時系列順[114件](3ページ目)

原題:The Foreigner
110分

 テロに巻き込まれて娘を失ってしまった中華料理店の経営者クァン。彼は首謀者への復讐を考え、名前を知りたがる。しかしそう簡単に名前を教えてもらえるはずもなく、クァンの行動は過激になっていく。観客も途中から明らかに普通じゃないと気付き始め、なんだこの老人は……と思い始めたところで正体を知る。ネタバレではあるが、彼がただの経営者だとは思えないだろうから書いてしまおう。クァンは元工作員だったのだ。

 ここまで書いてしまえば映画好きなら想像できる通り、クァンは年齢を感じさせない身体能力と知識で恐ろしいほどの行動力を発揮する。テロの首謀者が誰なのか。クァンはこのままどこまで暴走してしまうのか。彼がやられてしまう展開は一切想像できないまま、物語は複雑そうに見せて意外にもシンプルな構造のまま進行していく。

 色々と捻ってはいるものの、アクション映画の枠からは出ないまま本作は終わる。何らかのはっきりした結末を求めている者には物足りないまま幕を閉じてしまうので、消化不良だのなんだのと文句を言いたくもなるかもしれない。007シリーズで知られるピアース・ブロスナンと、アジアのアクション映画では説明不要のジャッキー・チェン。彼らの演技を楽しむのが本作の醍醐味ではないだろうか。残念ながらアクション要素はジャッキー・チェンにしかないが……。

 ちなみに本作で登場する組織や名称等には実在するものがあり、恐らくはそういった歴史的背景を知っていれば更に深く楽しめるだろう。とはいえそこまでの知識がない私でもアクション映画として楽しめたのだから、わざわざ調べて知識を身につける必要もない。どちらかの俳優が好きで、アクションが観たい。そんな理由でもいいから、気負わず楽しんで欲しい一本だ。

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原題:Survivor
97分

 優秀な外交官であるケイトは日々職務を全うしている。その日も彼女は怪しい人物を見つけては本当の目的が何かを突き止めようとするのだが、同僚に邪魔されてしまう。彼女が疑い深いだけで何も問題はない――と思われたが、ケイトの直感は当たっていた。その人物を疑い、調べてしまったがためにケイトは命を狙われる羽目になってしまう。

 命の危機に曝されつつもなんとか生き延びて、ケイトは一人で行動していた。しかし運悪く容疑者の濡れ衣を着せられてしまい、着々と悪人へと仕立て上げられていく。けれども彼女はそこら辺の警察ではとても太刀打ちできない。何故なら彼女は優秀だからである。……そう。いくらなんでも優秀なんて言葉では説明できそうにないが、そう説明するしかないのだ。

 いっそスパイであって欲しいくらいに優秀な外交官と、噂の割に女一人仕留められない伝説的な暗殺者。もう少し設定はなんとかならなかったのだろうか。多少のパニックはあっても冷静になるのが早すぎる気もするし、暗殺者はヘマが多すぎる。最後の方も容疑が晴れていない割にあっさり和解しすぎというか……。脚本に難はあるが、娯楽映画としては悪くもない作品だろう。

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原題:The Killing
85分

 独創的な映画ばかり作る印象のある監督といえばスタンリー・キューブリックだろう。そんな彼がハリウッドで最初に作ったのがこちらの作品である。内容は手っ取り早く大金を手にしたい連中が計画を練り、競馬場の金を狙うというもの。計画実行までの人間性が際立つドラマパートにスマートさの光る強盗パート。そして結末が待ち構える。

 計画自体はよくできているが、何故そこにその人物を選んだのかという疑問点は残る。ああいう性格だから利用しやすいと考えるべきか、あるいは他がまともだったから彼しかいなかったのか。何にせよ計画に欠かせない人物ではある。きっと他に誰もいなかったのだろう。ついでに他の疑問点もある。それはある人物らとの交渉シーンである。

 その計画には協力者が必要で、協力者には詳細を明かすわけにはいかない。もし彼らが手にする大金の額を知ってしまえば、多額の報酬を要求してくる可能性が高いのだ。それで協力者には詳細を隠し、彼らからすれば大金(強盗で得る額からすればはした金)を支払う。詳細は明かさない。その代わり協力すればこれだけの金をやるぞ、と。

 もちろん彼らは食いつく。しかし彼らも馬鹿ではない。何故この程度の協力で大金を得られるのだろうか、と疑問を抱くのだ。この程度の内容なら自分である必要はない。それにもっと安く済む。さてはもっと大金が手に入るのだろうと。そうと分かれば彼らも黙ってはいない。協力はする。その代わりに分け前をよこせ。これは当然の流れで、これまた当然の要求である。

 ここで私は口約束をして反故にするのか、過少申告して少ない分け前を与えるのか……と考えていた。しかし彼らはごねる割にあっさりと引き下がる。依頼内容を怪しむ者が居るのはいい。誰も疑わないのは不自然だろう。けれどもこうさっぱりしていると違和感がある。これならもういっそのことごねる展開は不要だったのではないだろうか。

 最後に疑問点を書いてしまったが、全編通して気になった箇所といえばそれくらいのものである。彼が仲間でなければ最後の展開には至らないわけで、いささか不自然ではあるものの協力者が納得しなければ計画もうまくいかないだろう。演出はキューブリック監督らしく、いやに人間らしい彼らのやりとりもうまい。フィルム・ノワールに興味があれば是非観てほしい。

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原題:Funny Face
103分

 世の中には平々凡々とした生き方を選ぶ者が多い。それには芸能界のような華やかな世界にはついていけないと思ったり、元々そういった世界に興味がなかったりとそれぞれの理由がある。この作品の主役であるジョーは自分が芸能界でやっていけるとは思っておらず、そういった職業自体に興味を抱いていない。しかしひょんなことから大役のモデルを任されてしまう。

 ジョーを演じる女優はオードリー・ヘプバーン。作中ではメイクをしてからその美貌を誰もが認めるのだが、本屋で働いているただの店員として登場した瞬間から誰よりも輝いている。この美貌に気付かない連中に一体何が分かるのかと文句を言いたくもなるが、もちろんその魅力に気付く者がいるおかげでモデルへの道が拓けるのだ。

 モデルになったジョーと写真家のディック。そして編集長であるマギー以外は目立たないが、コミカルな動きのミュージカルと合わせて終始心地よい気持ちで三人の姿を見ていられる。展開はありきたりとも言われそうなものだが、無駄のない演出と地味になりがちな箇所でのミュージカルが飽きさせない。特にカフェでのダンスは色々な意味で凄い。

 脚本の面白さに加えてミュージカルの楽しさ。オードリー・ヘプバーンの美しさにフレッド・アステアのダンスと本作の魅力は多い。ケイ・トンプソンもありがちな作品ではひたすら性格の悪い役になりがちだが、少し癖が強いだけで良い性格をしている。魅力的な三人の異なる個性は相乗効果を産み出し、良質な世界観を作り出す。間違いなく今でも楽しめる良い作品である。

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原題:Looper
119分

 あらすじ(この場合は内容の全体像ではなく、冒頭に触れるものとして扱う)というものは重要である。それがどんな作品なのかを判断する大切なポイントで、あらすじの時点で気にならない作品を手に取る者は居ないだろう。この作品を見ようと思ったキッカケは間違いなくあらすじだが、どうもあらすじの表現が過剰演出だったように感じる。それだけ私は落胆したのだ。

 未来にはタイムマシンがある。犯罪組織はタイムマシンを悪用して、標的を過去に送り込んでルーパーという暗殺者たちに殺させる。ルーパーには任期のようなものがあり、最後は自分で未来の自分を殺さなくてはならない。主人公であるジョーにも未来の自分を殺す日が訪れてしまい、殺し損ねてしまう……という一連の流れが物語の動き出すターニングポイントである。

 短くまとめてしまえば、ついに自分を殺す日が来たけど動揺して逃しちゃった。うむ、なんて情けない説明だろうか。確かにあらすじで表現を盛りたがる気持ちもわかる。しかしそのあらすじで私は、「これは近未来を舞台にしたサスペンス・アクションか?」と思ってしまった。ところが蓋を開けてみればサスペンス要素はかけらもなかった。

 映画自体は分かりやすく適度に面白いとは思う。ただ色々と気になる点もある。タイムマシンを悪用するにしても、わざわざ本人を送り込んで過去の暗殺者に始末させ、わざわざ大金を払うのはどうなのか。幼い本人を直接その時代で殺すよりはいいとはいえ……なにか他に良い方法はないのか。他にもっと便利な道具は出来ていないのか? 暗殺が雑じゃないか?

 ハードSFを好むガチガチのSFファンがターゲットではないのだろうが、軽いSFにしたってもう少し説得力や科学っぽさを見せて欲しかった気はする。深く考えず、ちょっと変わったアクション映画として見ればある程度は楽しめるだろう。決してタイムマシンやSFといった言葉、あらすじに期待しすぎてはいけない。B級映画と思って楽しもう。

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原題:Inception
148分

 夢には突拍子もなく奇妙な展開を見せる荒唐無稽なものから、いやに落ち着いていてそれが現実ではないかと錯覚するようなものまであり、夢か現実かをはっきりと自覚するのは難しいだろう。夢の中で夢と気付き、自由に動き回る明晰夢というものもあるが、この映画ではその明晰夢をより複雑に、自在に扱えるようにしたような潜在意識の世界を舞台とする。もっと簡単に言えば、頭の中でディカプリオが好き勝手に動き回る話だ。

 ディカプリオ演じるコブは産業スパイである。といっても現実で会社に忍び込んで情報を盗むのではなく、好みの異性を送り込んで傀儡にしてしまうというものでもない。特殊な技術を用いて脳内へと入り込み、頭の中で情報を得たり植え付けたりしてしまうのだ。潜在意識の中でそうした操作が加えられたとしても、大半の人物は気付くはずもない。無意識のままに情報を漏らしてしまい、意図的な行動を無意識のままにとってしまうのだ。

 しかし今回の相手はそう単純ではなかった。色々と手を打ったにも関わらず、コブ自身の問題もあり失敗してしまう。そこでどう対処していくのかという流れになるわけだが……これがまた地味にややこしい。夢は多層構造になっているという設定だけでも参るが、そこに時系列の問題まで絡み、何が何やら分からないままに終わってしまったという者も居るだろう。だが、それでも映画自体は面白く感じたという者はもう一度最初から映画を見直して欲しい。

 順を追って疑問点を解決していけばそこまで難しくもないだろう。冒頭とラストの共通点は何か。どこからどこまでが何層での出来事か。その世界は何だったのか。夢か、それとも現実か。明確な答えはないが想像する余地ならいくらでもある。考察が好きだという方はぜひ一度、いや、二度三度と目を通してもらいたい。ちなみに某百科事典にはクソみたいな粗筋が載っている。ストーリーが気になってもそちらは見ない方がいいだろう。

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原題:Blade Runner 2049
163分

 映画やSFが好きな者であれば、きっと『ブレードランナー』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というタイトルを知っているだろう。本作は『ブレードランナー』の正当な続編であり、前作に出演した俳優も登場する。ファンからすれば続きを楽しめるだけでも嬉しいものだろう。映画自体が丁寧に作られており、ちゃんとした内容の正当な続編ともなれば当然評価も高くなりやすい。しかし30年以上の月日は長かった。

 私も前作は観ており、原作も読んでいる。好きか嫌いかと問われれば好きだと言おう。あまりSFを積極的に嗜む方ではないが、それでも名作と聞かされたら興味を抱く。前作を楽しんで、今作も楽しんだ。だが、正直に言おう。既に前作の知識はほぼ失われている。ぼんやりと浮かび上がる蜃気楼のような記憶をたよりにストーリーの繋がりを考え、これはどういうものだったかとたまに困惑しながら観てしまった。

 映画自体は面白く、わざわざ前作を見直さなくとも本作だけで楽しめる。前作を見て、より理解を深めてからだと更に楽しめるだろう。問題は私のように、中途半端な記憶がある者だ。妙な先入観と記憶が邪魔をしてしまい、せっかくのエンターテインメントを台無しにしてしまう。前作を映画館で観たわけではないが、それにしたって観たのは随分と前だ。いっそ記憶がなければ、それか見直していれば純粋に楽しめていたに違いない。

 本作は期待も大きかった分、色々と力を入れている。関連した短編作品が3本も作られており、現在もYouTubeで視聴可能である。時系列順でまずは『ブレードランナー ブラックアウト2022』を観てから、『2036: ネクサス・ドーン』『2048: ノーウェア・トゥ・ラン』と続けて観るとより楽しめるだろう。本編を観る前に映画1本、短編作品を3本も観るのはなかなかにハードルは高いが、映画を全力で楽しみたい者は観ておいた方がいい。

 もはや映画そのものではなく前作や関連作の話題ばかりになってしまったが、興味を抱いた者からすれば期待通りの内容を楽しめる。ロボットやアンドロイド、近未来といったものが好きであれば見る価値がある。別に興味がなくともアクション映画を求めている者にもマッチしている。ついでに言えばアナ・デ・アルマスは可愛く、シルヴィア・フークスは美しい。好みの女優目当てに観てみるのもいいかもしれない。

1034文字 編集

原題:The Accountant
128分

 どうみても強そうな会計士が優秀な仕事ぶりを発揮しながら迫りくる障害を跳ね除けていく。たったこれだけの文章で説明できる作品だが、いわゆるセガール作品や私が愛してやまないリーアム・ニーソンの映画よりはいくらか背景や目的、伏線といったものが用意されている。まあ最後まで安心して見ていられるのは前述した作品と変わりない。

 会計士がなんで強いんだと思われそうなものだが、きちんと説得力があり納得もできるだろう。彼にはそういう仕事を選ぶ理由があり、強くなれたのも鍛錬に因るものだ。家の中で暴れているシーンの時点で力はあるのだから、順当に鍛えて腕を磨かれたらそりゃ誰も敵わない。対抗できる人物が限られるのも当然だろう。

 作中だと主人公の抱える発達障害が問題として顕現する機会は殆どないが、もし彼に何もなければ知能も人並みになり、体を鍛えることもなかったかもしれない。この辺りの設定や背景の作り方はうまく、見事に活かしきっている。展開についても語りたいところだが、語ると楽しめなくなる恐れもある。これは主人公が極端に強い作品の宿命といえる。

 ちなみに以前別の感想でも書いたが、いくら内容が気になっても決して某百科事典を見てはいけない。こちらもせっかくの面白い要素をあけすけに書かれてしまっている。あらすじ本来の意味が作品の起承転結を表現するものだとしても、こういった作品のあらすじは予告程度に留めてもらいたい。ああいうものは日記帳にでも書いた方がいいのだ。

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原題:Peppermint
102分

 ライリー・ノースには大切な家族が居た。金持ちの主婦からは馬鹿にされ、娘の誕生日パーティーを台無しにもされた。けれどもめげず、家族で楽しもうと外出する。それは確かに楽しい時間で、後になって振り返ればきっと良い思い出になる。誰もがそう思っていたが、幸せなひと時は麻薬密売組織の襲撃によって打ち砕かれてしまうのだった……。

 この作品の主人公は主婦だ。とびきり優秀な外交官 ですらない。そんな主婦が生き残り、復讐を決意することで物語が始まる。しかし彼女はいきなり復讐を実行するのではなく、確実に復讐を完遂することを考えて自らを鍛え上げた。5年もの月日は彼女を優秀なソルジャーへと鍛え上げ、恐ろしいまでの強さを発揮していく。

 少しは危険な目にも遭うが、彼女が桁外れに強いおかげで緊張感は特にない。安心して見ていられるアクション映画と言えるだろう。それもそのはず、監督はピエール・モレルなのだ。リーアム・ニーソンが敵を圧倒する『96時間 』の監督と考えれば、主人公が強くとも違和感はない。むしろ弱い方が強い違和感と動揺を誘うだろう。

 ジャンルとしてはスリラー映画、またはスリラーかつアクションらしいがスリラー要素はほぼ無い。最初から最後まで分かりやすく大味なアクション映画だ。一体誰が内通者でライリーは大丈夫なのか? とはらはらさせてくれたらよかったのだが、内通者として疑える候補がそもそも少なく、ライリーは極端に強すぎた。

 映画に小難しい説明はいらない。面白ければそれでいい、という方には十分楽しめる作品だとは思う。復讐劇のアクション映画としては名作だと言う方も中には居るだろう。ただ個人的にはいくら鍛えたとはいえ、ただの主婦がここまで強くなれるのかと気になる。ついでに強くなるまでの描写が薄く、説得力は正直弱い。

 平凡な主婦から強靭な女戦士へと変化するライリーを演じたのはジェニファー・ガーナー。特に何の意識もせずにこちらの映画を観たのだが、奇しくも昨日レビューした『ザ・コンサルタント 』で主役を演じたベン・アフレックの元奥さんである。いっそのこと二人が互いに親権を争うアクション映画を観てみたいと思うのは悪趣味だろうか。

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原題:Jungle
115分

 人は未知の存在に恐怖する。しかし同時に興味も抱いてしまう。好奇心とは常に未知というスパイスを孕んでいるものなのである。主人公のヨッシー・ギンズバーグは現地で知り合った友人2人にガイドの1人を加えた4人でジャングルの奥地へと進む。だが、ジャングルには彼の想像を遥かに上回る危険と恐怖が潜んでいた……。

 魔法を使っている子役のイメージがしばらく付き纏っていたダニエル・ラドクリフがジャングルを舞台に生きる。最初は顔を見る度に妙なイメージがちらついていたものだが、物語が進むにつれて彼はヨッシーにしか見えなくなっていく。こう書くとそれはそれでまた違った意味に受け取られかねないが、心配は杞憂に終わったのだ。

 主な登場人物は4人と少ない上に、終盤はほぼ1人で演出や演技が重要になる展開が続く。このような内容だと俳優によっては間が持たず、演出によっては退屈な時間にもなりやすい。けれどもダニエルの演技は見る者を引き込み、極限状態の人間が見てしまうものを表現することで観客を飽きさせず、より作品の魅力を引き出している。

 作品としては面白く、実話が基になっているとは思えないほど単体の映画として昇華されている。個人的にはおすすめしたいところだが、割とスプラッターな要素もある。未開の部族と『グリーン・インフェルノ』のような展開はないが、動物が悲惨な目に遭うのは間違いない。そういったものへの耐性があり、サバイバルが好きな人には見てほしい。

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原題:내가 살인범이다
119分

 チェ・ヒョングは連続殺人犯の事件を捜査していたが、危うく殺人犯に殺されかける。しかし命までは奪われずに、その恐ろしさと強かさを宣伝する広告塔として生かされることとなる。それから17年の月日が流れ、ある日真犯人を名乗る男がメディアに姿を現して事件内容を赤裸々に描いた本を出版するという。当然ヒョングは画面に映る男を睨み付けるが既に事件は時効を迎えており、彼を逮捕することは不可能だった……。

 チョン・ジェヨンが演じる野性的でワイルドな刑事のヒョングと、パク・シフのクールで謎めいた姿が対照的な殺人犯のイ・ドゥソク。2人のやりとりが主軸であり、どちらかの性格や外見が合わなければ恐らく映画自体もいまいち楽しめないだろう。個人的には本作のジェヨンが昔働いていた会社の社長にそっくりで、「社長すげえ!」「社長強い!」と変な感覚を抱きながら観ていた。そういえばあの社長も酒浸りだったなあ。

 ちなみにこの映画、韓国で実際にあった未解決事件からインスピレーションを得ている。その事件を題材にした他の映画としては『殺人の追憶』というものがあり、こちらも気になってはいるが観ていない。他にも本作をリメイクした邦画に『22年目の告白 -私が殺人犯です-』もある。評判は悪くないが、リメイクということでどちらかを見たらどちらかを純粋に楽しめなくなる。残念ながら邦画は観ないまま終わるだろう。

 それでは感想に戻ろう。はっきり言うと最初は単なる刑事の復讐劇と思っていた。しかしそれぞれの思惑やストーリーが絡み合って深みのある展開が待っており、想像以上に丁寧な脚本を楽しめた。随所に入るアクションもそれなりに見応えがあり、コメディ要素は良くも悪くも印象的だった。『コンジアム 』でつのった不信感を払拭するだけの力はある。それに『新感染 ファイナル・エクスプレス』よりは人に勧めやすい。

 余談だが社長に似ているという私の感想は共感を得られないだろうが、真犯人を名乗る人物の姿がお笑い芸人の誰かさんに似ているという感想は共感を得るかもしれない。途中まではぎりぎり別人に見えていたのだが、生物としての気持ち悪さが強く出始めると髪型と表情が気になり始め、私もラッセンが好きだと余計なことを口走りそうになった。癖の強い女学生もタンポポを思い出してしまい、妙な気持ちになる。

 アジア映画だから日本人の誰かに似ているという感想を抱いてしまうのが欠点ではあるが、映画そのものは純粋にエンタメとして、サスペンスとしてもしっかり楽しめる。思いのほかアクションが多く、引きでピンボケ気味に写せばいいものをしっかり写すせいで違和感の目立つ3DCGも気になるが、そこはもう目を瞑るしかない。どんな駆け引きを経てどう結末を迎えるのか。その一点に集中しよう。

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原題:기생충
132分

 その一家は半地下のアパートに住み、堕落しきった生活を送っていた。金もないのに内職の収入しかなく、煙草や酒を買うろくでもない日々だ。けれどもある日、ギウの友人で名門大学に通うミニョクが現れて家庭教師の仕事を紹介してくれる。採用されたギウは会話の中で家族のギジョンを紹介し、そのギジョンは父のギテク、ギテクは妻のチュンスク……といったように身分を偽って数珠繋ぎで家族全員が終結していくのであった。

 嘘で塗り固められた一家が金持ち一家にしがみつき、豊かな生活を送る。その様は正にパラサイトであり、よくもまあここまでやれるものだと思う。韓国映画には利益の為なら何でもやるような凄まじい人物が割と多い。その中でも凄まじさを煮詰めた人々が集結しており、彼らの姿を見ているからこそ終盤の展開や結末にも納得できる。1人だけかわいそうな気もしたが、悲惨な目に遭わせてしまうのも特有の展開といえよう。

 やっていることは非道で非常。どんな目に遭おうが因果応報ではあるのだが、所々で人間性が見え隠れているせいか比較的善人でも悪人に見える時はあり、反対に悪人が善人……または被害者のように見える機会もある。こうなっても仕方ないと思う反面で、ここまでいくのはどうだろうと味方になってやりたくもなるのだ。だがまあ近付きたくはないし、これはあくまでも傍観者としての見解に過ぎないだろう。

 実際に見て一番に思ったのは、人間のいやらしさがよく出ているといったところだろうか。前評判やそれまでのイメージ(とりわけ日本版の映画ポスター)から想像していた内容とは少し違った。てっきり最初から最後まで地下生活を送る一家の物語だと思っていたのだ。冒頭でいきなり出鼻をくじかれてしまったわけだが、起承転結をしっかり描こうとすれば避けられないのも事実。あれは回想で描いても地味で退屈だ。

 いつも通り洋画を観るつもりで映画を漁っていて、ついうっかりNetflixに追加されていたからなんとなく観てしまったが、思いのほか悪くなかった。ぶっちゃけた話をすると、数々の受賞歴も信用していなかったのだ。唐揚げやモン何とかセレクション、吹奏楽部の金賞並に一定水準を満たしたものを評価するものと同等に考えていた。その考えを良い意味で裏切ってくれて、時間を割くだけの価値はあったと思わせてくれた。

 ……とまあ、ここまでは割と良い部分について語ってみた。しかし個人的に名作ではない。思っていたよりは良かったが、そこで評価は止まっている。色々とご都合主義な面もあり、説明不足に感じる部分もあった。そしてなによりも展開が分かりやすすぎた。蛇口を捻れば水道水が流れ、コップに入らなくなれば溢れる。自然の摂理をそのまま表現したシンプルなストーリーが合わなければ迷作にもなりうる一本だろう。

1193文字 編集

原題:The Lost Weekend
101分

 売れない小説家のドン・バーナムは重度のアルコール中毒だった。どうしても酒が呑みたいという理由で酒を窓の外に隠すほどだが、それも兄に見つかってしまう。兄と恋人は彼を心配しているのだが、彼は酒を呑めないストレスで苛立ってばかりいる。この物語は中毒症状の男がひたすら酒を求め、泥沼に沈み、道を踏み外す描写が続く。起承転結で言えば承のまま続き、静かな転換を迎えて結末へと繋がるのだ。

 最近はなるべくネタバレにならない範囲で少しばかり文字数の多い感想を心掛けていたものだが、この映画はあっさりした説明でもネタバレになってしまう。キーアイテムを触れればそれが全てに影響し、印象的な台詞がどこかへと続く。ビールでも呑まないとタイプ音も重く、さてどこをどう伝えたものかと悩んでしまう。

 アルコール中毒の症状が悪化していく過程と彼の静かな変化。時折入る回想と変わらない姿。人が駄目になっていく様子を描いた作品としては良いのかもしれないが、ひたすら悪路を突っ走っていく主人公を見ているのは辛くもある。作中の曲もおどろおどろしく、これはもはやホラーではなかろうか。

 この映画を楽しめる人は、様々な展開を思い描ける人だろう。ここでもし彼が酒を断っていたらという前提で未来を想像したり、ここまで悪化する前に彼女がなんとかできていたらと考えてみたり……しかしどれもこれも結局は酒である。要はこの作品にとって酒は切り離せず、主人公自体を代えるしかないのだ。なんとも哀れである。

663文字 編集

原題:Deadpool
108分

 末期癌で死を待つ身となってしまったウェイドは藁にもすがる思いで怪しい男に連絡をする。おかげで癌は寛解どころか完治し、おまけに信じられないほどの能力を手に入れる。それはあらゆる怪我をすぐに治してしまう能力だったが、代わりに醜い外見となってしまうのだった。ウェイドは赤い衣装で身を包み、自身の外見を変貌させた者への復讐を誓って武器を手に取った。

 普段はマーベルどころかアメコミ全般を観ないのだが、それでもやはり話題作や注目作ともなれば耳にも目にも入る。アクション映画そのものは好きで勧善懲悪だって悪くない。だが、マーベルはヒーローが多すぎる。ちゃんと観ようと思えば時系列順か公開順に目を通さなければ、細部での謎を残したまま見終わってしまうのである。

 それでも何かしらは見ておきたい。そう思った時にちょうど良かったのが、コメディ色の強い赤くて変態で自分勝手なデッドプールだった。実際に映画を視聴してみてその選択に間違いは無かったと確信した。彼は私が思うよりもコメディリリーフ色が強く、下ネタが多く、私利私欲で好き勝手に動き回ってくれた。それはもう素晴らしいくらいに。

 アクションも演出もカメラワークも何もかもが好み通りで、好きな映画だと言える。今年観た映画で何かオススメを聞かれたら、パリの恋人と答えるだろう。……パリ? デッドプールは? と思ったかもしれない。そこにももちろん意味はある。何も考えずに楽しむ映画としては満点だろう。血や欠損といった表現が苦手でなければだが。

 彼は王道から外れたヒーロー(本人はヒーローではないと言っているが)で、正に邪道と呼ばれる存在だろう。作中でも彼の暴れっぷりは十分に伝わっている。しかしストーリー自体は想像の範囲にすっぽり収まってしまう程度には王道だった。もっと最後の最後で自身が物語のキャラクターだと理解した強みを発揮して欲しかったのだ。

 どう足掻いても勝てない相手に絶望してみたり、脚本を書き換えてその存在自体を無かったことにしてみたり。私が彼に求めているのはヒーローらしくないヒーローを上回る存在、もはや映画監督そのものとして暗躍する姿だったのだ。そんな物足りなさは残るが、面白い映画ではあった。引き続き続編にも目を通してみようと思う。#[マーベルシリーズ] #[デッドプールシリーズ]

999文字 編集

原題:Deadpool 2
120分

 最愛の恋人と再会したウェイドは幸せな毎日を送っていた。しかし恋人のヴァネッサが殺されてしまい、自暴自棄になってしまう。しかし超人になってしまったせいで自殺を図るも死にきれず、コロッサスからはしつこく勧誘を受ける。X-MENに見習いとして参加した最初の任務ではミュータント孤児のラッセルと出会う。ラッセルのためにデッドプールとして好き勝手な振る舞いをしてしまうのだが……。

 幸せを掴んだかと思いきや不幸な世界へと転がり落ちてしまったデッドプールはどこか覇気が無く、前作と比べたら勢いがなかった。その代わりに運の良さと意外にも高い身体能力が目立つドミノが活躍していたように思う。前作の暴走ぶりが10だとすれば、本作はせいぜい6といったところだろう。終盤では暴走ぶりも見られるものの、そこまでの控えめな面が長く印象に強い。物足りないというやつだ。

 アクションはあって随所の演出もそれらしい。本人が言っていたようにファミリー向けの映画といったらいいのか、せっかく良い豆を使って苦く香り高い珈琲を淹れた後で安いミルクをどばどばと投入したようなものになっていた。それはそれで美味しいのかもしれないが、珈琲とカフェオレは別物の飲み物だ。きっとこのデッドプールを求めている者も居るのだろう。だがイレギュラーな存在を求めていた私は落胆した。

 ここまで文句ばかり並べ立ててしまったが、本作も個人的には好んでいる。アクションが見たい。スプラッターも見たい。ついでにジョークや下ネタもあれば娯楽としては良い。そんな私の欲求を詰め込んであった。ところが残念なことにその引き出しは鍵が掛かっていた。いや、奥で何かが突っかかっていただけという可能性も考えられる。とにかく良い題材は眠っていたが、引き出しきれずに仕舞われてしまった。惜しい作品である。#マーベルシリーズ #デッドプールシリーズ

816文字 編集

原題:Re-Animator
85分

 ハーバート・ウェストは非常に優秀な科学者である。どこでどうやってそんな知識や技術を身に付けたのかは不明だが、彼は死者を蘇生させる血清を作り上げてしまったのだ。もちろん彼を信じるのは難しく、ダンも信じてはいなかった。しかし実際に死体を蘇らせてしまう姿を見てしまい、ダンも興味を抱いてしまう。猫だけで済めばまだ良かったのだが、幸か不幸か彼らの身近にはいくつもの死体があり、実験には最適な環境が揃っていた。

 死んだ生物をもう一度生き返らせる。そんなファンタジーを題材にした本作はB級でありコメディでもある。けれどもジェフリー・コムズ演じるハーバート・ウェストには狂気と普通ではない雰囲気が出ており、馬鹿馬鹿しさと共に妙なリアリティが生まれている。きっと現実でマッドドクターのニュースが出る度に、私は彼の顔を思い浮かべてしまうのだろう。真面目そうでまともじゃないオーラを纏う不気味な笑顔を……。

 B級スプラッターとしては文句の付けようがない映画で、割と可愛い女優の裸体が出てくる辺りもそれらしい。しかしウェストは色々と勿体ない男だ。実験第一で物事が見えなくなるのは仕方ないが、彼にはイフを考える力が欠けていた。頭なら頭だけ、体なら体だけと実験対象は分けておくべきで、それぞれと真正面から向き合うべきだ。好奇心に負けて死体から目を背けてしまったばかりに苦労してしまった。

 本作はクトゥルフ神話で知られるラヴクラフトのホラー小説が題材となっているが、そちらには目を通していない。元々彼はどこか抜けている人物なのか、それとも映画の展開を考えるにあたって隙を作ってしまったのか。そこだけでも知りたいのだが、そのためだけに中途半端な巻からラヴクラフト全集を買うのも微妙だ。果たして彼は希代の天才か、または奇跡を起こした馬鹿か。しばらく悩みは尽きそうにない。#[死霊のしたたりシリーズ]

825文字 編集

原題:Bride of Re-Animator
96分

 ハーバート・ウェストとダンは戦地に赴き、治療をしつつ相変わらず実験を続けていた。そろそろ自分達の命も危ないというタイミングで帰国すると、彼らはまた同じようにいつもの場所でいつもの実験を再開する。今までは死体を蘇生するというテーマで活動していたウェストだが、死体を組み合わせて蘇生するというとんでもない実験まで行うようになり……。

 展開は前回同様で実験の成功と判断の過ちによる失敗を繰り返すもの。新鮮味は一切無いものの、彼らのおかしな行動はコミカルで笑える。基本的にはどの登場人物も目的を見失っているようで、どうしてそこでその行動を取ってしまうのかと思ってしまう。それにウエストはもう少し自分の性格を理解すべきだ。指の固まりにせよ詰めが甘い。

 序盤はおどろおどろしい気もするが終盤に向かうとコメディ色が強くなり、Happy Tree Friendsのような不条理でグロいギャグを見ている気分になる。実験がうまくいくのかどうかという観点では見ることができず、実験の失敗がどう繋がるのかという展開を期待してしまうのである。つい彼ばかり注目してしまうが、ダンもダンだ。

 前作のラストが出来心なのは分かる。今回も愛故の暴走だとは思う。しかし余りにも意思が弱い。全くストッパーになれていない。コミュニケーション能力に欠けるウェストの代わりに存在するだけの立場になっている。なんと地味なキャラクターだろうか。ERのジョン・カーターみたいな外見と性格だが、彼には根っこがない。薄っぺらいのだ。

 本作はサービスカットも控えめで、個人的には前作よりスプラッター要素が抑えられていたように感じた(配信でカットされているのかもしれないが)。デッドプール2同様に売りが弱くなっている印象を受けたのだ。ところがそんな内容でも2003年には続編が公開されている。今度こそはと期待して観てみたいが、現時点では配信タイトルに存在しない。いつか観る機会があれば気楽な気持ちで観てみたいものだ。#死霊のしたたりシリーズ

888文字 編集

原題:Cast Away
144分

 人一倍仕事熱心なチャック・ノーランドは誰よりも動き回り、誰よりも生産性の向上に努めている。荷物が届くまでの時間がどれくらいかを伝えるためにカウントしたままタイマーを送ってみたり、作業時間を従業員に意識させるべく何度も残り時間を口にする。また彼を必要とする者からの連絡があり、チャックは貨物機に乗って現地へと向かう。しかし貨物機は墜落してしまい、彼は無人島に漂着するのであった。

 無人島で生きていくのは非常に辛い。もちろんそんな経験はないが、無人島なんてものは今の便利さに満ちた世界とは対極にある世界だ。火も水もなく、満足な食料もない。幸いにもチャックが辿り着いた島にはココナッツがあり、海には魚も居た。しかしそれだけだ。よほどの偏食でなければ満たされることはなく、常に同じものしか食べられないとなれば嫌にもなるだろう。それに全てが生では温もりもありゃしない。

 最後まで火が使えないのかといえばそれは嘘になるが、チャックが満足に火を扱えるようになるまでには少し掛かる。その間は生のココナッツジュースと果肉。それと生の魚にカニ程度なものだ。精神的に強くなければとてもじゃないが耐えられそうにない。サバイバル生活をするベア・グリルスやエド・スタフォードの姿を見ているのは楽しいが、一生同じような生活をしろと言われても困るのだ。恐らく一週間保てばいい方だろう。

 サバイバル映画のイメージだと大半の人は結末で救助を想像するものだと思われるが、本作は救助された後のストーリーまで描かれている。よくよく考えれば当然ではあるが、救助されたからといってその人の人生は終わりやしない。死んだと思われていた状況からの生還。そして社会復帰。墜落前までは当たり前にあった人生の続き。その空白期間に積み上げられた自身の知らない時間を痛感させられてしまうのである。

 元々飛行機よりも新幹線に好んで乗る(景色を見ながら食事を楽しみたいだけだが)身としては、こんな事態に巻き込まれることはないだろう。しかし、それでももし飛行機に乗って墜落し、生き延びてしまうようなことがあれば……その時私は生きる努力が出来るだろうか。ボールが転がっていても蹴り飛ばしてしまわないか。命がある有り難みと、時間への考え方。そして意識の変え方。この映画からは色々と学べるだろう。

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原題:Zoo
95分

 あまり関係がうまくいっているとは言えない夫婦が居た。夫にはまだ幾らかの愛を感じられるが、妻にはそんなもの感じられず、離婚まで考えている。それもそのはずで彼らには互いに抱えた苦しみがあり、その苦しみから逃れきれずにいるのだ。愛は冷え切っているがなくならず、とりあえず続いている夫婦生活。しかしそんな日にも変化が訪れる。謎の感染症が原因で世界はゾンビで溢れかえってしまったのだ。

 よくあるゾンビものと一緒で最初は彼らにとっての日常生活が描かれる。その後ゾンビが出てくるわけだが……この作品にとってのゾンビはそこまで大きな意味を持たない。ゾンビ映画だと思ったら人間同士で殺し合っている海外ドラマ、ウォーキング・デッドみたいなものを想像するといい。しかし本作は更にゾンビ要素が薄く、ホラー映画のエロシーン程度の頻度でしかゾンビが出てこない。

 ちなみに本作のタイトルはゾンビと銘打ってあるが、原題はといえばズー。動物園である。ゾンビが出てくる以上はこれでもいいのだろう。しかし内容を考えると分かりやすいが微妙だ。電車男が流行っていた頃にDVDが販売された『バス男(現在は改題されてナポレオン・ダイナマイト)』をご存じだろうか。あれは主人公がバス通学をしていただけで流行に乗っかった酷い邦題だった。本作もそれと同等である。

 『世界の中心で、愛をさけぶ』という話題作があり、あれは恋人の死をテーマにしていた。つまり話題作のタイトルと話題になりやすいテーマを一緒くたにしてしまったのがこのタイトルとなる。なかなかにぶっ壊れている夫婦が籠城生活をする映画にも関わらず、タイトルは曲がりなりにも感動作風。はてさて展開はどうかと尋ねられれば……強いて言えば感動作といったところか。感動できるゾンビ映画という紹介をするのは難しい。

 ゾンビだらけの世界で物資が不足している。しかも建造物の中は封鎖されている。買い物にはいけないが住民の居ない部屋ならある。もしそんな状況になれば大抵の人は物資を盗み、生き延びようとするだろう。この夫婦だってそうだ。そして生きていれば他に生き延びている者も当然のように出てくる。助けたいと思ったところで物資には限りがあり、分け与えれば自分達の生命にも危機が迫るだろう。

 比較的まともな性格である夫と正反対な妻。彼らがどう生きて、どう対処していくのか。そんな姿をひたすら垂れ流しにしているような映画で、面白いところはどこかと聞かれても私には答えにくい。想像の範疇を超えることはなく、想定外の出来事でパニックになる人達もいない。まだ笑いがある分、ドラマではあるが『サンタクラリータ・ダイエット』の方が楽しめる。久しぶりにイマイチな作品だった。

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原題:장화, 홍련
115分

 スミとスヨンの姉妹が家に着いたところから物語は始まる。継母のウンジュは冗談交じりに美しく優しく接するのだが、何が気に入らないのか彼女らは殆ど無視ともいえる行動をとってしまう。当然ウンジュは気を悪くするが、それでも2人にあたろうとはせずに優しく振る舞う。どうして彼女は嫌われているのか。再婚が気に入らないのか。そんな謎を残したまま、家の中では原因不明の怪奇現象が起こり始めるのだった。

 それまでと違った環境に怪奇現象。ここまで聞くとトビー・フーパー監督の『ポルターガイスト』を想像しそうなものだが、あそこまでおかしな出来事はそう多くない。序盤では継母との確執や怪奇現象が目立ってはいるが、徐々に恐怖の質が変化していく。インパクトのある見た目や演出で驚かすホラーはなりを潜め、その家と姉妹の抱える闇がその世界を黒く塗り潰していくのだ。

 新しい家族が増えるともなれば反発する気持ちもあるだろう。しかし彼女はどうしてこうも毛嫌いするのか。彼女が何故箪笥を嫌うのか。そういった疑問が膨らむにつれて映画も物語の核へと踏み込んでいく。かなり内容は脚色されているらしいが、元々は古典的な怪談だという本作。怪談というからにはそれなりの恐ろしさや悍ましさを期待してはいたが、本作はその期待を見事に裏切ってくれた。

 いざ見終わってみれば仕組みは単純でかなり分かりやすい構造をしている。強いて言えば作中では部外者に当たる夫婦が見たものは何だったのか、終盤で目にする物語の起点とも言える箪笥の中身は本物だったのかという疑問は残る。しかしこれはホラーである。ミステリーやサスペンスではない。ある程度の整合性があれば謎を残していても許される。ラストカットは止めなくてよかった気もするが、あれはあれで不気味さや後悔といったものを演出しているのだろう。だが間違いなく丁寧に作り込まれた良い映画だった。

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 洋画中心。最低でも週に一本はレビューするつもりで定期更新。※現在は創作や仕事に集中するため、ほぼ停止中。

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