっていた。それはそれで美味しいのかもしれないが、珈琲とカフェオレは別物の飲み物だ。きっとこのデッドプールを求めている者も居るのだろう。だがイレギュラーな存在を求めていた私は落胆した。

 ここまで文句ばかり並べ立ててしまったが、本作も個人的には好んでいる。アクションが見たい。スプラッターも見たい。ついでにジョークや下ネタもあれば娯楽としては良い。そんな私の欲求を詰め込んであった。ところが残念なことにその引き出しは鍵が掛かっていた。いや、奥で何かが突っかかっていただけという可能性も考えられる。とにかく良い題材は眠っていたが、引き出しきれずに仕舞われてしまった。惜しい作品である。#マーベルシリーズ #デッドプールシリーズ

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原題:Re-Animator
85分

 ハーバート・ウェストは非常に優秀な科学者である。どこでどうやってそんな知識や技術を身に付けたのかは不明だが、彼は死者を蘇生させる血清を作り上げてしまったのだ。もちろん彼を信じるのは難しく、ダンも信じてはいなかった。しかし実際に死体を蘇らせてしまう姿を見てしまい、ダンも興味を抱いてしまう。猫だけで済めばまだ良かったのだが、幸か不幸か彼らの身近にはいくつもの死体があり、実験には最適な環境が揃っていた。

 死んだ生物をもう一度生き返らせる。そんなファンタジーを題材にした本作はB級でありコメディでもある。けれどもジェフリー・コムズ演じるハーバート・ウェストには狂気と普通ではない雰囲気が出ており、馬鹿馬鹿しさと共に妙なリアリティが生まれている。きっと現実でマッドドクターのニュースが出る度に、私は彼の顔を思い浮かべてしまうのだろう。真面目そうでまともじゃないオーラを纏う不気味な笑顔を……。

 B級スプラッターとしては文句の付けようがない映画で、割と可愛い女優の裸体が出てくる辺りもそれらしい。しかしウェストは色々と勿体ない男だ。実験第一で物事が見えなくなるのは仕方ないが、彼にはイフを考える力が欠けていた。頭なら頭だけ、体なら体だけと実験対象は分けておくべきで、それぞれと真正面から向き合うべきだ。好奇心に負けて死体から目を背けてしまったばかりに苦労してしまった。

 本作はクトゥルフ神話で知られるラヴクラフトのホラー小説が題材となっているが、そちらには目を通していない。元々彼はどこか抜けている人物なのか、それとも映画の展開を考えるにあたって隙を作ってしまったのか。そこだけでも知りたいのだが、そのためだけに中途半端な巻からラヴクラフト全集を買うのも微妙だ。果たして彼は希代の天才か、または奇跡を起こした馬鹿か。しばらく悩みは尽きそうにない。#[死霊のしたたりシリーズ]

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原題:Bride of Re-Animator
96分

 ハーバート・ウェストとダンは戦地に赴き、治療をしつつ相変わらず実験を続けていた。そろそろ自分達の命も危ないというタイミングで帰国すると、彼らはまた同じようにいつもの場所でいつもの実験を再開する。今までは死体を蘇生するというテーマで活動していたウェストだが、死体を組み合わせて蘇生するというとんでもない実験まで行うようになり……。

 展開は前回同様で実験の成功と判断の過ちによる失敗を繰り返すもの。新鮮味は一切無いものの、彼らのおかしな行動はコミカルで笑える。基本的にはどの登場人物も目的を見失っているようで、どうしてそこでその行動を取ってしまうのかと思ってしまう。それにウエストはもう少し自分の性格を理解すべきだ。指の固まりにせよ詰めが甘い。

 序盤はおどろおどろしい気もするが終盤に向かうとコメディ色が強くなり、Happy Tree Friendsのような不条理でグロいギャグを見ている気分になる。実験がうまくいくのかどうかという観点では見ることができず、実験の失敗がどう繋がるのかという展開を期待してしまうのである。つい彼ばかり注目してしまうが、ダンもダンだ。

 前作のラストが出来心なのは分かる。今回も愛故の暴走だとは思う。しかし余りにも意思が弱い。全くストッパーになれていない。コミュニケーション能力に欠けるウェストの代わりに存在するだけの立場になっている。なんと地味なキャラクターだろうか。ERのジョン・カーターみたいな外見と性格だが、彼には根っこがない。薄っぺらいのだ。

 本作はサービスカットも控えめで、個人的には前作よりスプラッター要素が抑えられていたように感じた(配信でカットされているのかもしれないが)。デッドプール2同様に売りが弱くなっている印象を受けたのだ。ところがそんな内容でも2003年には続編が公開されている。今度こそはと期待して観てみたいが、現時点では配信タイトルに存在しない。いつか観る機会があれば気楽な気持ちで観てみたいものだ。#死霊のしたたりシリーズ

888文字 編集

原題:Cast Away
144分

 人一倍仕事熱心なチャック・ノーランドは誰よりも動き回り、誰よりも生産性の向上に努めている。荷物が届くまでの時間がどれくらいかを伝えるためにカウントしたままタイマーを送ってみたり、作業時間を従業員に意識させるべく何度も残り時間を口にする。また彼を必要とする者からの連絡があり、チャックは貨物機に乗って現地へと向かう。しかし貨物機は墜落してしまい、彼は無人島に漂着するのであった。

 無人島で生きていくのは非常に辛い。もちろんそんな経験はないが、無人島なんてものは今の便利さに満ちた世界とは対極にある世界だ。火も水もなく、満足な食料もない。幸いにもチャックが辿り着いた島にはココナッツがあり、海には魚も居た。しかしそれだけだ。よほどの偏食でなければ満たされることはなく、常に同じものしか食べられないとなれば嫌にもなるだろう。それに全てが生では温もりもありゃしない。

 最後まで火が使えないのかといえばそれは嘘になるが、チャックが満足に火を扱えるようになるまでには少し掛かる。その間は生のココナッツジュースと果肉。それと生の魚にカニ程度なものだ。精神的に強くなければとてもじゃないが耐えられそうにない。サバイバル生活をするベア・グリルスやエド・スタフォードの姿を見ているのは楽しいが、一生同じような生活をしろと言われても困るのだ。恐らく一週間保てばいい方だろう。

 サバイバル映画のイメージだと大半の人は結末で救助を想像するものだと思われるが、本作は救助された後のストーリーまで描かれている。よくよく考えれば当然ではあるが、救助されたからといってその人の人生は終わりやしない。死んだと思われていた状況からの生還。そして社会復帰。墜落前までは当たり前にあった人生の続き。その空白期間に積み上げられた自身の知らない時間を痛感させられてしまうのである。

 元々飛行機よりも新幹線に好んで乗る(景色を見ながら食事を楽しみたいだけだが)身としては、こんな事態に巻き込まれることはないだろう。しかし、それでももし飛行機に乗って墜落し、生き延びてしまうようなことがあれば……その時私は生きる努力が出来るだろうか。ボールが転がっていても蹴り飛ばしてしまわないか。命がある有り難みと、時間への考え方。そして意識の変え方。この映画からは色々と学べるだろう。

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原題:Split
117分

 運悪く誘拐されてしまった女子高生3人は仲良く閉じ込められてしまう。リーダー格のクレアは根拠の薄い自信でなんとかしようと考え、腰巾着のマルシアはその意見に乗っかる。しかしケーシーは乗らず、悲観的で現実的な案を出そうと頭を働かせる。けれども解決策は浮かばずに鍵穴から部屋の外を覗いていると、そこには誘拐犯とは違う服装と声色の誰かが現れた。当然彼女らは助けを求めるのだが、扉を開けて姿を見せたのは女装して別人を演じる誘拐犯の姿だったのだ。

 物語が誘拐から始まれば、もちろん多くは誘拐の解決を求める。誰がどうやって誘拐犯の足取りを掴み、彼女達を救うのか。そんな視点で物語を楽しむものだろう。ところが本作にはそういった要素はほぼ無い。誘拐はきっかけにすぎず、この物語の本質ではないのだ。だから警察や特殊部隊が活躍する様もなく、誘拐犯と女子高生――ケーシーのやり取りが肝となる。アクションではなく、人間心理を楽しむのが正解だろう。

 この誘拐犯は解離性同一性障害(多重人格といった方が馴染みがあり、理解もしやすいだろうか)であり、作中でも語られるが解離した人格にはそれぞれ異なる特性を持っている。それは単なる性格や口調のみならず、時にはその者の構造そのものも変えてしまう。極端な話をすればパン屑が付いた服を見るだけで嫌悪する潔癖症な人間にも、散弾銃で撃たれても効かないような人間にもなれるのだ。

 本作は割と前に公開された『アンブレイカブル』の流れを組んでいるとのことで、個人的にはかなり期待していた。しかし全体の流れは良かったものの、オチの弱さがどうも気になってしまった。こちらからまた続いている『ミスター・ガラス』も観てみたいのだが、果たして期待していてもいいのだろうか。M・ナイト・シャマラン監督は当たり外れの差が激しい気がしているのだ。だが、それでも次を期待してしまう。不思議だ。

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原題:Horrible Bosses
98分

 仕事は嫌いではないが上司に恵まれなかった3人の男たち。彼らは上司さえ違えばと頭を抱えていた。度重なるストレスに限界を迎えた後、3人は犯罪者風の男にけしかけられて上司の始末を決意する。しかし杜撰な計画のせいで失敗してしまい、挙げ句の果てには大きなトラブルの原因を招いては酷い現場を目撃する。それでもモンスターのような上司をなんとか始末するため、彼らは協力しあうのだった。

 ブラックコメディということでなかなかに下品だったりやりすぎな面もあったりするが、ノリとしては小学生の悪ふざけに近い。だがお色気シーンはジェニファー・アニストンの演技とスタイルのせいもあってか、もうポルノ扱いになりそうな気もする。しかしこんな上司が日常的にいやらしい仕草や姿を見せつけていてよく耐えられるものである。本人は嫌でも周りからすれば羨ましいという感想を抱いてもおかしくない。

 ケヴィン・スペイシー演じる上司はハラスメントが日常的で憎たらしく、コリン・ファレルの演じる麻薬常習犯の上司は思考回路が滅茶苦茶で一緒に居ると疲れるだろう。前者は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の手段を選ばない議員そのままで、個人的に抱いていたイメージそのままだった。しかし後者に関しては『フォーン・ブース』とはイメージが違いすぎて、やはり俳優は凄いなと感心させられた。

 ちょこちょこ挟まれるお色気要素と頻繁に出てくる下品な表現は人を選ぶものの、映画は娯楽だと考えて許容できる人からすれば面白い映画だろう。ただ残念なことに面白いだけで、あっと驚く仕掛けや伏線といったものはない。馬鹿なことをしている大人の姿を見せられるだけである。といっても先述したとおりで、娯楽とはそんなものだ。頭を使わずに笑っていられる。そんな映画も良いものだろう。#[モンスター上司シリーズ]

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原題:Horrible Bosses 2
108分

 モンスター上司から解放された3人はふとした思いつきからかちっぽけなアイデアを頼りに起業してしまう。しかしアイデアだけでは事業として成立せず、試作品を商品化してくれる企業や融資または出資辺りが必要となる。そのためにもまずは注目を集める必要があるのだが、彼らは運良くテレビで宣伝する機会を得た。するとこれまた運良く大企業から声が掛かる。ところがそうそう上手くいくわけもなく……。

 上司から解放された彼らは自分達なら良い上司になれると考えていた。ついでに金を稼げるとも。それで安定を捨てて起業したがやはり相手に恵まれない。いつも決まったメンツで集まっているせいか相談しようにも相手が居らず、頼ってはいけない相手に相談までしてしまう。だが、これもコメディの面白みだろう。

 セルフパロディの傾向が強く、起承転結のパターンは前作と変わらない。しかしお色気要素は減り、下品な台詞も少し減ったように思う。その代わりに開始早々で何かを勘違いさせるようなシーンが含まれているのだが……あれは軽いジョブ程度だろう。中心となる人物らは同じで展開も似たり寄ったり。それでも笑えるのだからよくできている。

 ジェイミー・フォックス演じるMFの出番も増えており、ただの面白い登場人物の1人から格上げしているのも実にいい。あの極端なキャラクターをそのまま捨て去ってしまうのは勿体ないし、強みのようなものを見てみたいとも思っていた。だからこそ終盤では喜び、その手で掴み取った結果にも割と納得してしまっている。彼だけが得しているようにも見えるが、3人も救われればそれでいいのだ。

 分類上は佳作にしてしまったものの、限りなく名作に近い佳作といったところだろう。どうして名作にしてしまわなかったのかと問われれば、この面白さは前作ありきだからと言える。前作を観て、続きまで観る。そこまでしてようやく完成するのだ。言わば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2と3である。1に当たる入り口としての作品が最初にあれば、もしかすると全てが名作扱いだったのかもしれない。#モンスター上司シリーズ

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原題:The Terminal
129分

 ある目的のためにビクターはクラコウジアからアメリカへとやってきた。しかし本人は何も悪いことをしていないにも関わらず、国の問題でパスポートとビザが無効になってしまう。犯罪行為はしていないのだから逮捕する理由はないが、かといって過剰な特別扱いをしてやる義理もない。彼は少しばかりの優しさと企みによって空港の中での自由を手にするのだが……ビクターと彼を取り巻く問題はそう簡単には解決しないのだった。

 目覚めたら大人になっていたり海老を捕ったりボールに話しかけたり するトム・ハンクスが空港に閉じ込められてしまうという物語。どうしてこの人はこうも変わった人生を歩みがちなのだろうか。普通ではあり得ない運命を辿りそうな顔をしているのか、彼の表情や演技が普通ではないのか。はたまた起用する者が変人ばかりなのか。どの映画も彼はいつも通りで、何故かそれがしっくりくる。不思議だなあ。

 空港の中で一体何が出来るのか……という不安はそこまでない。空港の中で服も買えるし飲食だって可能だ。ただ住所未定だと仕事を探すのに一苦労する。仕事がなければ金もなく、金がなければ腹を満たすことだってできない。モラルがなければここで盗みを働くか、いっそのこと空港を出てしまうだろう。しかしビクターはそんなことをせずに金を稼ぐ。金を稼げずとも人柄のおかげで救われる。それだけ彼は魅力的なのだ。

 空港から出られない。その言葉だけで脱獄を想像し、『ショーシャンクの空に 』や『プリズン・ブレイク』のような地味な脱出から頭を使った手まであれこれ想像をしてしまう人は居ないとは思うが、そんな展開を待っていても描かれるのはビクターと彼らを取り巻く人達の人生模様でしかない。人々からすれば交通機関として活用する場所の一つでしかなくとも、そこで働く者や暮らす者にしてみたら人生の一部だ。

 彼らは空港で笑って泣き、飛行機を乗り継いで別の目的地へと向かうようにそれぞれの人生を進んでいく。空港で何ヶ月も足止めを食らうことがあったとしても、いつかはきっと前へと踏み出す機会を得られるのだ。諦めない心と受け入れる意思。それさえあれば人生だってなんとかなるのだろう。無人島も空港もそこで住みたいとは思わないが、ビクターのように人生を満喫してみたいものである。

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原題:Titanic
194分

 氷山に衝突してしまい沈没してしまったタイタニック号。沈没船には非常に価値の高い宝石も眠っているとされ、そのお宝を狙って調査を行う者たちがいた。ようやく見つけた金庫を開けてみたものの、そこに宝石は見当たらず浸水して判別不可能になった紙の束しかなかった。それでも紙を洗浄してみると、宝石の手がかりとなりそうな絵画だと判明する。その絵をテレビで放映してみたところ、ある老人が電話を掛ける。タイタニック号の生き残りだという老婆は、当時の出来事を語り始めるのだった。

 今さら説明する必要もないような有名作品だが、ちゃんと観たことはなかった。それというのもある程度古く、もはや古典作品とも言える映画だからだ。とはいえ古いから観たくないというものではなく、誰しもが知っている名作なおかげでそこかしこにネタバレが蔓延っており、大体の流れを知っているせいで観る気になれなかったのだ。だがそれだけの名作なら観ておきたいという気持ちもあり、今回勢いで観ることにした。

 ネタバレは避けるといってもタイタニック号といえば沈没した船である。元となる出来事が存在し、その船が沈むのは運命だと定められている。そこまでは周知の事実と認識してしまってもいいだろう。あとはそれ以外の何がネタバレになるのか。それはやはり主人公たちの過程や結末だ。沈む船とパニックに陥る人々の姿が描かれる映画だ、といってもここまでなら何の問題もない。それでは何を語ろうかと考えたところで少し頭を抱えてしまう。結末が見えているせいで表現上の制限が多いのだ。

 なるほどこれはネタバレをしてしまいたくなるのも仕方ない。それでも回避して魅力を伝えようとすれば、身分の違う者同士の恋愛模様だろうか。本来であれば言葉を交わすはずもない相手と出会い、恥を掻かされそうになるがうまく立ち回る。周囲の声や態度はお構いなしに距離を縮めていき、船の事故に直面する。果たして助かるのか、どう立ち回るのか。恋と命の行方をはらはらどきどき楽しむのが一番だろう。

 ただ誰がどうやって生き残るのか、どうなるのかといった続きが気になる演出に拘るのであれば、金庫の中から日記が出てくるような展開でも良かったんじゃなかろうか。老婆が思い出を語る展開から物語が動き出す以上は、この人物が誰でどうやって何をしたのかまでは分からなくとも生死については理解してしまう。言ってしまえばこの作品のネタバレを主要キャストが伝えてしまっているようなものなのである。

 とはいえ過去からストーリーを初めて冒頭の電話を終盤に持ってきたらありきたりな映画になってしまい、インパクトのようなものは薄れる。映画として本作を仕上げようとした際に、彼女が誰であるかという謎よりも彼女自身が何をしてどう決断したかという意思が重視されたのだろう。どんな人物がどういう人生を送り、何を選択したか。もし正体を隠したままだと焦点が合わず、映画そのものはぼやけてしまう。

 長尺は人を選ぶが、名作と言われるだけのことはある素晴らしい映画だった。

1288文字 編集

原題:Spy
120分

 どこか抜けているが一流のスパイであるファイン。彼をオフィスからサポートするのがスーザンの仕事だった。幾つかの不満も抱えたまま仕事をそれなりにこなしていた彼女だったが、ある日ファインが射殺されてしまう。彼女は内勤という立場でありながらも自ら志願して現場へと出向き、ファインを射殺したレイナへと接近する……。

 スパイではない人物がスパイとして活躍するコメディといえば、小説家がスパイになってしまう『なりすましアサシン 』を思い出す。しかし実はこちらの方が公開は古い。それにあちらはコメディを重視しているが、こちらは意外にもスパイ映画としても練り込まれている。それにスーザンは仮にもスパイ。体型で誤解されがちだが身体能力も高く、ただ現場に出ていないだけの一流スパイとも言えるだろう。

 登場人物の大半がコメディのノリで、真面目な人物は敵の組織やモブくらいなものだが、残念なことにシリアスな振る舞いを見せる人物は死にやすい。彼らは本作においてはハードル走のハードルでしかないのだ。立ち塞がって邪魔をするが、あっさりと跳び越えられる。ハードルに引っかかってもすぐに立ち上がり、次へと進む。敵は観客を楽しませる要素の一つに過ぎず、スリルなんてものとは無縁である。

 本作を本格的なスパイ映画として紹介するわけにはいかないが、面白いスパイ映画としてなら紹介してもいいだろう。主役ではないがジュード・ロウとジェイソン・ステイサムは頼れるスパイの姿を見せてくれる。スーザンを演じるメリッサ・マッカーシーだってそうだ。その見た目からは想像できない動きで敵を倒してみせる。娯楽としてスパイ映画を探している人がいれば、是非こちらの映画をオススメしたい。

740文字 編集

原題:Escape Room
81分

 謎の密室で必死に箱を開けようとする男が居た。彼は叫びながらもどうにか箱を開けると、中に入っていた鍵を鍵穴へと挿した。しかし何かを間違えていたのか、太い針が飛びでてきてしまい、彼は手に傷を負ってしまう。針には毒でも塗っていたのだろう。彼は次第に様子がおかしくなり、息絶えてしまった。場面は変わり、誕生日に浮かれる男女が映し出される。彼らは脱出ゲームに参加することになるのだが……。

 この書き出しで大体の人は「ああSAWとかキューブ みたいなやつかな?」と考えるだろう。その発想自体に間違いはなく、正解と言える。しかしなかなかメインの謎解きは始まらず、割と退屈な時間(というか尺稼ぎにしか思えないシーン)が続く。それからようやく謎解きが必要なシーンへと切り替わっていくのだが、観客へのヒントは少ない。どんな謎解きだろうと考えていたら謎を解かれてしまうような印象を受けた。

 これは例え話だが壁に二足歩行の人間と四足歩行の馬が描かれていたとする。そして扉には四桁の数字を入力するパネルが付いていた。そんなシーンが映し出されたら観客はまず数字の意味を考える。四桁になるものは何か。ヒントはあったか。そこで壁の絵に気付き、人間と馬の違いについて考える。「そうだ、人間は手と足。馬は全て足だ。2と4。これを絵の順でそのまま入力すると0204だ!」といったところか。

 この閃きまでの時間とヒントが欠けているというか、見せ方が地味すぎるとでもいえばいいのか……彼らが謎を解いていってもいまいちしっくりこないのだ。それぞれの得意分野があり、個々に活躍の場面がある程度設けられているのも悪くない。しかしそのせいで全員が普通の人とは違う特殊な人に見えてしまい、割と脱出ゲームが始まった直後からどこか醒めた目で彼らの姿を俯瞰していた。

 謎解き自体は悪くない。展開もまあいい。少しばかりのグロとエロも魅力がないわけじゃない。内容は尖っているが、どれもこれもよくて70点といったところで売りが欠けていた。顧客の要望を満たした最低限販売可能な商品とでもいうべきか、何かを切り捨ててでももっと独自性を出すべきだったとでもいおうか……なんともまあ残念な作品である。例えるなら本作はお湯を入れすぎたカップ麺だ。ジャンキーだが味は薄い。

※追記
 同名の映画が3本あり、この映画は恐らく一番微妙な映画だろう。もっとも古く(2017年)、B級要素が強い本作。翌年の2018年に公開されたのは死刑囚が主役の作品。そして最も評価が高く、続編も作られているのが2020年のエスケープ・ルーム。どれも脱出ゲームだが、どうせ観るのなら評判が少しでもいい方を観た方がいいだろう。

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原題:The Hangover
108分

 結婚式を控えた男とその友人たち。彼らは独身最後の夜を楽しむためにラスベガスでバチェラー・パーティーを行う。パーティーは大いに盛り上がり、素晴らしいひとときを過ごした……のかどうかも分からぬままに夜が明けると、そこに花婿の姿はなかった。何があったのか考えようにも部屋の中は荒れ放題。トイレには虎が居るわ赤ちゃんが泣いているわで何が何だか分からない。謎と赤子を抱えたまま、彼らは花婿を探すのだった。

 二日酔いで登場人物たちの記憶ははっきりしないまま、一体何があったのかをひたすら調べ回る。終始それだけの映画である。記憶を探る映画といえば何らかのサスペンスやミステリーを想像してしまいがちだが、この映画にそんなものはない。ふざけた大人が暴れ回るだけだ。下ネタに抵抗がなければ気楽に楽しめるコメディ映画で、それ以上でもそれ以下でもない。ピンチを迎えてもあっさり解決するからはらはらもしない。

 息を呑みながらこれからどうなるんだろう、という楽しみ方を求めている人には全く薦められないどころか止めておけとも言いたくなる。身も蓋もない言い方をすればこの映画に中身なんてものはほぼ無い。どうしようもない大人と下ネタなんてものはそれこそ酒の席でのネタにしかならないものだ。しかし彼らは本気だ。本当にどうしようもなく、だらしないながらも真剣に記憶と花婿を手に入れるべく奮闘する。

 娯楽映画を観たい。B級映画を観たい。これはそんな軽い気持ちで見てはいけない映画だ。私は何も考えずに観てしまったが、この作品を心から楽しんでみたい場合は下準備が必要だろう。まず酒を用意する。ついでに軽食もあればそれも。後は酔っ払う手前まで酒を呑んでから映画を観る。それだけで彼らと同化した気分になれるだろう。素面で観てもいいが、映画に強い拘りを持つ人は止めておいた方がいい。悪酔いするだけだ。#[ハングオーバー!シリーズ]

845文字 編集

原題:The Hangover Part II
102分

 仲良く酔っ払って酷い目に遭ったフィル達はまた懲りもせず二日酔いでよく分からない状況に陥っていた。どうしてそこに居るのか、何故彼はいないのか。1作目と変わらない展開のまま、また彼らの記憶を振り返るストーリーが始まる。

 率直に言ってしまえば前作が全く合わなければ今作も合わないだろう。一部は前作以上のインパクトもあるが、前作ほどの新鮮味はない。酔っ払う直前までのストーリーを観た後で二日酔い後の朝。それから数少ないヒントを頼りにあちこち飛び回る。大筋がここまで変わらなくても許されるのはコメディだからだろうか。だが批評家は厳しく、評価も低い。興行収入が少なければここで終わっていてもおかしくなかったのである。

 ところが不思議なことに私は前作よりも今作の方が合っていた。スプラッター要素の増えたこの映画が趣味に近かったのだ。確かに小休止のようなギャグは物足りなかった。それにアランの性格が極端に悪くなり、それを帳消しにする大活躍をする機会もないせいで単なる嫌なやつになってしまっている。その辺りを考えると、前作への思い入れが少ない人の方が楽しめるのかもしれない。

 オリジナルを超えられる要素が作れなくて過激さを足した可能性はあるが、その過激さが人を選ぶ要素になってしまっているのは残念だ。酒を呑みながらだらだら観ようと思っていた人が気分を悪くして視聴を諦める展開もあり得る。ただ名作かといえばそうではなく、迷作でもない。馬鹿騒ぎをするだけの悪くない映画。果たして最終作はどちらに転ぶのか。不安を抱えたまま、今日か明日には観てみようと思う。#ハングオーバー!シリーズ

744文字 編集

原題:The Hangover Part III
100分

 大きなトラブルを巻き起こして父親を疲弊させ、脳か心臓かはたまた血管に負担を掛けさせてしまったアレン。哀れにも父親は命を落としてしまい、家族はアレンを何とかしようと画策する。ところが治療するために病院へと連れて行くことになり、自動車を走らせていると酔ってもいないのに得体の知れない集団に襲われてしまう。彼らは何なのか。アレンはまともになれるのか。今までとは異なる展開で物語が動き出すのであった。

 タイトルはこれまで通りのハングオーバーということで、そのまま訳せば二日酔いである。しかし今回は二日酔いではない。素面のまま身に覚えのないトラブルに巻き込まれる形でストーリーは進む。だがトラブルの原因には深く関係しており、今彼らが置かれている状況は二日酔いが招いたものである。二日酔いからのスタートという定石からは外れたが、二日酔いで何かが起きて解決するという流れは本作でも健在である。

 まさかお前がずっとレギュラーなのかという驚きや、お前はもう出ないのかよという突っ込みが出そうになるが、これまでの活躍ぶりを見ればこの人選になってしまうのも仕方ない。彼がいなければ最初の大事件も発生せず、彼と関わっていなければ以降のシリーズも産まれない。真の主役は彼だ。それが良いか悪いかは別として。興行収入も評価も下げてしまったのは彼が出しゃばりすぎたせい……かどうかは分からない。

 相変わらずのテンションでお馴染みの流れ。しかし勢いは落ちていくばかり。娯楽作品だから雰囲気を楽しめたらそれでいいって人にはいいが、とりあえず映画として完結させましたという印象が強く、ハングオーバーは3部作になってしまっただけのシリーズとも言える。1作目でそのまま終わっていた方が良かっただろう。蛇足に蛇足を重ねては地を這うのにも不便で、足も揃わない。迷走してしまうのも致し方ないのだ。

 それでも佳作にしてしまうのは、こういう馬鹿馬鹿しい娯楽映画そのものが好きだからである。マンネリを何とかしようとしている努力は見えたわけで、随所で笑いを取ろうとしているシーンもあった。最後の最後でまたお馴染みの流れを繰り返すのも作品そのものへの愛を感じられる。娯楽を作り、完成させようとした者が居た。その事実だけで嬉しくもなる。馬鹿馬鹿しい映画を観たい。そんな人だけが観ればいいのだ。#ハングオーバー!シリーズ

1038文字 編集

原題:Search Party
93分

 結婚式を控えて騒ぐ3人の男達。不安からか花婿から本音が漏れてしまい、あろうことかその時の愚痴を結婚式で暴露されてしまう。花嫁は逃げ出すわ結婚式は台無しだわで散々な結果に終わる。それから時は流れたある日、花婿は何故か全裸で見知らぬ土地にいた。親友2人は彼を助けに自動車を走らせるのだが……。

 タイトルや冒頭のテイストは『ハングオーバー!シリーズ 』を思わせるが、別にシリーズの続編でもなければスピンオフでもない。ハングオーバー2作目の脚本家(の1人)が監督を務めたオリジナル映画で、原題もそこまで寄せていない。ただまあ……そうでもしないと誰も観ないんじゃないかという気はする。本作は掴みが弱いのだ。

 いまいち盛り上がる展開もないまま進み、ちょっとしたスパイスが出てくる程度で退屈な印象を受ける。サメ映画からサメを抜いたB級映画のようなもので、大パニックが起こる前の小パニックをひたすら見せつけられる作品である。イケメンもいなければ解き明かす謎もない。本家も娯楽に振り切ってしまうとこうなるのだろう。

 序盤の辺りを乗り切ることができれば最後まで視聴することも可能だが、序盤で合わないと感じた人はその場で視聴を止めてもいい。Scarborough Fairの使い方に少し笑い、Rosa Salazarをずっと映してて欲しいなあと思ったりしたくらいで売りはよく分からない。本家が胃もたれしてしまう人はちょうどいいかもしれない。

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原題:Liar Liar
87分

 フレッチャーは有能な弁護士だ。しかし優れた父親ではなかった。妻とは別れ、子供のマックスを溺愛しているものの仕事を優先して約束を破ってばかりいる。マックスも父親を愛しているのだが、誕生日までそれでは納得できない。そこで彼は「パパが嘘をつきませんように」と祈る。するとその願いは叶ってしまい、フレッチャーは嘘をつくことができない状態で嘘まみれの浮気女の弁護に向かう……。

 嘘を吐けない。たったそれだけの要素でキャラクターとストーリーが出来上がっている。監督と役者の演技があってこその映画で、同じ脚本があったところでこれだけ楽しめるかは微妙だろう。基本的にはコメディだがホームドラマでもあり、家族の素晴らしさを堪能できる。嘘自体は簡単だしうまく使えば役にも立つ。けれどもそれに頼ってばかりでは幸せになれない。フレッチャーはたった1日でそのことを理解する。

 嘘を吐かずに危機を乗り越える方法というものはなかなか見つからない。トラブルに巻き込まれてもっともらしい言い訳をする機会を期待するか、自身の成長で乗り越えるしかないのだ。そこで彼はトラブルを演出し、嘘を吐かずに切り抜けようとする。その光景を見ていれば頭の問題だと判断されて切り抜けられる気もするが、彼はどうにかこうにか乗り越えてみせる。ここに見た目とは裏腹な優秀さを感じ取ることが出来た。

 そんな人物でも嘘という武器を奪われるだけでとんでもない苦労をしてしまうのだ。もし優秀でもなんでもないいわゆる普通の人から嘘を取っ払ってしまったら……きっと人生は酷いものになるだろう。ERで知られるモーラ・ティアニーの愛らしさも魅力的だが、マックスを演じるジャスティン・クーパーもいい。ワガママさが不足しているものの、子供の魅力を全身から伝えてくれる。これは嘘吐きにこそ観て欲しい名作だ。

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原題:Yes Man
104分

 自ら退屈な日々を選択するかのようにノーと言い続けたカールが怪しいセミナーに参加し、今度はなんでもかんでもイエスと言うようになる。たったそれだけで人生は大きく変わり、様々なチャンスに恵まれる。しかしいつまで経ってもそれで通用するとは限らず、カールはイエスが引き金になってピンチも迎えてしまい……。

 ノーと言えない日本人という表現がある。これは心優しいのか自分の意思というものがないのか、知らず知らずにイエスマンになっている日本人の国民性を現したものだ。ノーと言える外国人が日本人さながらにイエスと言えばどうなるか。その模様を描いたのがこの映画だろう。彼の場合は極端だが、まあこんなものかもしれない。

 率直な感想としては、こんな展開あり得ない。しかし本当にそうだろうか。自分の常識というものに囚われてはいないか。あり得ないとは言ったが、どれも不可能というほどではなかった。運良く偶然が重なれば昇進もするだろうし、運悪く偶然が重なれば警察に睨まれることだってあるだろう。これは一つの可能性を描いた映画なのだ。

 人生が失敗続きで何もかも上手くいかない。何の意味も見出せない日々を過ごしていれば死にたくもなるだろう。そんな人生を変える切っ掛けがカールにとってのイエスだった。言葉一つ、行動一つ変えてみれば世界が変わる。怪しいセミナーじみてはきたが、そういう人生の変え方について教えてくれるのが本作である。

 人生が上手くいっている人からすれば、本作は退屈な映画にもなりえる。なにせ退屈な人生からようやく抜け出して、これから面白くなっていくというところで映画は終わってしまうのだから。何か思うところがあって考え方を変えたいという人にはいいだろう。良い作品だが、打ち切りのような印象もあるのが少し残念なところだ。

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原題:El laberinto del fauno
119分

 軍人に囲まれてどこかへ向かう少女と身重の母。そんな状態で荒れた道を進んだせいだろう。母は気分を悪くして車を止めさせる。少女――オフェリアは車中で夢見がちな本を母から馬鹿にされたこともあり、車を降りた後も不満げに辺りを見回していた。そこで足元にあるものに気付き、それをある場所へと戻した。すると妙に大きく存在感のある虫が現れ、オフェリアは驚く。しかしその場では特に何も起こらず、再び車へと戻り目的地へと向かうのであった……。

 正直に話すと私はファンタジーをあまり観ない。別に嫌いではないのだが、他に観たい映画があればそちらを優先してしまうのだ。それというのもどちらかといえば本作の母親に近く、あらゆるものを空想よりも現実を重視して判断してしまうせいである。ゲームだと気にせず買うが、映画は2時間程度の時間に全力を注いだ究極の作り物だと考えており、ファンタジー映画は作り物の中の作り物という感情を抱いてしまうのである。

 ただの偏見には違いないが、そんな私でもふとファンタジーに興味を抱く瞬間はある。美しい映像や魅力的なキャラクター。そして凄惨な表現。本作にはその要素が全て含まれていた。3DCGがお粗末(時代を考えれば仕方ないのかもしれないが)なのは気になるが、全体的に好みではあった。ただ、それでも名作とは言えなかった。オフェリアの扱いがどうもご都合主義というか、演出にしても説明不足な印象を受けたからだ。

 彼女の気力や豪胆な性格は場面によって変わっているように見える上に、ピンチを招いてもよく分からないチャンスを与えられる。作中屈指の悪人についてもそうだ。彼は警戒心があるのかないのか。短いシーンで変化に気付き、何も怪しまずに手を伸ばす。よくそれまで生きながらえてきたものだと感心する。尊敬はできないが。

 内戦だのダーク・ファンタジーだのと作風やテーマ、表現のせいで単なるファンタジー好きにはオススメできないが、普段から血にまみれた作品を観ている層にはオススメできる。その傷で断面も生々しいのになんで血が止まってんだ、針くらいで急にガーゼを染めるほどに出血するのは何故だ! と突っ込みたくなるシーンもあるが、十分面白い映画だった。細かいことは考えず、映像に酔いしれよう。

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 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

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